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6-1

 その僕が、今、どうにかして語ろうとしている。他の誰のものでもない、自分だけの言葉で、何かを伝えようとしていた。

「一人ぼっちで、寂しくても……誰とも話が合わなくっても、それでも、どこかに同じ人がいたら……自分の寂しさを理解出来るその人が、いつか見つけてくれるかも知れない」

 声はか細く頼りなく、あまりにも稚拙な台詞の言葉だ。でも、間違いなく、僕の声と言葉だった。

 海里はじっと聞き入り、言い終えた後もしばらくこっちを見ていた。



「そうだよね。そうなるといいね」

「うん」

「いつか、誰かがあたしを見つけてくれるかな?

 それでこの会話はおしまいになった。

 僕は後に何度もこの時の会話を思い出す事になる。最初の頃は「変な事を言ってしまった」と赤面し、布団の中でのたうち回るだけだった。でもそれを過ぎると今度は今までにない、不思議な喜びがじんわりと胸に溢れた。



 海里に言いたい事が伝わったんだ。全部通じたって自信はあんまりないけれど、それでも彼女は応えてくれたじゃないか。

 僕の言葉が届いたんだ。

 インターネットにハマってた頃のあの感覚が、今なら飢餓感だったと理解出来る。ブログを更新しまくって、掲示板に書き込みまくって、ひたすら誰かの返答を待っていたあの感じ。のめり込めばのめり込むほど、胸の空白は増してゆく。



 あれは結局は独り言だったんだ。僕が何を喚こうか叫ぼうが、すべては虚空に木霊して消えた。ネット上じゃあ会話を交わしてるように思えても、実際は独り言の応酬なんだよ。霧の満ちた海上を漂っているも同然さ。どこか声が聞こえても、それが誰かまではわからない。そして決して手が届く事はない。



 実際に出会い、その人の熱と吐息を感じて初めて届く言葉というのは必ずある。それこそが小説家の言うような魂の鼓動ってやつだと思う。

 津田海里は、僕の言葉が初めてちゃんと届いた人だった。



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