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と、彼は言ったものの、椅子は机にあるパイプ椅子だけだ。彼は机の隣にある木箱を見やると、それに蓋をした。中に三つくらい空のボトルが見えたところを見ると、拾い集めてきたそれを入れておく為のものらしい。
僕は木箱に、ホームレスは椅子に向かい合って座った。
「空気が悪くて悪いな。まあ、そのうちどっかからエアコン拾って来るから、それまでの辛抱さ」
「全部拾って来たの?」
「今の世の中、地面に落ちてないものはないんだぜ。現代人は何でもみんな捨てちまう」
彼は振り返り、机の上から作りかけのボトルシップをそっと手に取った。いまだ骨格のみの船が中に浮かんでいる。
「材料はもちろん、瓶も接着剤も塗料もそうだ。ちょっとずつ木片を削り出して作るんだ。今までにもう五十本は作ったかな」
「それで……えっと……」
何から聞いたらいいんだろう。僕が言葉を詰まらせると、ボトル越しにホームレスはこちらを見た。ガラス越しの彼の顔は縦長に伸びて歪んで見えた。
「もう十年も前になるか。俺が二十代も半ば頃だ」
ま、まだ三十代だったのか? びっくりしたけど、話の腰を折りたくなかったので、口を閉じていた。
「いきなり中に入れるボトルが作れたわけじゃあない。俺の師匠に当たる男に習ってな。まあ、このへんは端折るぜ。お前の疑問、つまりそのガキ……なんつったか?」
「津田海里」
「海里ちゃんが今、どうなってるかと言うとだな、お前が心配してるように、船ごと消えてなくなったりはしてない。あの空間に今もいるさ、船ごとな」
安堵に体が溶けそうになった。僕が心からほっとして溜め息をつくと、彼は続けた。
「ただ、瓶が壊れちまうと帰るのが難しくなる。修理は出来るが時間がかかるぜ」
「どのくらい?」
「もう一度船をバラバラにして瓶の中に入れて組み立て直すんだ。俺もなあ、結構忙しいし、半月くらいかかるか。というか……」
瓶を下ろし、ホームレスは直にこっちを見た。
「津田海里が「こっちの世界の瓶」、だからお前の家が入ってる瓶を触ってる時はあったか?」
「あったよ。これあんたの家、って聞かれた」




