第三話 新たな旅路
「それでは、『第一回政権方針策定会議』を始めます」
莽薙の号令によって初めての会議が催された。その会議には大石家より大石法規、亜歴一文。柊家から柊拓麿、東国久。糀谷家から糀谷三郎。御伽家から御伽莽薙、菊水花蓮、荒川実義、山本吉郎が参加した。
まず莽薙はソフィアの出したリストを示し、そのうちの①憲法の制定と政治制度の決定、④近隣の独立国家との関係構築を議題に上げた。
「私、大石法規は早期の憲法制定に賛成する。国家の基盤を憲法によって定め、外地を活発化する事で国家となるのではないかと考える」
「地方振興は時期尚早。一極集中によって外地への分散をやめるべきだ。特に発展が最優先の我が国で、外地一つ一つを盛り上げるのはとてもではないができない!」
「待たんか、君たちは所詮故郷の事しか考えておらんだろう。そうなればゆくゆくの発展には都市が必要だ。つまり、我々には両方不可欠なのだ」
地元の人は「内地」は吾妻の事。詳しく言えば、この「御伽家が支配している島」を「内地」と呼称し、その他の地方を「外地」と呼んでいる。
その「発展させるの外地か内地か論争」で、平行線を辿って全く議論が進まない。莽薙は段々と決着しないこの雰囲気。結局この話題を変えざるを得なかった。
「じゃ、じゃあ外交方針に話題を変えてもいいかな。ほら、東君」
「私は周辺諸国をこの議定書に署名させて大国家となし、挙げて国家の振興をしなければならないと感じるのであります」
「東国久の案は安全保障の観点を欠いている。周辺諸国を併合すれば、西に聳える大帝国『ミゼルボート帝国連邦』と国境を接することになる。軍事力もないこの政権を危険にさらす訳には行かない。互恵関係によって孤立発展を成すべきなのだ」
こちらはこちらで東国久と山本吉郎の論争が激しくなっていく。こちらも「外地か内地か」の差である。勿論この論争も外地出身か内地出身かで対立している。予想通り
「お前らは本国の発展にしか寄与しないだろ!!」
「なんだと!?」
東国久が発したこの言葉が示すように、この話の対立は目で見て分かるほどの対立だった。このように平行線を辿っては良くない。これを鎮めて仲介するのが莽薙の仕事でもある。
「それでは、双方の意見を汲み取ろう」
「……?」
「どんな外交関係であっても良好である事が前提だ。よって僕が各国に歴訪するのはどうかなと」
「莽薙様がですか……?」
「そうそう、旅には慣れているのでね」
「は、はぁ……、その間我々は何をすれば……?」
莽薙は熟考する。人材とやるべき事を絡めて適材適所をしようとする。そこで莽薙は花蓮とも少しだけ意見を組み入れた。
「政権は一時的に荒川実義が纏めてもらう。大石法規、亜歴一文、糀谷三郎がソフィアと憲法を模索。柊拓麿、山本吉郎はロメリアと共に内務を。東国久はミゼルボートとの接触をお願いしたい。護衛には寒川仙鏡をつけることにするよ。」
「……左様ですか。承知しました。」
「じゃあ、ひとまず解散!!」
そこで再び莽薙達の旅が確定した。これには花蓮も少し笑みがこぼれた。早速赤城を呼んで再び旅に出る事を伝えた。赤城も呆気にとられた様子で聞き入れた後に笑みを浮かべた。
そして何度目かの旅支度を整え、今度は西側の都市と国に歴訪する事になった。また新たな旅路が始まるのだ。
成り行きで追い求めていた「理想」を着実に手にしていく莽薙を見て、花蓮の中では少し不安が残っていた。意気揚々と駆けていく莽薙は、ゼリテーヌの時のように「自らを犠牲にする」と言う事がこの先も起きるのではないかと。
勿論、旅は楽しかった上に得た物も沢山あった。だが、それは莽薙もそうなのだろうか。彼の「自己犠牲の精神」は依然として変わっていない。花蓮はそこだけを留意していた。
御伽家の領土が「建国議定書」によって1.5倍になった事で接する国は大きくなった。中でも大きいのは「宮地王国」。御伽家よりも先に君主制に移行した国家。この国が接地面積最大の隣国として今聳えているのだ。最初の目的地はここになるだろう。
海峡を渡り、元大石領の「乍」に到着。そこから西進して宮地へと目指す。道が舗装され、店も道中にいくつか存在する。過酷な旅にはなる気配がなかった。赤城も自分の存在意義を疑うほどに。
「えっとー、これどっち?」
「……あれ、これもう宮地王国じゃ……」
なんとも呆気ない国境越えだった。次第に国境の近い所に存在する宮地も見えてくる。既に日は暮れそうだった。進めば家屋が立ち並び始め、夜の活気が町全体を照らし始める。やがて大きな門の前で門番に止められる。
「通行証を拝見」
「……え、持ってないです」
「は?」
門番は明らかに莽薙達を毛嫌いしている。
「えっと……御伽家を代表して宮地国王に謁見願いたいのですが」
「名前は?」
「御伽莽薙です」
「なるほど、当主様ですか。少々お待ちくださいませ」
さっきとは門番の対応がまるっきし変わってしまい、この名前の破壊力を改めて実感した。そして門番は門の中にへと入っていった。暫くしていると大きな門が開き、先程の門番が中に入るように促した。
「ここは堀ノ内と言われていまして、国賓や政府関係者。認められた者や商売のみがこの堀ノ内に集結しております。」
すれ違う人、全員が淑やかで礼儀作法が良くできている。これが「高貴な者」の存在する空間。一応自分も高貴な存在ではあるが、あんまり高貴さは好きではない。
「この更に内側、郭内と呼ばれる場所に陛下がおられます。陛下は只今の時間、業務を終えておりますので、今からご案内する宿に一泊して頂き、翌朝業務開始時間よりの謁見でよろしいですか?」
「ありがとうございます、宿まで用意して頂いて……」
「滅相もございません、隣国の特使ですから」
そう言って宿に連れていかれた。その宿は庭園のど真ん中に建てた屋敷のように厳かで自然の風景、匂い、音が流れていた。とは言え手入れは良く行き届いており、夜遅い突然の来客にも愛想良く対応してくれた。
部屋の雰囲気は御伽家とあまり変わらないが、新品の畳の匂いによって全く違う空間になっていた。歩んできた旅に比べて今回の旅は過酷ではない。しかし、それでも疲労はやはりやって来るのだ。
「明日、国王に何言うの?」
「え、そりゃー『建国議定書に署名して一緒に国つくろうぜ!』…みたいな?」
「……これは早くも終わったかもしれない」
「『第一部 完』だな」
「まだ早いでしょ、てか『第一部』って何の話?」
成り行きでうまく行き過ぎた結果なのか、莽薙の自由奔放さが起因なのかは定かではないが、このままでは宮地国王に軽くあしらわれる。どちらにしても、外交交渉が初めてと言う事が莽薙の行く手を阻んでいた。だが、それよりも高い壁を幾多と越えてきた彼らにとってその壁は取るに足らない物だろう。
「じゃあ、作戦を練りましょ」
「はい!『金色の菓子』が良いと聞いたことがあります!!」
「はい却下!」
「じゃあ大人しくお金渡そう」
「却下!それが『金色の菓子』だよ!!」
「めんどくさい、斬っちまおう」
「もっと却下あああああ!!」
花蓮は異様に疲れた。原因はこの二人であるのは分かっているが、能天気な自由奔放、意気揚々当主様と、阿保剣士がこの事態に使える人材になるには数十年かかるだろう。そう考えると花蓮が自分自身で考えた方が早いのではと考えるようになった。
莽薙の自己犠牲を心配しているうちに自身の自己犠牲に気づけなくなった花蓮は、そのまま莽薙をよそに一人で考え込む。とにかく今できる事と言えば……。
「国王が好きな茶菓子とかありますかね、手土産にしたいのですが……」
「ああ、『貴和亭の金箔饅頭』だな。陛下は良くあれをご所望される」
「……なるほど、良いことを聞きました。早速手配します」
「いや、この時間では流石にもう……」
「では、その貴和亭は明日の何時からやってますかね?」
「……正午だったかな、下準備に時間がかかるから開店時間も遅いんです」
これは大ピンチだった。明日の国王の業務開始時間に開店が間に合うはずがない。他の菓子も聞いてみるが、現地で調達できそうなのは「貴和亭の金箔饅頭」だけだった。そうなるとかなり気難しい問題となってしまった。お互いの信頼関係構築には必須なのに。
「お、遅いかったじゃん。どうだった?」
「あのね、どの口が言ってんのよ。私もやりたくてやってるわけじゃ……」
「そうそう、探しに行ったらしいけど、お土産は既に買ってあるんだよ」
「……え?」
「ほらこれ」
そこには大きく「貴和亭」と書かれている。そしてその横には小さく金色の文字で「金箔饅頭」と書かれていた。花蓮はその文字列を見て驚愕し、暫く動けなくなってしまった。
「そ、そっ、それ……いつの間に……」
「いや、町に着いたときに買っておいたんだよ。国王は饅頭が好きと聞いてたから」
「最初からなんで言わないのよ……」
「『金色の菓子』を『却下』したのは君じゃないかぁー」
「あっ……」
花蓮は自分を顧みて顔を手で覆い隠してしまった。そのまま崩れ落ちて今までの努力に対しての無力感を覚えた。莽薙は気にも止めずに布団を出してどこに寝るかを赤城と議論している。
しかし、花蓮は笑みを浮かべた。自己犠牲を繰り返して相手に貢献することが信頼であり、友情なのだと気づいたからである。




