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大体、三日に一日くらいだろうか。下にスクール水着を着て行って、一人で潜る事も多かったが、いつか見たのとはまた違う沈没船を見つけた事もあった。やはり真新しく、居間にあのボトルがある点は共通していた。
さて、ボトルの外では何をしていたかと言うと、語れる事は多くない。朝寝て夜起きて、後は冷蔵庫の残りものを漁っているだけだ。インターネットをやる事もあったけれど、前ほどはのめり込まなくなっていた。
どうでもいいようなグラビアアイドルの画像なんか検索してどうする? 僕の天使は手が届くところにいるんだからね。ネットはただの時間潰しになり、それもだんだん苦痛になりつつあった。心はいつだってあのヨットの上にあった。
本当は毎日でもボトルの中に行きたかったんだ。もうこんな世界にはいたくなかった。母親の苛立たしげな足音や、僕を威嚇するようにドアを思い切り叩き付ける音なんか聞きたくない。
なあ、こんな話を聞いて、あんたはどう思う? 僕は臆病者のヘナチョコで何の意気地も根性もないモヤシっ子か? ニワトリだってもっと勇気があるって思うかい?
頼むから少しだけ言い訳をさせてくれ。僕のなけなしの名誉の為に。
あの頃の僕に今の僕くらいの、ほんの少しの思い切りの良さがあれば、そう考える事はよくあるよ。だけど当時、たかだか十数年生きただけのガキに一体何が出来る?
もう少しだけ根性があればグレるという選択肢もあっただろうが、あいにく僕は反抗の方法すらわからなかった。母親をぶん殴るだなんて、ローマ法王の頭をバットで叩き割るよりあり得なかった。
せめて兄貴がいてくれたらな。もっとも彼は母親と折り合いがつかず(母親は彼女自身を含めたこの世の誰とだって折り合いがつかないようだったが)、高校卒業と同時にとっとと家を出ていた。同じものを食って育ったのに、どういうわけだか彼は大した根性の持ち主だったわけさ。
まあ、兄貴という避雷針がなくなると、当然雷は低い所に落ちるようになるわけで、それが僕だったってわけ。
この話はもういいか。あんたもそろそろうんざりして来ただろ? 不幸自慢大会はお開きにして、次は幽霊船の話をしよう……おっと、その前にホームレスに会いに行ったんだったかな。
ある日の事だ。例によって僕はボトルに入ってゆき、これまた例によって着地に失敗して甲板に落っこちた。これは僕がトロいってだけじゃないよ。体がばらばらに解けた後に平衡感覚が失われる瞬間があり、そのせいで体をまっすぐにしていられないんだ。




