第10話 迷宮生活1日目前編:亜人と獣人
軍議が終わり、僕はリリアに紹介された個室を管理しているモグル族の女性に個室へ案内された。
「お部屋はこちらになりまっすね。ツルギさんは人間なので通常サイズのお部屋となっておりまっす」
「人間サイズ以外の部屋もあるんですか?」
「そうですっね。大型の種族の方も居ますので何種類か部屋のサイズが有りまっす」
今僕の前で部屋の説明をしているのが、モグル族のコルセアさん。
コッセルさんの奥さんらしいのだが、正直服装以外でコッセルさんと見分けが付かない。
体毛も同じ灰色、体格もほぼ変わらず、服装がコッセルさんが作業服だったのに対してコルセアさんは黄色いエプロンドレスを着ている。
若干、声が高い気もするがほほ同じだ。慣れれば聞き分けられるかもしれないが、それは、まだまだ先になりそうだ。
そして、このコルセアさん中々有能らしく此の遺跡の個人個室の管理を全て任されておりコッセルさんへの仕事の受付も担当しているらしい。
「思ってたよりは広いですね。家具なんかは僕のほうで勝手に追加しても大丈夫ですか?」
僕はここが地下の限定された空間なので、てっきり3畳か4畳位の部屋だと思っていたのだがこの部屋は6畳半ほどの広さが有る
「問題ないっす。皆さん寝具しかないのでご自分で家具を作られて持ち込んでるっす」
何故コルセアさんにそんな事を聞いたかは、この部屋の配置されている家具がベットしかないからだ。
部屋の広さは6畳半ほど、扉は木製、壁は3層の黒石壁である。もちろん窓もない。
扉から見て、部屋の右端に木製の簡素なベットが在るのみで他には何もないのだ。
普段過ごすのに自室がこれでは落ち付けない。
せめて、椅子とテーブルくらいは欲しいものである。
「皆さん、自作されているんですか?」
「そうっすね。流石に城から逃げる時に家具は持ち出せませんでしたからね。ベット以外は皆さんに自分で作って貰ってまっす」
「なるほど。そうすると、ベットはこちらに来てからモグル族さんが作った訳ですか?」
「そうっす。ベットはどうしても欲しいという皆さんのご要望で急遽作ったっす。でも、他の物は私等も忙しいので作って上げられないっす」
「分りました。必要な物は自分で調達しなければいけない訳ですね。で、木材は勝手に使っても良いんですか?」
「今は駄目っす。木材が切れ掛かっているので」
ああ、そういえば軍議で資材切れを起こしているとか言ってたな。
「ふむ、じゃあしばらく我慢するしかないか」
「申し訳ないけど我慢してくださいっす。あと、隣人が五月蝿れかもしれませんがそれも我慢してくださいっす」
「隣人が五月蝿い?」
「この部屋の周りの部屋は全て通常サイズなので、獣人が多いっす」
「獣人さん達は五月蝿いものなんですか?」
「そうっすね。今は皆さん鬱憤が溜まっている様なので遠吠えの苦情が結構来ているっす」
「そ、そうですか」
遠吠えって犬かよ……
まぁ、此処の状況も考えると、贅沢も言ってられないな。
騒音くらいは我慢しよう。
「まぁ、分りました。案内ありがとうございました」
「じゃあ何か有ったら、受付の方に来て欲しいっす」
そう言ってコルセアさんは部屋を出て行った。
そして、僕はコルセアさんが出て行ったのを確認してミッチーに話しかけた。
「さて、ミッチー聞きたいことがある」
「なんでしょう?ご主人様」
「お前の機能を詳細に教えて欲しい」
僕はまだミッチーの能力を詳しく聞いてない。
これは、僕の生命線に繋がる事だ。
明日から前線に立つのならば詳しく聞いておかなければならない。
「駄目です」
ミッチーに一言で僕の要請をあっさり拒絶された。
少しショックだ。
何か、理由が有っての事だと思うが……
「何故だ?詳しく聞かないと戦うに戦えないぞ」
「今ご主人様の体は限界寸前です。直ぐにお休みしてください」
「確かに体は凄いダルイがまだ大丈夫だ。説明を頼む」
「駄目です。ご主人様の命を守るのが私の最優先事項ですので、拒否します」
「む?そんなに今の僕の状況は良くないのか?」
「良くないですね。肉体のみならず魂にダメージが出ています」
「魂!?」
「はい。ダメージ自体は軽度ですが放置すると廃人になる恐れがあります。それに加え私は現在、吸収したマナ結晶の成分分析中です。あまり余力はありませんので後日でお願いします」
さすがに廃人は勘弁してほしい。
今回は諦めて休もう。
「分った。じゃあ明日には教えて貰う形で良いか?」
「明日以降にご主人様の都合の良い時間に説明させていただきます」
「仕方ない寝るか……おやすみミッチー」
「おやすみなさい。ご主人様」
僕はベットに横になると一瞬で意識が闇に落ちた。
夜中に眠っていると、聞いた事が有る様な声で「うるさいにゃあ!犬野郎共、遠吠えするなら外でやるにゃあああ」とか聞こえて目が覚めてしまった。
お前の方が五月蝿いと突っ込みに行きたいが、眠くて眠くて仕方がないので無視して毛布を被って眠った。
その後は安眠できた。
迷宮生活1日目――――――――
「……きてください。朝です。起きてください朝ですよー」
なんか、凄い勢いで体を揺すられている。
姉にしては珍しい起こし方だ。
いつもの姉なら僕に声を掛けて起きなければ無言で踵が拳が腹に落ちてくるはずだ。
だが、今日の揺すって起こすというのも中々効く。
揺する力が強すぎて脳震盪を起こしそうだ。
「姉さん分ったからそんなに、揺すらないで今起きる」
眠気を振り切って無理矢理起きる。
が、目の前には姉さんではなく東洋系の美人が困り顔で僕を見ていた。
「…………おはようございます。メリジューヌさん」
「おはようございます。ツルギ様」
どうやら、姉とメリジューヌさんを間違えてしまったらしい。
凄く恥ずかしい。
しかし、何故メリジューヌさんが僕をの部屋に居て、尚且つ僕を起こすという暴挙に出たのだろう。
要らぬ恥をかいてしまった。
「メリジューヌさんは、なんで僕を起こしに来ているんです?」
「姫様より起床時間になりましたらツルギ様をお尋ねし、議場にご案内せよ。との命を昨日の夜に受けておりましたので」
「リリアが?何の用だ?」
「ツルギ様に地図をお渡ししたいそうです」
「あぁ、僕が頼んでいたヤツか……」
正直、この事態になった恨み言をリリアにぶちまけてやりたい気持ちだが、僕がお願いした物をいち早く届けようとした結果この事態が発生したのだろう。
恨み言を言える筋ではないな。
「分りました。直ぐ行きます。その前に何処かで顔を洗える所は有りますか?」
「はい、では、炊事場に水を引いていますのでそちらへご案内します」
この遺跡に炊事場も有るのか。
流石に1ヶ月も暮らしているだけあって、色々と用意はされているな。
ちなみにトイレも地下水を利用した水洗式があり昨日は驚いた。
「では、すみませんがメリジューヌさん案内してください」
「はい」
その後僕は、眠い体を無理矢理起こしメリジューヌさんの後に続いた。
メリジューヌさんに案内してもらい、炊事場で顔洗った僕はリリアの居る議場に向かった。
「遅いぞ。ツルギ何をしておった」
「ごめん、寝起きだったんでボーッとしながら顔を洗ったりしていたら遅れた」
「む、汝は朝は弱い方か?」
「うん、少しね」
本当は凄く弱いが見栄を張って少しと言ったらメリジューヌさんから講義の声が上がった。
「少しではありませんでした。私が何度も声を、お掛けしたのに起きてくださらないのでミッチーさんに許可を取って体を揺すらせていただきました」
あ、そうなのか疲れて熟睡してたからな僕。
そんな経緯が有ったとは知らなかった。
そういえば、なんか僕を起こした時にメリジューヌさん困り顔だったしな。
それに今も同じような顔をしている。
「あーメリジューヌさんごめんね。昨日疲れてたのも有るし本当言うと朝は凄く弱いんだ」
「いえ、貴重なものを見せていただきましたのでそれと帳消しでいいです」
「む?貴重なもの?」
「ツルギさまは、普段目つきが悪いですが、とても寝顔は可愛らしいのですね」
ニッコリと笑ってそんなことを言われた。
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
「ふむ、それは我も今度見に行くとしよう」
と、リリアまで何か悪戯っ子みたいな笑みで僕を見てくる。
「あー分った。僕が悪かった次からはちゃんと起きるから勘弁してくれ」
「ふふん、では許してやる。では真面目な話に戻ろう」
リリアは僕をからかうのに満足したのか、笑みを消して真面目な顔で今日の僕の任務を告げる
「ツルギ=タチバナ、汝に我よりこの地図3枚を与える。本日は昼まで最終防衛線任務に付き、午後からは与えた地図を確認しながら1層と2層の哨戒任務に付くのだ」
「確かに地図は受け取った。午後の哨戒任務は地図の確認も兼ねて勝手に動いて良いか?」
「良かろう、午後からの任務は好きに動くがよい。午前の任務は現地にオーカスが居るのでオーカスの命に従うのだ」
「OK、防衛線には直ぐに向かった方が良いか?」
「そうだな直ぐに向かうがよい。最終防衛線は2層に向かう階段を上がって直ぐの大部屋だ」
「じゃあ早速行くよ。地図有難う」
「うむ、急ぎで用意してやったのだ。活用せよ」
メリジューヌさんとリリアに別れの挨拶をして僕は2層に向かった。
迷宮生活1日目午前――――――――2層最終防衛線大部屋
2層最終防衛線についた僕はまずリリアから貰った地図を見て、現在の位置情報を確認しながら目の前の部屋を見ている。
防衛線の部屋は戦えない魔族達が避難している広間ほどでは無いが、結構な広さの部屋だった。
広さを例えるならば、観光地の温泉宿の宴会場ほどだろうか?以前家族で行った温泉宿の宴会場がこの位の広さだったと記憶している。
防衛線の部屋からから伸びている通路は3本、まず今僕が来た3層への階段が有る通路が部屋の南側から伸びていて、その対角線上の北側には1層へ向かう通路が伸びている。
最後に兵達が詰め所に使っている小部屋への通路が部屋の西南側、つまり部屋の左下にある。
僕は地図に従い、兵達の居る詰め所に向かった。
オーカスさんを探す為だ。
詰め所は何個かの丸テーブルと椅子が置かれており、広さは10畳ほどだ。
部屋の中は魔族達がひしめき合っていた。
そして、部屋の一番奥に大きめの執務机と椅子が有り、その椅子の上でオーカスさんが腕を組んで座っていた。
「オーカスさんおはようございます。リリアに言われてこちらに来ました。」
「おう、参られたかツルギ殿。丁度今、午前担当の者達の集合時間でしてな、良いタイミングなのでツルギ殿の紹介も行なってしまいましょう」
「はい、お願いします」
オーカスさんは立ち上がると、近くに居たオークさんに集合命令を伝えた。
命令を受けたオークさんは部屋から出て行き、しばらくすると魔族達が更に集まってきた。
集まった人員も様々で獣人やオーク、それに人間と見た目が変わらない様な者も居る。
ここに人間が居るのは不自然なので彼らも魔族なのだろう。
詰め所は現在、昔やったダンジョンを潜るゲームのモンスターハウスの様な状態になっている。
部屋の様子を確認した、オーカスさんは集まった魔族達の向かいに立ち僕の紹介を始めた。
「こちらが、姫様が異界より我輩達を助ける為に召喚した人間。ツルギ=タチバナ殿だ、皆人間だからといって粗相の無い様にするのだぞ」
集まった魔族達の反応は様々だ。
まず、僕に敵意の目線を送る者が多い、次に多いのは何か冷たい眼差し、後は関心無さそうにしているか、こちらを見ていない者も居る。
オーカスさんは、そんな様子を見て更に一言付け足した。
「うむ諸君、ツルギ殿が人間だから信用できぬのは分るがな。ツルギ殿は昨日我等が取り逃がした冒険者共を姫様を守る為に5人全て屠っておる。故に彼奴らの味方ではない」
まぁ、実際の所は僕は3人無力化しただけで止めは全てメリジューヌさんなんだけどね。
態々オーカスさんが僕のことを紹介してくれているんだ。茶々は入れないでおく。
詰め所の面々は今のオーカスさんの発言で様々に思うことがあるようで、ガヤガヤと何か周囲の者達と話しているが半分以上は僕のことを胡散臭そうに見ている。
それを見たオーカスさんは更に一言発した。
「諸君は人間がその様な事を出来ないと思って疑うのも分る。だがな、諸君等の疑念を打ち払う事実が有る。昨日メリジューヌ殿が我等を援護した後に3層で負傷をしたという話を耳に挟んだ者も居ると思う。その怪我を負わせたのがこちらのツルギ殿だ。しかも1体1の決闘でメリジューヌ殿を打ち倒しているのだ。」
決闘ってそんな、大げさな物ではなく勘違いから発生した行き違いが、戦闘に発生しただけなのだが………………まぁ、良く考えてみると勘違いで戦闘になったなんて言ったらメリジューヌさんの立つ瀬が無いからこれで良いのか?
そんな事をぼんやりと考えていると部屋の空気が変わった。
ガヤガヤとしてた声は止まり、代わりにボソボソと僕の方を見ながら周囲の者と小声で話し始めた。
何を話しているかは旨く聞こえないが、僕に向けられる視線は変化した。
まず、ほとんどの男性魔族が僕を化け物を見るような眼で見てくる。ほんの一部は何か尊敬の眼差しみたいなものが有る…………が、それは良い。
問題は女性魔族達だ
ほとんどが僕を恐怖の眼差しで見てくる。泣きそうになっている娘すら居る。後は軽蔑の眼差で見てくる者もちらほらと見かける。
あれれー?なんか男性陣は百歩譲って、良いとしても女性陣には僕凄く勘違いされてないか?
なんか、今後の職場の人間関係が心配になってきたぞ。
「うむ、皆良く分ったようだな。ツルギ殿は2,3日この防衛線を見た後にグシオスの部隊を率いて遊撃を行なわれる予定だ。状況次第では此処の防衛指揮もされる可能性も在り得る、再度言うが皆粗相の無い様にするのだぞ。では解散!各自任務を継続せよ!」
解散の言葉を聞いて集まっていた魔族達は足早に詰め所を出て行った。
しかし、僕の主任務が遊撃というのは初耳だ。
いつ決まったのだろう?
もしかすると、グシオスさんとやらが元々遊撃部隊を率いてたのでそれを僕が引き継ぐのだろうか?
僕が色々と、困惑しているとオーカスさんが話し掛けてきた。
「ツルギ殿、我輩が今しっかりと念を押してましたので、大丈夫だとは思いますがツルギ殿に対して不逞を働く輩が居ましたら直ぐに我輩にお伝えくだされ」
「あ、ありがとうございます」
念を押し過ぎて誰も僕に近づかない気もするが、多分僕の事を心配してやってくれた事なので素直にお礼は述べておいた。
「何、礼には及びません。困った事があったらなんでも相談ください」
相談か……先程の事をこの機会に聞いておくか。
「では、困った事ではないのですが幾つか質問させて貰って良いですか?」
「なんですかな?なんでもお答えしますぞ」
任せとけという感じで、オーカスさんは甲冑の胸を叩いて大きく頷いた。
「僕が遊撃を担当するという話は初耳だったのですが、これはリリアが決めたことですか?」
「む、ツルギ殿は姫様からグシオスの部隊の性質を伺ってないのでありますか?」
「性質?いえ、そんな事は何も」
「なんと!それはまずい。あの部隊はグシオス以外少々性質の悪い癖がありましてな。それが原因で現在遊撃と偵察の専門部隊になっているのでありますよ」
「えぇ……そんな事は聞いてませんよ。どんな癖なんですか?それは」
まずいぞこれは、僕は単に厄介者の部隊を押し付けられただけかもしれない。
「グシオスの部隊は全員コボルトなので……おっと、ツルギ殿はコボルトをご存知ですかな?」
「名前とそれらしき姿は知っていますが知らないと言って良いレベルの認識です」
「では、奴等の事を一から説明した方がよろしいですかな?」
「はい。お願いします」
「コボルトは犬頭に人型の犬の体を持つ種族ですな。獣人のように見えますが区分としては亜人になります」
説明だけだと獣人のような気がするが、亜人なのか?
今後の事を考えても、魔族達の事をもっと知っておく必要が有る。
今それも聞いてしまうか。
「すみません。僕は異界から来たので亜人と獣人の区別が分らないのですが、そこも説明頂けますか?」
「おぁそうでしたな。亜人は太古の昔にこの世界に渡ってきた妖精や精霊の末裔だとされております。元は肉体を持っていなかったのですが、この世界で生きる為にこの世界の生物を元に肉体を得たと云われていますな」
妖精や精霊か……そういやゴブリンやコボルトは元が妖精だと何かで見た記憶がある。
「なるほど。コボルト達の原点が妖精だという話は僕の世界でも有ったかもしれません」
「ほう、異界にもコボルトは居るのですかな?」
「いいえ、もう伝承に残っているのみです。僕の元の世界では人間以外の文明を持つ種族は現在存在しないと言われています」
「ふむ。まぁ我輩達の世界も人間が一番支配領域も人口も多いですからな」
「人間って色々な環境に対しての適用能力が高いらしいですからね」
確かドキュメンタリー番組で狼に育てられた少女の話をしてた時にそんな話をしていたとおもう。
「ほう!そうなのですか?確かに奴等の繁殖力は……っと話が脱線してしまいましたな、年を取ると余計な話が多くなっていけませんな」
見た目では分らなかったけどオーカスさんは結構お歳なのか
髭は白いけど、この世界の住人は変わった色の体毛の人が多いから、僕の頭の中で白髪=年配という式には至らなかった。
しかし、人間が一番勢力を持っているという情報は得られたが、本題にの獣人部分についてまだ聞けていない。
また、話が脱線する前に聞いてしまおう
「いえ、勉強になりました有難う御座います。それでは、獣人についても教えていただいても宜しいですか?」
「そうでしたな、獣人は人と魔族から枝分かれした種族でしてな。かつて、魔族や人にとって暗黒時代と呼ばれていた過酷な時代があったのですが、その時代を生き抜く為に進化もしくは魔力で肉体改造した者達の末裔だと云われていますな」
「なるほど、獣人と亜人は元になった種族が違うわけですね」
「でありますな、他に質問がなければコボルト達の説明に移りますがよろしいですかな?」
「はい、コボルトの説明に移っていただいて結構です」
「コボルト達は、前述したとおり犬のような亜人で性質も犬に近いのであります。群れでの行動を得意とし、人間より持久力と速度に優れているのであります。また、元は土属性の妖精か精霊だったらしく、その特質を利用し、地中の鉱物や金を発見するのを得意としていますな」
オーカスさんの話を聞いていると、とても優秀な種族なのが分る。
人間よりも早いなら、僕の必要としている速度も有る様だし、持久力に優れるなら尚更良い。
迷宮拡張の際に金と鉱石の有る場所を事前に探ってもらって、それにあわせて通路を掘れば一財産築けるかもしれない。
「とても、優秀な種族なんですね。」
「うむ、良い所から列挙しましたからなそう聞こえたでしょう。」
「では悪い所もあるんですか?」
「コボルト達は犬の性質が強いので夜になると遠吠えを代表とする犬のような行動ををしますな。」
コルセアさんが言ってた遠吠えの犯人はコボルト達の事だったのだろうか?
確か、コルセアさんは獣人達と言っていた筈だが……まぁ、余りその手の区分を気にしない人だったのかもしれない。
「まぁ、それ位ならば許容範囲では?種族ごとに特性はまぁ、皆さん有りそうですし」
「まだ、問題が有るのでありますよ。これが一番の問題なのでありますが、若い固体は馬鹿が多いのです。……そして、グシオスの部隊はグシオス以外は皆、若いコボルト達ばかりでしてな」
オーカスさんは眉間に皺を寄せて、僕にコボルト達がストレートに馬鹿だと言う事を告げた。
馬鹿ってのは何だろうな。
もしかして、普通の犬とかと同じで人間の言葉が分らないとかじゃないだろうな?
流石に言葉が分らない相手に指揮は無理だぞ。僕は唯でさえ指揮官初心者なのに……
これは、流石にどの様な形で馬鹿なのか聞かなければならないな。
意思疎通が出来ないのでは、文字通り話にならない
「馬鹿というと、知能レベルが低いとかですか?言葉が通じないとかだと、流石に僕じゃちょっと……」
「確かに彼奴らは馬鹿なので知能はそう高くは有りませんが許容レベルであります。馬鹿ですが言葉も通じますな」
「そうすると、何が馬鹿なんですか?」
あまり、馬鹿馬鹿言うのもコボルト達に悪い気もするが、オーカスさんが短的に馬鹿としか言わないのだから仕方がない。
多分オーカスさんはコボルトが嫌いなのは間違いないな……
「そうですな色々彼奴らの馬鹿な所は有るのですが、指揮をする上で扱いに困る馬鹿さ加減を上げますと、若いコボルトは堪え性が無く一つの所にジッとしていられない所がまず一つ目ですな。命令を無視して勝手に突撃して痛い目に合うの等しょっちゅうですな」
なるほど、遊撃や偵察に回されるのは定点防衛の命令を勝手に無視するのが理由か。
これが理由でオーカスさんはコボルトを嫌っているのかもしれない。
「それで、遊撃と偵察の専属と言う事ですか?」
「ですな。それに加え。もう一つ軍隊行動をする上で致命的な問題がありましてな。若いコボルトは無駄に上官に喧嘩を売り自分が群れのボスになろうとする本能のようなものに抗えない様で、一度負けるまで上官に敵意むき出しになるのです」
オーカスさんの話を聞いた僕は何故か頭の中で高校デビューしたてのヤンキーが番長に挑む姿がイメージされた。
「それ、もしかして僕も喧嘩を売られますか?」
「間違いなく、売られますな。まぁツルギ殿の強さなら問題ないでしょう。ハッハッハッ」
笑いながらオーカスさんが僕の肩をポンポン叩いてきてそんな事を言った。
指揮初心者に普通そんな問題児達預けるかね?普通。
頭が痛くなってきた。
まぁ、やるだけやるしか無いんだろうなぁ。もし、駄目だったら他の扱いやすそうな兵隊を回して貰おう。
もう、深く考えても無駄な気がしてきた。
リリアも、せめて事前にこの事を伝えてくれれば良いのに……
しかし、部下になるコボルト達に会う前に思い悩んでも仕方がない。
コボルト達の事は一旦切り上げて、この防衛線で僕が何をやれば良いか聞いてみるか。
「オーカスさん丁寧なご説明有難うございました。指揮の参考にしてみます」
「お役に立てたようで何よりであります」
「それでもう一つ質問なのですが、僕はこの防衛線で今日は何をやれば良いですか?」
「おぉ、そうでしたな。初日なので最終防衛線の見張り部隊に混ざって貰い、防衛線の様子を把握していただくという形で如何ですかな?」
「分りました。では、僕はどちらの方に向かえば良いですか?」
「一番戦闘がある最前列のバリケード付近がいいでしょうな。案内致しましょう」
そう言ってオーカスさんは、詰め所の出口に歩いて行くので僕もそれに付き従った。
迷宮生活一日目午前――――――――防衛線部屋バリケード前
今、僕はオーカスさんに案内された最前列のバリケード前に佇んでいる。
敵が来ない限りこの状態で見張りをする仕事らしいのだが、短的に今の心情を述べると……暇だ!
やる事がない……最初は物珍しくて、バリケードの構造を観察したりもしていた。
このバリケードは木製で僕の身長の2倍ほど(ちなみに僕の身長は175cmだ)の高さで天井近くまで聳え立っており横幅は2メートルほど有る。かなりの大きさの物だ。
床に打ち付けてあるのかしっかりと固定されており、バリケードの中央には飛び道具を打つ為に使う射撃穴と、バリケード越しに反対側見る為の開閉可能な出窓の様な物迄有る。
バリケードは部屋全体に複数並べてあり、防衛戦用の盾と進路妨害を兼ねた配置になっている。
しかし、バリケード自体は物珍しかったが、全て同じ物なので見飽きてしまった。
次にリリアから貰った地図を熟読したが、地図自体は要所の説明とこの遺跡の構造を書いているだけなので、大した時間潰しにもならなかった。
この開いた時間を利用してミッチーの機能説明を受けようと思えば、マナ結晶の分析が難航しているらしく「駄目です」とまた一言で拒否された。
ミッチーは、もうちょっと僕に優しくしてくれても良いと思う。
仕方ないので一緒に見張りをしている魔族達と親睦を深めようかと思ったが、今朝のオーカスさんの紹介のせいで僕に近寄ろうとする魔族達は皆無である。
また僕が近づこうとするとススッと距離を取られてしまう。
逃げていく相手を無理矢理捕まえるわけにも行かず、ボーッと佇んでる現在の僕の状態に至るわけだ。
暇すぎる!思えば、こちらに来るまでこうやって何もせずにボーッっとしている時間は余り無かった。
もしそんな時が有っても、暇すぎて何か暇つぶしを見つけていた。
若いコボルト達の気持ちが少し理解してしまった。
いっそ、もう2層の探索に行こうか?
敵が来ると各階に仕掛けられた警報装置が知らせてくれるらしいのだが、その気配もまったくない。
ならば、無理に此処で見張っている必要はないだろう。
僕が2層の探索に出ても問題ないはずだ。
コボルト達と同じで堪えしょうがない、というレッテルが張られてしまう可能性は有るが、この何もしない時間には耐えられない!探索に行こう!
そうと、決まれば一度オーカスさんに持ち場を離れる許可を貰いに行こう。
僕は詰め所のオーカスさんに持ち場を離れる許可を取る為に移動しようとした、その時だった。
ズズズッと何か重い物を引き摺る音が遠くから聞こえた。
音は背後から聞こえてくる。
そして、段々とこちらに近づいてきているようで、それに伴い後方担当の女性魔族達の声が聞こえだした。
女性魔族達の声は「大丈夫?」「酷いことされてない?」「そんな事やらされてるの?可哀想に」等々、誰かを心配してる内容の声が聞こえてくる。
更に音の発生源はこちらに近づいてきているらしく、音が近づくのに比例して女性魔族の心配の声が増えてくる。
背後のバリケードが邪魔で何が起こっているのか分らないがどうやら、この音を出している対象を心配しているらしい。
そして、その対象らしき者は「問題ありません」「良くしてもらっています」「私が好きでやっているんです」と返答している。というかこの声は……
音が段々近づいてきた。そして背後のバリケードの端から見知った顔が出て来た。
メリジューヌさんだ。
やった話し相手が来た!良かったこれでコボルト達の仲間にならずに済む!
そんなコボルト達に失礼な事を思いつつ、こちらに向かってくるメリジューヌさんを見ると左手には人間が、丸ごと一人分入りそうな大きな皮袋を持って引き摺っている。多分コレが音の発生源だろう。
そして右手にはトレイを持っており、その上にはティーポットらしき物と何か包みが乗っている。
どうやら、メリジューヌさんもこちらを認識したらしく僕に声をかけてきた。
「ツルギ様、昨日の戦利品とお昼をお持ちしました」
とても良い笑顔で僕にそう言った。




