↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
82/93

第四話 急転直下

「郭内及び堀ノ内への侵入は許されない」


 宿の外で会った昨日の門番の横にもう一人門番らしき人間が立っている。関係的に上司だと推測できるが、何故いきなり立ち入り禁止を明言されるのだろうか。部下のミスなのだろうか。


「なぜ今になってそんな事に……!?」

「陛下のご意志である」


 このように上からの命令で動いている人間に問い詰めても全て「陛下のご意志である」で返される。花蓮はその門番と口論になりかけるが、莽薙は花蓮を宥めて下がるように言った。赤城も莽薙の意図を理解したかのように臨戦態勢を解いた。


「わかりました、不本意ですが帰らせていただきます。せめてもの誠意を……」

「不可だ。贈り物も受け取らないと申している」


 以外にも強硬な態度だった。あたかも自分達が体を弄ぶガン細菌だと言わんばかりに何もさせてくれない。ここから足掻いても何も状況は進展しない。良い意味でも悪い意味でも物事は進展したとも言えるが。

 門の外までは昨日の門番が見送ってくれた。終始上司の言わなかった謝罪と弁明をしている様子で、彼の板挟みの様子が容易に目に浮かぶ。装備も他の人間に比べて心もとない。あまり生活が上手くいってないのかもしれない。


「これ、君に上げるよ」

「え、いいんですか?」

「次の目的地に行く前に饅頭が腐っちゃうからね。おいしく食べてね。なるべく上司に見つからないようにね」

「あ、ありがとうございます!!」


 そう言ってその門番に「貴和亭の金箔饅頭」を渡す。国王がご所望される饅頭はさぞおいしい事だろう。金箔も相まって、素人では手に入らないのが容易に想像できる。彼のせめてもの救いになれば、莽薙達が食す事も容易に我慢ができる。


「あの、お待ちください」


 あの門番が止めに入る。あまり周囲に聞かれないように少し近くで小さな声を発する。


「この国の北に『牟婁勒(むろく)』と言う都市があります。そこには陛下の弟君が住んでおります。弟君は陛下よりも寛容であるので、その方を頼ってみてください」

「ありがとう、じゃあこのまま北に向かえば……?」

「わかりません、陛下が貴方達を嫌っているならば、それを阻止すると思います。もし安全策を取るならば、颯垣(はやがき)から牟婁勒に向かった方が良いかもしれません」

「丁度颯垣にも行く予定だったんだ、そうさせてもらう。ありがとう」

「いえいえ、お役に立てたのなら……」


挿絵(By みてみん)


 そう言って早くも三人は宮地王国を追い出され、来た道を帰って行った。結局旧大石領の乍まで戻り、そこから北上して大石。そこで大石法規本人はいないが邸宅に一度止めてもらい、翌朝にはとなりの颯垣に到着した。


「なんか……、宮地に比べたら大きくないね」


 宮地ほど城下町のような豪華絢爛な町ではなく、田舎のこぢんまりとした小さな幸せが育まれるような町だった。そんな豊かではないが温かみのある町に到着した。

 だが、町の中にあると思われていた「颯垣の屋敷」はそこには存在しなかった。御伽家は町郊外の山奥に屋敷があるのだが、颯垣の屋敷も町郊外の目立たない場所にある様子だった。住民が優しく、連れてってくれると言うので遠慮なく甘えて向かう事にした。

 少し先を歩いき、やがて周りを木で囲ったような家が現れる。その家は門が開かれており、宮地とは対極的に親のような温かみがある家だった。いつしか忘れられた自然との共生を体現していた。


「ここだね」

「ありがとうございます」

「颯垣さん呼んでこようか?」

「いいんですか?」

「勿論だ。颯垣さんはいつも味方よ」


 そう言って送ってきてくれた男性は勝手に家に入って行ってしまった。この国の指導者にしてはかなり農民思いだと感じた。このような町が今一番ユートピアに近いのかもしれない。

 中から男性が連れて来たのは、領主らしくない袴を脱いで鍬を持っているいかにも農民の人間だった。花蓮は一瞬手を持ち上げて顔を伏せようとしたが、無礼であると気づいて直ぐに胸の前で手を止めた。


「やぁ小僧ども、私を呼んだのは君たちかい?」

「ええ、農作業のお邪魔でしたか?」

「どってことねぇ、入ってくれや」


 彼は歓迎して中に居られた。道中案内してくれた人物には、おそらく颯垣の自家製であろう野菜を与えて返していた。その男性は笑顔で軽く談笑すると来た道を引き返した。

 中はいたって普通の民家で、少し土埃がする農家の家だった。一つの国を持つ者としては異端だし、この狭さでとてもじゃないが内政が完結するとは思えない。


「クソ貧乏な領主だと思ったかい?」

「いえ、そんなことは!」

「思ってんじゃねえか、まるわかりよ」


 颯垣は自傷して笑いを取ろうとするが、こちらとしては笑えない冗談だ。そのまま土間に接する床板に座り込んだので、自分達もその横には座る事にした。

 そんなことはさておき、大石領で名物の「大石焼き」と呼ばれる、外皮は小麦粉のミルフィーユ状の生地で、中に餡子と求肥が入っている物を渡した。外の皮は三層に分かれており、それぞれサクッ、フワッ、モチッとしている。この新しい食感と味には颯垣も酷く驚かされるだろうと考えていた。しかし、反応は思ったよりもそっけなかった。


「うん、うまいな」


 そのまま颯垣はとある女性を呼んでお茶を用意するように言った。その女性は豪快に裸足で土間を駆け抜けてお湯を沸かす準備をした。その光景を見ると、自分達もこの元気さや、はしたなさがすっかり抜けて、随分と高貴な存在となってしまったと感じた。


「そんでもって、御伽家の連中が颯垣に何の用だい?」


 大石焼きを飲み込み、莽薙は言葉を発する準備をする。


「この度、国家を建国することになりまして……」

「ほう、そりゃあ結構なこった」

「颯垣国の皆さんも是非参加してほしいのです」


 そう言うと颯垣は大笑いをして天を仰ぐ。そして新たに大石焼きを頬張る。


「こんな田舎者の国が参加してどうするよ」

「いえ、この国はそこが魅力ですよ。今日来てみてそう感じました。」


 颯垣は手に持った大石焼き口に運ぶのをやめて、正面を遠く見つめ始めた。莽薙もその横顔を見て、これが颯垣の統治者としての姿であると直感で分かった。


「……そりゃあ大層な話だ。颯垣がなぜこのような国で維持できると思うか?」

「……人々の自由に任せているからですかね?」

「惜しい、町に任せているからだ。良くも悪くも私は大きな物事の最終許可しかできない。そんな私が今ここで即決断して加入はできない」

「なるほど……」

「時間はかかるが、私が説得できる事もあるだろう。だが、颯垣の民にとって国に加入する事は何のメリットもない。普通に無理かもしれんな。」


 かなり険しい表情を浮かべる。確かに周辺は大石領、或東国(あるとう(アルトー))、宮地王国と言った大国とは呼べない故に領土的野心の少ない国々だ。周辺地域が国家になっていく中で、半強制的に国家になる必要性に迫られたような背景なのだろう。国家のアイデンティティもなければ結束力は無い。あるのは個人の繋がりと町の結束。確かに参入には難しいかもしれない。

 裸足の女性が暖かいお茶を持ってきた。莽薙が大石焼きを食べるように勧めるが、その女性はそのまま駆け足で外に出て行ってしまった。莽薙は全員にお茶を配り、その熱いお茶を少しずつ啜り始めた。


「すまないな、あれは私の娘の颯垣澄玲(はやがきすみれ)だ。何と言っても『莽薙のファン』らしいぜ」


ブフォォォおおお!


 莽薙はお茶を吹き出しながら、混乱の目線を颯垣に向ける。かなりハキハキと喋るので聞き間違いではないと感じる。花蓮と赤城の方向を見ると、彼らも啞然としている事が良く伝わってくる。そのまま奥の勝手口を見ると、その澄玲が恥ずかしそうに覗き込んでいた。


「あっ、あ、えっとー……」

「昔に一目見た時から惚れているらしいわ。せや、うちの娘と結婚すりゃあ政略結婚って事で国に編入できるじゃんか!」


 そんなとんでもない提案をされ、全員が更に啞然として固まる。莽薙は少し冷静になって考え始め、颯垣がその返答を笑顔で待っている。最早断れない環境だった。


「……少し、話してきてもいいですか?」

「おう、いってらっしゃーい!」


 莽薙が立った時に和服の袖を花蓮が掴んでその動きを止める。そして下から睨みつけるような目線で莽薙を見つめる。莽薙は分かっているかのように笑みをこぼしてその手を払いのけた。花蓮は絶望したかのようにうなだれる事になる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。