4.もう一度ホームレスに会う
最初は面食らったが、僕はすぐにこの不思議なボトルシップとそこで暮らす一人の少女の虜になった。
特に海里は僕を魅了してやまなかった。ずっと一人ぼっちで、友達なんか一人もいなかった僕にとって、彼女と会う事は次第に楽しみになりつつあった。
いやあ、おかしな娘だったよ。女の子という生き物がみんなあんな感じなのかは知らないけれど、とにかく僕にとって彼女はいくら汲めども興味の尽きない、底無しの魅力を持っていたんだ。
明るくて物怖じせず、彼女は何でもよく喋った。気取った繕いをせず、物言いは常にストレートだ。こう言うと活動的で活発な性格のように聞こえるが、全然そうじゃなかった。
海里はいつも寝転がっていたし、飲んだくれている事が多かった(せいぜいがビールの一本か二本だったけれど、彼女にとってはそれで十分酔い潰れる事が出来るようだった)。
よく喋るしよく笑ったけど、真夏の日の猫のように怠惰で、動く事を面倒がる。時折泳ぎに出る事はあっても、それ以外の事をしているのはまれだった。
当時の僕にとっては内側とは家であり、外側とは学校だった。どちらにいても気の休まる時はなく、どちらにも敵がいた。学校なんか大嫌いだったよ。だが他に行く場所はなかった。あるとしても、母親のいる家だけだった。父親? ああ、そんな人もいたっけ。
毎日毎日、人間失格というハンコを押してもらう為に学校に行き、家に帰れば母親は僕が反論出来ない事を選んでねちねちなじり続ける。
僕の事を後ろ向きだとか無気力だとか言う人は多いだろうけれど、こんな環境でいたら誰だって僕みたいになるさ。劣悪な環境が劣悪な人格を作る。言わずもながら、じゃないか?
母親は自分の教育方法ならば僕がある日突然学校に通い出し、その後IBMかマイクロソフトに就職してくれるとでも思っていたのだろうか?
いや、愚痴っぽくなったな。申し訳ない。話す前に愚痴と説教はしないって決めてたんだけど。
ともかく、当時、どんなに息苦しかったかは筆舌に尽くしがたい。だが運命は僕にボトルの中という世界と、津田海里というちょっと気だるい天使を与えてくれたわけさ。まあ実際のところ、天使ってのはちょっと言い過ぎなんだが、その事は後でまた話す機会があるだろう。多分、その事がこの物語のクライマックスになるかな。
僕は毎日海里に会いに行きたかったが、鬱陶しいと思われると嫌なのでそうそう頻繁には出向けなかった。彼女はそんな素振りは見せなかったけど、他人の内情を探るのは苦手だ。あのかわいい顔の下で本当は何を考えているかなんて僕にはわかりっこない。




