8-2
「お前さあ、うち来ねえか」
「うちって、多治見?」
隣の市で、兄貴の赴任先だ。
「小せえアパートだけど、二人住めない事もない」
僕が黙っていると、彼は更に続けた。口調にかすかにうんざりした感じというか、彼なりの母親への思いがこもっている気がした。
「もう限界だろ。一度ここ、離れた方がいいって。えーと、今中三だったか。学校言ってないんだって?」
「うん」
「全然?」
「一年くらい」
「今から勉強して、定時制の高校入れよ。んで、昼間働いて夜は学校行きな。金稼いで成人したら一人暮らししろよ。どうだ?」
いや、驚いた。外見だけじゃなくって、中身もきっちり大人になってるじゃないか。兄貴と言えば不良どもとつるんでるイメージしかなかったんだけどな。
僕は何だか気恥ずかしかった。同じ兄弟なのに、自分と違って彼はもうとっくに他人の事を思いやれるまでになっている。
「この家、いたくねえだろ」
「うん……」
「どっちだよ?」
そう聞かれても、僕は返事に詰まった。引きこもってはいても、この家の居心地が最高だなんて間違っても思っちゃいない。ここは間違いなく穏やかな地獄だ。
だけど兄貴のところへ行けば、学校へ行かなければならないんだ。昼寝て夜起きるような生活はしていられない。兄貴は(以前に比べれば)すっかり温厚になっている様子だけど、無駄飯食らいを置いてても笑っていられるほどかというと、多分そうでもないだろう。
いや、本当の話、僕は今初めて気付いたんだよ。自分自身が誰にとっても厄介なお荷物になってたって事に。誰にも迷惑をかけてないなんてのは、僕の勝手な解釈だったんだ。
「まあ、いきなりは答えられねえか」




