8-10
いや、今思っても、何であんな動きが出来たのか不思議でならない。僕は自分でも何が何だかわからないまま、デブの足に飛びついていた。
無様なフットボールタックルではあったが、奴のバランスを崩す事くらいは出来た。片足をいきなりその場に釘付けにされ、奴が振り返る。
何か喚く声が聞こえたが、定かでない。奴が憤怒に染まった顔で振り返り、手にしたものを僕に振り下ろそうとした瞬間だ。スローモーションも走馬燈を見る暇もなく、あの男がその場でくるりと一回転した。
片足を上げた状態でもう片足は地面に付けたまま、靴底で砂地をえぐるようにスピンすると、浮かせた足の靴底でデブの横顔を蹴り上げた。ローリングソバットというやつだ。
折れた歯がいくつか宙を舞うのが見えたものの、すぐにそれはこちらに向かって大木が傾ぐごとく倒れてきたデブの体に覆われた。
「ホワァアアア……」
例の残心のつもりなのだろう、男は体を小刻みに震わせ、勝利の余韻に浸った。だけどこっちはそれどころじゃない。不快な汗の臭いをたっぷり含んだ肉の塊に潰されそうになっているというのに。
「潰れる、潰れる!」
「おっと、こりゃすまん」
男は……いや、もうみんなそろそろ気付いていると思うけれど、僕の探していたホームレスは、デブの下から僕を引っ張り出してくれた。
彼は僕の服の砂埃を払ってくれると、ニッと歯を剥いた。それから地面に落ちていた折り畳みナイフを拾い上げて見せる。あのデブが持ってた武器の正体だとわかると、僕はゾッとした。
「やるじゃねえか。助かったぜ」
「いや……僕こそ。助けてくれてありがとう」
「いや、実を言うと絡まれてんのが兄ちゃんだとはギリギリまで気付かなくってな。俺はこいつらに用があったんだ」
「え?」
ホームレスが一蹴した三人はみな一様にひっくり返っていたが、そのうちの一人だけまだ意識を繋ぎ止めていた。二番目に顔面にヌンチャクを叩き込まれたあいつだ。
「ちょっと待ってな」




