↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
88/93

第十話 垣根を越えて

「今日の業務はなんだって?」

「御伽家の謁見が一つありまして……」


 今日の牟婁勒の宮地北家は朝から騒然としていた。御伽家が来る事もそうだが、その御一行が既に門の外に居ると。城ではない屋敷の為門は薄く、守衛も少ない。数少ない門番が槍を莽薙達に向け、赤城がそれと対峙していた。その状況を前にして焦らないものなどいない。


「分かった。通してやれ。揉め事は起こしたくない。」


 守衛が門を開き、門番が槍を下して門の前へと戻る。その門の奥から国王の弟とみられる人物が守衛を引き連れて現れる。


「御伽家の連中は命知らずだな、ここが誰の屋敷か分かっているのか?」


 莽薙は赤城を後ろに下げて、自分自身が前に出る。相手の守衛が警戒して宮地の前方に陣取り、槍を構える。莽薙はその穂先が喉元に当たる所で立ち止まる。


「命知らずですし、誰の屋敷かも承知しております。これが僕の見せられる誠意です」

「……そんな命を捨ててまで、何を求めている?」

「父の未練である『あなた達との融和』を求めております」


 宮地が守衛に下がるように伝えて莽薙に歩み寄る。そして門の手前で止まり、警戒しながら右手を伸ばす。莽薙はそこまで歩き、固く握手を交わす。宮地の腕に引っ張られながら門をくぐり、宮地の左手が莽薙の背中を包む。門はそこで閉ざされてしまった。外から花蓮達の心配の声と抗議の声が聞こえる。


「すまないが、君たちの仲間は外で待ってもらう事になる。」

「わかりました。了承したことを彼らに伝えてください。それを証明するためにこれを」


 莽薙は御伽家の家督の証である赤いブローチを宮地に差し出した。宮地は家督の証を容易に宮地へ引き渡したその行動に驚きいて絶句する。


「……私に託して良い物なのか?」

「ここに来た以上、もうあなたを信じるしかできませんから」


 宮地は莽薙の覚悟を重く受け止めて、守衛に莽薙の言った通りにするように伝えた。そこから宮地は、来客者をもてなすのと同じように接して屋敷の中に招き入れた。大広間に案内され、そこで少し待つように言われる。

 この屋敷に仕えている者達が莽薙の姿を一目見ようと襖や障子の隙間から目を輝かせている。大きく心臓が跳ね上がり、彼らの痛いような目線が莽薙の精神を追い詰めていく。


「すまない、お待たせしたな」


 宮地が入ると、彼らの目線は一気に無くなって、さっきまでのうるさい雰囲気は全くなくなった。一対一にしては無駄に大きな大広間に声だけが響き渡る。


「いえ、滅相もございません。この機会を設けて頂きありがとうございます」


 顔を上げた時に彼の胡坐(あぐら)をかいた様子が目に映る。小太りの体が彼の家柄の良さと器の大きさを物語っているように感じる。しかし、その目線は品定めをするように鋭く冷たい物だった。


「長年の因縁。それを克服しようとする勇気。面(つら)の皮が厚さ、それは認めよう。だが、一朝一夕で終わるような問題ではない。それは承知の事か?」

「勿論です。しかし、始めなければ終わりは見えません。数年に及ぶ関係改善、その第一歩を踏み出しに来たのです」


 侍女の人間が襖を開けて深々と頭を下げる。そして莽薙と宮地の前に澄玲が購入しておいてくれた「湯ほぐれ饅頭」を二つ、地元で採れた緑茶を一杯おいてくれた。


「……『湯ほぐれ饅頭』か、久しいな。この関係もほぐれる事を私は願っているよ」


 そう言って二人ともその湯ほぐれ饅頭を口にした。そして緑茶を流し込む。お陰様で少し緊張もほぐれて、リラックスした状態で会話ができるようになった。


「……恥を忍んであえて申すのであれば、我が御伽家主導の国家に宮地王国の賛同を願いたく伺った次第にございます」

「ふむ、そのようだな」


 そう言って宮地は一つの手紙を袖から出して読み始めた。


「我が親愛なる弟君よ。今朝、御伽家と思われる連中が恥も知らず、宮地の城郭に堂々と侵入した。追い返す事に成功はしたが、そちらに向かわれる可能性が十二分に存在する。見つけ次第始末して構わない。十分用心せよ。」

「……」

「一体宮地で何をしてきた?」


 これではまるで宮地で揉め事を起こした大罪人のような言われようだ。だが確かに言っている事には殆ど間違いはない。莽薙は正直に宮地へ向かった経緯と経過を説明した。


「まぁ、兄は少し過剰に反応する節はある。覚悟と勇気、恥じも見せた。これ以上貴殿を揺さぶるような事はしない。それは保証しよう」

「ありがとうございます」

「まぁ、そうだな……何から始めるべきか……」


 顎に手を当てて部屋の襖を眺めていた。しかし、結局諦めたように莽薙に向き直った。


「私も最大限関係修復に力を注ぐが、やはりこれは貴殿の方からの行動が無ければ難しいだろう。それも貴殿一人ではなく、国家全体の意志としてだ」

「……なるほど」

「とにかく、私個人は君の立場を尊重する。この北宮地は貴殿らを歓迎する。交渉の窓口としても機能するだろう。今後ともよろしく頼む」

「お願いするのは私の方です。御伽家の一存でこのようなことになってしまった上で、交渉の立場を再び設けて頂き感謝いたします。」


 そのまま宮地は立ち上がり、門の外まで送り届けた。道端で座り込んでいた花蓮達がそれに気づいて急いで駆け寄る。宮地は莽薙ともう一度固く握手する。


「何かあったらこの宮地北家(みやちほっけ)の宮地治雄(みやちはるお)を遠慮なく使っていただいて構わない」

「心強いです、ありがとうございます」


 宮地は赤いブローチを返し、そのまま背を向けて門の中へと入っていく。莽薙はもう一度深く頭を下げるが、上げた時には門は固く閉ざされていた。


「良かった、無事だったんだね!」

「ああ、本当にいい人だったよ。澄玲の言った通りだった」

「でしょでしょ~」

「何を話していたかは知らないけど、神蕩も伝記と同じように協和に協力しますから。」

「ありがとう二人とも」


 そして花蓮がそのまま手を伸ばす。莽薙の手を掴んで引き寄せた。


「うまく行ったね」

「やっぱりいつも通りだね」

「喉元に槍を持ってきた時はびっくりしたけども……」

「ああ、少しは守る側の身にもなってくれ」

「まぁ、そこもいつも通りだよね」


 宮地との会談が成功したからと言って、今すぐにその効果が表れる訳じゃない。その種が芽生えて実がなるか、成長過程で枯れてしまうかは分からない。澄玲が言うようにもう一度神に頼んでみるとしよう。そう、今を急がなくていい。


「よし、帰るか」

「えッ、もう帰るの?」

「まぁ犬養と澄玲にも早く紹介したいし、用事はもうないからなぁ……」


『お気遣いなく~』


 二人は口をそろえて言うが、目的もないのに彷徨(さまよ)っても仕方がない。それに早く帰らなければ、荒川のおじさんに全て投げつけても良い思いはしない。


「こう言っている事だし、もうちょっとだけッ!!」

「逆に宮地が通れない中で、どこに行くってんだい?」

「……?」

「考えてないのかよ」


 そこで莽薙は赤城の方へ顔を向けた。赤城はまさかの自分に矛先が向いたことで驚いている。


「な、なんだよ」

「いや、纏まらないから赤城の案を聞こうかなって」

「困った時だけ俺の話を聞こうってか……、あまり案を出すのは向いてる体質じゃないが」

「まぁ、こう言う綺麗に分かれた時に大事じゃないか、奇数であることは」

「じゃあ遠慮なく言うが、莽薙の言うとおりだ。早く帰った方がいい」


 女性陣はみんな少し悲しそうに嘆く。しかし、澄玲と犬養はそれでも御伽家に向かう事が楽しみで仕方なかった。それが嘆いた後に出てきた笑顔に表れている。残るは不満が残る花蓮の説得だった。


「まぁさ、この旅も本来無かった旅だから、おまけで行けただけ良かったじゃないか」

「だけどさ、今度はいつこのメンバーで行けるか分からないじゃん!!」


 花蓮の言う通りでもある。だが、それだけではいつまで経っても旅は終わらない。常に歩き続けるのも大変だという物。そこで莽薙は花蓮に近づき、肩を叩いて慰める


「旅の終わりは、新たな旅の始まりでもある。千々波と梔子姫と別れてもここにいる犬養と澄玲に出会えた。これからも同じように続くよ、それにここにいるみんな御伽家に行くんだから直ぐに会えるよ」

「そうかなぁ……」

「少なくとも、僕と赤城は近くに居るよ」


 赤城はその発言にため息をつくが、結局首を縦に振る事になった。花蓮は少し意地を張って腕を組んで睨みつけるが、結局花蓮も黙って首を縦に振った。その様子に莽薙と澄玲が笑いながら歩き、澄玲が花蓮の肩に腕を回して一緒に歩いた。その様子を後ろから来た犬養と赤城が見守りながらゆっくりと歩き出す。その足先は御伽家にも、未来にも向いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。