8-11
ホームレスは顔面を両手で押さえて呻いているそいつの所へ行くと、ヌンチャク……今気付いたけれど、砂を詰めた五百ミリペットボトルを二つ繋いだだけのものを肩に引っかけた。
「てめえらだろ、こないだ俺んちでキャンプファイヤーしてくれたのは」
完全に戦意を喪失しているそいつは完全に怯えきっており、慌てて首を振った。動きにあわせて指の間から血がこぼれる。
「ホワァ!」
しかしホームレスが威嚇を込めて叫び、ちょっとヌンチャクを振り回す素振りを見せると、すぐに口を割った。
「俺じゃない! そこのデブだよ!」
「そうかい、そうかい。そりゃ良かった。携帯出せ」
「え?」
「まったく、もう一度殴られねえと頭の巡りが良くならねえか? ああ? 携帯だよ、持ってんだろ!」
震える手で差し出された携帯を手に取ると、ホームレスは三回だけボタンをプッシュした。
「あー、どうも。誰かがぶっ倒れてるぜ。喧嘩したみたいだな。場所は……」
住所を伝えると名乗らずに電話を切り、携帯を投げ捨てた。
「救急車?」
「まさか、あのくらいで死ぬかよ。さあ、俺らはいない方が都合がいい。行こうぜ」
僕らは慌ただしく空き地を出た。僕は自転車に飛び乗り、ホームレスは走った。少し行ったところで彼も路地の隅に隠してあった自転車に飛び乗り、二人連れ立って走り始めた。
大通りに出ると、途中、パトランプを点灯させるパトカーとすれ違ったが、こちらには見向きもしなかった。




