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第二話 夢見る国家

 外の樹木たちが騒がしく揺れている。それが分かるほど静かな瞬間だったが、全員の感情も樹木と同じように騒がしく揺れる音が聞こえた。その中で糀谷だけが安堵した様子で莽薙を前に座っていた。


「……それは、つまり…」

「国を作ります」

「ここれはぁ……随分と…大胆な…」

「大胆ですね」


 今まで黙っていた大石が柊の戦々恐々とした叫びが終わった後で口を開ける。


「……恐縮ですが、そんなことは『夏の夜に雪を降らせる』ようなものでございますよ」

「じゃあ降らせようとしてみればよいではないですか。降らせようともせずに断念する方が早計ではないかと感じます」

「し、しかし……」


 莽薙は徐(おもむろ)に立ち上がる。その姿を前には大石も柊も遥かに年下の莽薙に肝を冷した。


「私は至る所で国を見てきた。どの国にも『生活』『文化』『理念』がある。それが人々の幸せを相対的に上げているように感じた。私はそれをしたいのだ」


 世界の見たことのない大石、柊はその発言を批判する程の知識を持っていなかった。ただ現状を維持したいという保守感だけが体を蝕んでいた。


「莽薙様がそのように申されるのであれば、糀谷家は総力を上げてお手伝い仕る」


 糀谷家はそう言って深々と頭を下げた。大石も柊も若々しい二人の意見と態度を吞み、その二人も深々と頭を下げる事に至った。とは言え、流石に何から始めればよいのかは全くもって誰も知ることは無かった。しかし、莽薙はそれを見越していた。


「……それで我々大石家、いや、それを実現するには何をするのが先決か?」

「その為に知り合いに来てもらった」


 荒川実義が襖を開けると、赤城が先導して二人の女性が入ってくる。一方はいつものように黒いコートに身を包み、首元のペンダントを輝かせている。その人物の話し相手はシルクハットにリボンをつけ、ブラウンのドレスに身を包むいかにも発明家と言わんばかりの格好。莽薙が初めて「先進的な国家」を体験した場所の人達だ。


「『知り合い』って何よ!親友じゃないの!?」

「呼び出しといて『知り合い』って、ほんと良い趣味してるわね」

「そ、そっか、じゃあ、親友で……」

「それよりもさ、靴脱いで部屋に入るなんて初めてなんだけど!」

「こう言う点でも異国の文化もいいわね、新しい発見がある」


 中々会話が終わる気配がなく、その見たことのない服装と礼節を欠いた態度に大石と柊は酷く驚愕し、終始口を開くことは無かった。


「……あ、紹介します。僕の親友である『ローシャング王国王女のロメリア』と『新教領の法皇アルテミス二世』です」

「こんにちはぁ~、王女のロメリア・ブラウンで~す」

「『アルテミス二世』なんて堅苦しい。『ソフィア』で結構よ」


『は、はぁ!?』


 異国の人間が来ること自体がここでは珍しいのに、国家元首に当たる人物が莽薙の親友。これで混乱しない訳がなかった。流石に糀谷も驚いたが、直ぐに尊敬の眼差しを莽薙に向けていた。


「彼女らに『国家』と言う物を学ばせてもらいましょう」

「まぁ、私国家運営してないし、技術研究しかしてないけど」

「私も国家運営していないし、裁判しかしてないけど」

「え、じゃあどうやって運営してんの?」


『議会がやってくれる』


 早くも国体が定まらない危機感に煽られる。大石、柊からしたら勝手に上げて勝手に落ちているようなものだった。


「まぁ、『憲法』と言う点では、国体を決めてはいるかもしれない。ロメリアも工業系統なら研究じゃないにしろ、携わっていると思うけど」

「確かに、あんな徹夜していろんな工場歴訪して調べつくしたら嫌でもね……」

「じゃあ、何とかなりそうだね」


 とにかく彼女らのご指導は後々にして、糀谷家、大石家、柊家は六月二十二日、『建国議定書』に署名した。これによってそれぞれの所領を吸収して『統一国家』とし、六月二十二日を建国記念日とした。だが、『国名』はおろか、『政治体制』『国家元首』など未だに決定しておらず、ひとまず莽薙を立てた『御伽政権』と仮称することにした。

 莽薙はその署名が終わった後でロメリアとソフィアをもてなして家の中を案内し始めた。そんな中でロメリアがいきなりふと思い出したように口を開ける。


「あ、そうだ!一つ謝らなきゃいけない‼」

「え、なに?」


 ロメリアはシルクハットを脱いで消してしまうと、そのまま深々と頭を下げる。今日だけで何回この光景を見た事か……。


「ごめん!ゼリテーヌで騎士団が迷惑かけたみたいで……」

「……え、そうなの?」

「貴方は拉致監禁されてたんだから分からないでしょうけど……」

「まって、拉致監禁って何よ」


 そう、あの事件に関わってないのは莽薙とソフィア。全く事情は理解できていなかったので花蓮がその時の事を語る。語ると長いので、先に部屋に座らせてお茶を振舞った。そして詳細に語った。その上で何回もロメリアは頭を下げた。


「まぁ、謝るならマリーさん達に……」

「いやぁ…そうしたいんだけどさぁ……」

「……?」

「一応国の君主であるのに、民衆が嫌いな『ライバル国』に頭を下げたら、そりゃあ……」

「なるほどね……」


 君主と言う性質上、本心を語ってはならない。そして何よりも『間違い』はあってはならない。全てが『完璧』である事が求められるのだ。マリーもその性質は抜けていない。大国同士の君主が歩み寄ろうとしても、それは民意と政府の外交方針に反して『間違い』になる。 

だからこそロメリアのように政治に関与せず、民衆にやらせて何もしない事は、君主にとって賢明な判断だろう。


「あ、今こうやって頭下げているのは『親友』だからね、決して『政権の長』だからって訳じゃないから!!」

「あ、うん、そうだね」


 君主は何かと不便だと感じる。ロメリアの場合は生まれながらに君主になる事を目指されていたおり、ソフィアは民衆によって半ば強引に君主になった。今まで会って来た君主たちは一体何を望んで君主になったのだろうか。自然な流れだったのだろうか。


「まぁとにかく、旅も終わって莽薙くんの目標も見つかったようだし、結局よかったじゃない。休む暇がないってのが難点だけど……」

「大丈夫、目標の為ならそんなの痛くない‼」

「いや、痛みが無くても傷付いてたらダメでしょ、なんかロメリアに似て来たわね」


 そう言うとソフィアは紙とペンを出現させる。そのまま机の上で色々と書き始めた。ロメリアもそれを覗き、助言をしていた。そして書き終えるとその紙を反転させて見せてきた。


「『身を切る改革』をしても、意味がなければそれは無駄になる。やるべきことは凡そこれ」


①憲法の制定と政治制度の決定

②金融市場への参入

③工業化の推進

④近隣の独立国家との関係構築

⑤国家アイデンティティの構築

⑥軍備拡張と近代化


 これらが書かれていた。全て的を射ている提案で、国家にはどれも必要不可欠な要素ばかり。生まれたばかりのこの国にとっては重要な指針になるのは言うまでもない。


「『①憲法の制定と政治制度の決定』は私が、『③工業化の推進』はロメリアが参考になるはずね」

「海軍でよければ『⑥軍備拡張と近代化』もできると思うよー!!」

「『②金融市場への参入』はヌビアに頼めばできるかな……?」

「確かに、経済の原石とも言えるし何とかなるかも‼」

「陸軍はイーサンド・ルイスが強そう。あと『⑤国家アイデンティティの構築』もできそうな気がするな……」

「まぁ、頼るところがあるなら、その方がいいわよね」

「私は黙っときまーす……」


 ロメリア達は莽薙と話した後で、観光と実地調査を兼ねて探索することにした。彼女らも旅をしに来たらしい。かなり自由の利く君主だと感じた。まぁ、自分が言える事ではないけれども。


「今から時計回りでこの島を回ってみるよ!」

「地図ありがとね、ちゃんと実地調査してこの国に合った物を考えとくわ」

「ありがとう、期待に応えられるようにこっちも頑張るよ!!」


そう言っていると、飛行船からクラッシックカーが出てくる。その運転席にはピンク髪のヴァイオレットが運転席に乗っていた。莽薙達に軽く手を振るとそのままヴァイオレットは車を出して行ってしまった。


「さて、僕たちもこれから仕事だね」


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