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「ホワッタァ!」
その時の湿った音をどう表現したものか。肉が潰れ、歯か鼻の頭の骨が折れる、くぐもった音と乾いた音が同時にした。いや、それよりも、それと同時かあるいは寸前にした怪鳥声は?
吹き出した血の軌跡を描いてそいつが真後ろに倒れると、ようやく金髪が振り返った。僕もまた、何が起きたのか遅ばせながら理解出来た。
空き地の暗闇の中に、新たな人影があった。背が高く、やや痩せているが、燃え盛るような迫力を全身から放っている。
彼は手の中に何か武器を持っていた。二つの棒状のものを紐か何かで繋いだもので、ヌンチャクに見える。実際、彼はそれをブルース・リーのように振り回し、肩越しに脇の下、それから背中越しに逆の腕に回して見せた。残像をかろうじて捕らえられるという、凄まじい速度だ。カンフー映画でお馴染みの、空を激しくかき乱す音がする。
「ホォォウワァァ」
金髪は何とかヌンチャクの動きを捕らえようとしたのだろう、ボクサーのように身構えはしたものの、結局はその勢いと寄声に気圧されて一歩ずつ下がってゆく。
「ホワァッ!」
相手が一際大きな声を発すると、金髪はそれに反応して思わず両腕で頭を守った。
恐らくはそうするのを狙っていたのだろう、男はヌンチャクの動きを止め、すかさず爪先を跳ね上げた。
「あ、ほいっと」
ぼろぼろの靴の爪先が、寸分違わず金髪の股間に突き刺さった。薄闇の中でも、奴の顔色が数秒間の間に五、六回は変わるのが見て取れた。まるで万華鏡みたいにね。
うめき声と悲鳴の混ざったものを腹の底から絞り出し、奴は股間を両手で押さえた。この世のすべての苦痛を股間一点に集め、それを押さえてうずくまったところで、脳天にヌンチャクが叩き込まれた。
その時、下からゆるゆると持ち上げってきた大きな何かが、僕の視界に被さった。そいつはうめき声を上げ、頭を押さえながらも、まだピンピンしている。あのデブだ。太い首が衝撃を吸収し、脳震盪のダメージを緩和したんだろう。
奴はもう僕など見ていなかった。手をポケットに入れてしばらくまさぐった後、背を向けている男に向かって走り出そうとした。




