8-1
「ほら」
スーツ姿の兄貴はマクドナルドの紙袋を僕の前に置いた。僕もさすがにこのまま亀になっているわけもいかず、そこからのそのそ這い出した。
ハンバーガーに手を付けようとしたが、胃の底でざわめく得体の知れない抵抗が押し返してしまう。とうとう一口も食べられず、包み紙に戻して袋に入れた。
ポテトの方は何とか食えそうだ。冷え切っていて口がまずく、正直札束を突きつけられても食いたくない味だったが、何とか口に押し込んだ。
僕がそうしている間、兄貴は部屋を見て回っていた。たった三年なのに彼はすっかり社会人の顔になっている。あのネクタイの似合いっぷりはどうだい? 髪を茶色に染めてアクセサリーをじゃらじゃら言わせていた頃が嘘のようだ。
やがて彼は机の上にあるヨットに気付いた。やはり本を台座代わりにしてまっすぐに立ててある。
「これどうした? お前が作ったのか?」
「ん、拾った」
「拾った? どこで?」
「ゴミの日に、ゴミ捨て場にあった。ボトルシップだったんだけど、瓶が割れた」
まあ、嘘ばっかりでもない。しかし兄貴はいきなり看破した。
「母さんが割ったんだろ?」
「う……うん」
「実は電話来てな、父さんから」
兄貴は椅子を回して僕と向き合う形で腰を下ろすと、元々緩めてあったネクタイを更に解き、体の前に垂らした。
「母さんが怒り狂ってるってな。多分と言うか、間違いなく、お前の事だろうって。で、ちょっと会って話聞いてくれってさ」
父さんね。父さん。いや、彼に聞くまで僕とそれを取り巻く世界にその人がいたって事を忘れていたよ。
「で、さっき母さんから聞いたよ。あのヒステリーババア、ほとんど何言ってるかわかんなかったけど、ボトルシップがどうたらでお前に殴られたってよ」
僕の心臓を賭けてもいいが、あの女は「わたしの方が悪かったの」とは言わなかっただろう。
兄貴は両腕を背もたれにかけてしばらく沈黙し、思案げに宙を睨んだ。




