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「あ、そうか」
確かに黒い壁なんか見てたって意味がない。よしんばたまたまそんな気分になって人影を見かけたって、見間違いとしか思えないだろう。誰がこんなとこをうろついていると思う? ついこないだ往生したばかりの、あの世に行きそこねた親戚のじいさんか?
行く手で路線が二手に分かれ、片方は引き続きまっすぐ、もう片方は左手に折れている。ホームレスが引き込み線の方へ曲がったので、僕もそれにならった。
電車が一本、まるまる入れるだけの奥行きがあるだろうか。突き当たりで線路は急すぎるジャンプ台みたいに曲がって途切れており、バツのマークがついたプレートが付いている。行き止まりって印だ。
そこは小さな駅のようなスペースになっていて、すぐ向こうに非常口という文字が灯ったスチールのドアがあった。
「ここは緊急時用の引き込み線さ。まあ、俺の知る限り一度も使われた事はないけどな。ほら、あれだ」
非常灯の光に照らされ、壁際にもたれ掛かるようにしてひっそりと建つバラックが見えた。有り合わせの材料で作られているらしく、ひどくちぐはぐだ。外から見る限り、中の広さは六畳ってとこだろう。
線は一度も使われた事はないと言いながらも、一応電車が入ってきてもぶつからない場所に作られている。さすが半ば野生の生活をしているだけあって、危機管理意識が高い。
どこから拾ってきたのか、その秘密基地にはちゃんと木のドアがついていた。それを開き、スイッチを押すパチンという音がすると、天井の蛍光灯が点いた。
「おお」
思わず感嘆の声が漏れた。外見はスモーキーマウンテンのふもとに建っててもおかしくない感じだが、中身はちょっとしたもんだ。床や壁はちゃんとベニヤの板張りになってるし、換気扇まである(しかし、どこから拾って来るんだ?)。
奥の机は両側に積んだビールケースに板を渡して置いただけのものだ。その上には彫刻刀並びにピンセットや接着剤などの様々な道具が並び、作りかけのボトルシップが一つ、台座に乗っている。
そして壁だ。手作りの台座が設えてあり、あまたのボトルシップがかけてあった。現代的なものもあれば中世の帆船もあり、時にはロボットや塔みたいなものまであった。習作だろうか。
外から見たよりも居心地は良さそうだが、蒸し暑さだけはどうにもならない。僕が手の甲で汗を拭っていると、気を効かせたホームレスは換気扇を入れ、扇風機のスイッチをオンにしてくれた。もっとも、この室内の空気と淀んだ地下構内の空気が入れ替わるだけだから、あんまり爽やかな感じじゃない。
「まあ、座れ」




