9-2
「何やってんだ、早く来い。蓋戻しとけよ」
「何てこった」
思わず呟き、後を追う。まず爪先で中を探り、鉄のはしごらしきものを探り当てると、それを伝って身を中に押し込んだ。頭がすっぽり穴の中に隠れてから、両手で円盤を再度ずらして閉めようと努力する。想像以上に重く、指が痛くなったが、何とかぴったり収まってくれた。
最初は真っ暗で何も見えなかったが、だんだん目が慣れてきた。下の方から光が漏れている。きっと下水道に出るんだと思っていたが、そうじゃなかった。穴を降り、床に足がついた時、そこに待っていたのは通路の突き当たりだった。
悪臭はしないものの、淀んだ空気が底に溜まっている。僕は湿った臭いに思わず鼻をひくつかせた。あたりにはむっとする熱気が満ちている。
細い通路を抜けると、まもなく広い通路に出た。黒くくすんだ殺風景なコンクリートで出来ていて、柱を挟んで向こうにも同じ通路がある。そしてもちろん、地面には砂利が敷かれ、二本の鉄骨が渡してあった。
「地下鉄?」
暗闇に点々と続く青白い灯りを眺めて僕が言うと、ホームレスは頷いた。
「そうだ。気を付けろ、轢かれたらミンチになっちまうぞ」
「何でこんなとこに……」
「見た目よりいいとこなんだぜ。雨が来ねえのはもちろん、さっきみたいなチンピラとか、何より警察がいねえ。最高の御殿さ」
得意げに背中で語る彼を、僕はさっきの憧れが間違いのような気がしてきた。どれほどの利点があったって、こんなとこで暮らそうと考える奴は正気じゃない。
電車が来た場合に備え、僕とホームレスは壁際に寄って歩いた。一度轟音を上げながら電車がすぐ横を通り過ぎた時は、その音と衝撃波に吹っ飛ばされそうになったもんだ。手を伸ばせば届く距離を、巨大な鉄の塊が猛スピードで通り過ぎて行くんだぞ。
ホームレスはと言うと慣れたもので、背中を壁にくっつけてじっとしている。
電車が行ってしまうと、僕は大きくため息をついた。毎日こんな思いをしなくちゃ愛しの我が家にたどり着けないのか?
「電車に乗ってる人に見られないの?」
「お前、地下鉄乗ってる時に窓の外を眺めるか?」




