7-5
西堂さんは奥のベッドの前にいて、僕を待っている。僕は一歩ずつ前に進んだ。本当に一歩ずつ、ゆっくり。
彼が山形の折り目がついたカーテンに手をかける。それを折り畳む要領で滑らせて開けると、そこに海里がいた。
彼女だった。絶対に、間違いなく彼女だった。幼さを残す柔らかい顔立ちは病人とは思えない。肌は白いが、病人のような不養生な白さじゃない。ちゃんと、活きている人間の白さだ。
僕が初めて出会った時と同じくらい、彼女は愛らしかった。白いパジャマ姿で、軽く体の上にタオルケットをかけているだけの姿だ。目は閉ざされ、体に管やらコードやら繋がれている。でも、今すぐ目を覚ましたっておかしくないように思えた。
「先月からずっと昏睡状態なんだ。原因はわからない」
僕相手に敬語を使う必要はないと気が付いたのだろう。でも、彼の口調には同情と思いやりがあった。
「脳派も心電図も異常はないし、疾患は見られない。このまま死んだりする事はないと思う。でも、いつ目覚めるかどうかはわかんないな」
「げ……原因は? 何でこんな事に?」
すでに説明された事だけど、それでも聞かずにはいられなかった。
西堂さんは首を振った。
「わからないんだ。頭の中に怪我をするとこうなる事はあるけど、レントゲンには何の影も映らなかった。本当に、ただ眠ってるだけみたいなんだ。魂が抜けたみたいに」
魂が抜けているか。ああ、そうとも。そうだとも。あんた名医だよ。
「治す方法はないんですか?」
「気の毒だけど、何にも出来ないな」
何てこった。わかっていた事とは言え、それ以外に言いようがない。
僕はふと、海里から以前聞いた事を思い出した。家族は何て言っているんだろう?
「誰か、他に面会に来ましたか? 僕以外に」
彼は頷き、ちょっと部屋を見回してから、外に出るように仕草で示した。一緒に廊下に出、階段のところまで来ると、彼は「刑事から漏れ聞いた話だけど」と前置きした上で、大体こんなような説明をした。
運び込まれた時点で彼女の持ち物、それからネットカフェの登録情報で身元が判明した。ただし年齢を詐称しており、実際は未成年だった(十六歳のところを十八歳にしていた)。




