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照会すると日雇い業者数社にも登録情報が見つかった。どうやらネットカフェに寝泊まりしながらその日の飯代を稼ぐという、ホームレスと大差ない生活をしていたらしい。
次に刑事は海里の両親を探した。母親はすでに病死、父親は最初から存在しなかった。……存在しなかった?
「え?」
意味がわからず聞き返すと、彼は言い慣れない言葉を口にする時にありがちな、舌が上手く動かないっていう仕草をしてから言った。
「私生児だったみたいだな」
つまり、入籍せずに生まれた子供だ。
それでも何とかツテを辿って父親……彼女の半分を作った人間と言うべきかな、を見つけたものの、すでに別の女性と結婚していた彼は海里に関心を示さなかった。
「そんなの知った事じゃない、もう他人だから。って」
若い医者は言い方は落ち着いていたけれど、本当はその言葉を吐き捨てたかったのだろう。
ここからは西堂さんの話と海里自身から聞いた事、そして僕の想像を織り交ぜた物語だ。
海里は十六の時に女手一つで育ててくれた母親が死んだ。父親はそんな奴だし、何らかの理由で親戚にも頼れず、海里は児童保護施設に預けられる事になった。でも、また何らかの理由でそこを飛び出した。
簡単に説明すればそういう事だが、何らかの理由って言っても、何となくわかるよ。居場所がないって事の辛さは、僕は誰よりもわかるつもりさ。息をしてるだけでも苦しくなるあの感じ。
十分も話し込んだだろうか。棟内に放送がかかり、西堂さんの名を呼んでいる。僕が礼を言うと、彼は別れの挨拶もそこそこにナースステーションの方に走っていった。
いったん振り返り、病室の方を少しだけ見た。だがもう一度あそこに行く気にはなれなかった。
僕は病院を出た。世界がぐるぐる回っていて、そのすべてが遠くなっていた。全部が全部、魚眼レンズの向こう側にある。
帰りの電車に乗って腰を下ろす。そこから見える海にはもう、何の興味も沸かなかった。ただのでっかい水溜まりだ。
この時だ。僕が、自分自身を理解したのは。今、津田海里はボトルの中で出会った不思議な女の子、僕の天使ではなくなり、血と肉を持った人間となった。現実をくり貫いて作られた、確かな存在になったんだ。




