4-2
何とか慣れないと今に背骨を折るなと懸念しつつ起き上がると、珍しく海里の姿が見えなかった。寝椅子は空っぽで服もない。
船室の方を覗くと、彼女は珍しくキャビンの方にいた。焦げ茶の合成皮を張った壁際のソファにだらりと座り、体を伸ばしている。
手に台座から外したボトルを真上に掲げていた。窓から差す光がガラスを透かし、中に据えられた住宅のミニチュアを包み込んでいる。
僕はあの自宅を気に入っていると感じた事はなかったけれど、その時の海里の瞳はきらきら輝いているように見えた。眩しさで今にも目を細めそうになりながら。
僕の気配に気付くと、海里はボトルを下ろした。ガラス越しに僕を見る。
「これ、あんたん家?」
「そうだよ」
「いくらしたって?」
「さあ。一千万円とちょっとじゃなかったかな」
僕が買ったわけじゃないけどね、と頭の中で付け加えた。ここへ引っ越してきたのは僕がまだ中学に上がる前の事だ。
「あんたってさあ……」
ボトルを視線の上からひょいとどかして、彼女は初めて直にこっちを見た。
「自分ちがあるんでしょ?」
「ああ、うん」
黒目がちの大きな瞳に捕らわれて、僕は少なからず動揺しながら答えた。
海里は無言でこっちを見ている。僕は視線のその意味を計り、何が言いたいのか悟った。
「自分ちがあるのに、何でここに入り浸ってるのって意味?」
「そうそう、そう言いたいの」
喉に詰まった返答を吐き出そうとしたが、うまく行かなかった。何を今更この後に及んで、って感じだったけど、引きこもりのニート野郎とは思われたくなかった。
長い間考えて、やっと結論のようなものが出た。少なくとも、他に言うべき事は何一つ思いつかなかった。
「学校は嫌いだ」
彼女は僕を見つめ、そしてやがて笑った。




