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僕らの愛しきユートピア  作者: モッツァレラ
第一章 虚空の炎舞編
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第八話 神退治

糀谷は炎を纏った刀を振りかざし、不死鳥は避ける。糀谷自身は赤城ほどではないが、父に言われて武芸は磨いていた。まさかこんな所で生きるとは思わなかったが。

 炎と炎の戦いは白熱。両者の炎が周囲の草木を燃やし始めた。しかしながら、神に対して人間は無力。糀谷は慣れていない環境と体力面で勢いが落ちてきた。対して不死鳥はひらりひらりと避けて余裕の笑みを見せる。糀谷はとにかく千々波の元に行かせない事で精一杯だった。


「退屈、終わらせて良いかなー」


 不死鳥は優雅に舞を踊りはじめ、周囲に熱風の渦がつられ始めた。不死鳥の踊りに合わせて熱風が徐々に風圧を強くし、糀谷の体力を蝕んでいく。風が巻き起こる中、堰を切るように強烈な風が左から吹き荒れる。


「熱い……」


糀谷は地面にしがみつく様に片膝を地面につけて体を丸め込む。流石に武芸は達者でも耐火の訓練はしていない。とにかく状況を整理しようと、吹き荒れる突風の中で、何とか振り向きながら片目を天に向ける。


「どうなってやがる…‼」


先程まで少し可愛かった渦は今や天に昇り続けている。その先には不死鳥が何食わぬ顔で覗き込んでいる。炎の竜巻の渦中に糀谷は吞み込まれた様子だった。

糀谷はその熱風を気合で耐えるも、炎の竜巻の渦中では何もできなかった。風のままに身が流れ、恋しい地面が遠くへ離れていき、炎の壁へ身が流れていく。とにかく避けるために刀を振って軌道修正を試みる。


「…ああくそ、どうにでもなれ!」


 予想に反して振り回した刀から黄色い斬撃が飛び、その反動で軌道修正されて一命をとりとめる。目に光を取り戻し、希望が芽生えた。

これならいけるかもしれない——。

そう思い次の衝突を避けるために体をねじり……


「残念」


 不死鳥が上から逆さの状態で現れた。口だけを動かしてその言葉を伝えると、手で糀谷を炎の壁に向けて押し出した。その時の笑顔は悪魔そのものだった。悪意が前面に出ている絵に描いた悪魔。梔子姫は完全に不死鳥に乗っ取られたのだと感じた。逆さで見届ける不死鳥が徐々に小さくなり、視界が炎に包まれる。

強く地面に打たれたのは分かった。神、悪魔に対して人間なんてものはその程度だ。だが、神や悪魔という存在を作り出したのは人間だ。結局は人間が修正をしなければならない。その為には立ち上がらなくてはならない。


「…動けよ、」


 そう呟いて全身の筋肉に力を入れるが、どの部位も地面が恋しいらしい。腕は痙攣して動かない。下半身に関しては動く事を諦めていた。やがて心までもが沈み込みそうになり、顔を埋めようとした時だった。


「竜魚にしては険しい登竜門だな」

「あ、赤城さん—」


 再び顔を上げた時には赤城がこちらを覗き込んでいた。不死鳥の方は上半身と下半身が分かれて横たわっていた。顔は伺えないが、きっとあの不気味な笑顔ではないだろう。


「だが、よく健闘した。刀借りるぞ」


 そう言って赤城は自身の刀と合わせて二刀流の態勢を取った。幾ら芸達者でも一刀流と二刀流を両方できる人はなかなかいない。赤城の強さがひしひしと伝わってくる。


「——赤城さんって二刀流もできるんですね」

「普段は一刀流だが、今回に関しては再生する相手だ。傷は多い方が時間を稼げるからな」


 常に一手先を読んでその場に適した戦略と判断をその場で行っている。そう考えると赤城に対して背筋が凍る。自分と同じ人間の枠組みに入れていいのだろうか…。


「人間どもめ、これにしまいか?」


 不死鳥は身体が繋がり、腰を動かし、掌握運動をして体の動きを入念に確認していた。


「こいつは黙る事も出来ないのか」


 そう言って再生した不死鳥へ歩みを進める。千々波の舞はもう少しかかりそうだ。鬼と神の戦いを前に、人間の自分は何もできなかった。いや、することがなかった。


「赤城、覚悟しろ」


 そう発すると梔子姫の手先から炎に包まれた鳥姿の不死鳥が現れた。その炎が禍々しい刀を形作り、梔子姫が構える。構えた途端に刀が先行するように梔子姫が攻撃を加える。跳躍し、腰をひねり、遠心力で刀に勢いをつける。それと同時に剣先が少し伸びる。


「関節を…外した…⁉」


 どこかの架空世界だろうか。彼女の腕が伸びて剣先がさらに遠くへ行き、赤城の首の後ろへと持っていく。不死鳥だからできるこの技に大きく衝撃を受けた。同時にこれは体の隅々まで不死鳥の統制下に入っている何よりの証拠だと確信した。


「化け物なら容赦はいらないな…」


 赤城は動揺するよりも、落ち着いて安堵の感情を吐露した。赤城はその太刀筋を素早く弾き、逆に相手の首よりも伸びた腕を狙う事で、再生の時間を一方的な攻撃の時間とする作戦を採った。それに対して不死鳥は腕を早々に諦めて刀を持ち換えて攻撃。その攻撃を回避して、その勢いで首を狙う——。

こういった駆け引きが一瞬のうち繰り返される。刀が触れるたびに火花が散り、音が鳴る。その火花と音でやっと刀の位置が分かる。基本的に双方の刀は見えない。益々赤城を人間として疑う。


「こんな技ごときで人間が倒せるとでも思ったか」

「その威勢がいつまで続くかな、人間‼」


 勢いは益々増していく。そんな中で赤城が後退して刀を見送った。相手の多数の攻撃を見送り、赤城は徐々に遠ざかっていく。赤城が疲れて押されているように見える。


「これは……貰った」


 赤城が口角を上げ、目に光を宿す。感情が表に出ない彼の表情筋が動くのを初めて見た。その表情は勝利を確信していながら、地獄を楽しんでいるようにも見える。


赤城流あかぎりゅう龍王争覇りゅうおうそうは


 赤城は直ぐに体勢を立て直し、怒涛の連撃を繰り出す。赤城の体は動いていないように見えるが、その先の腕は全く見えない。徐々に火花が止み、音も鈍くなり、梔子姫の姿が崩れていく。やがてお互いの姿を捉えられなくなった。刀が止まると、流石に赤城も息を切らしていた。先程までの轟音が静謐の中で赤城の吐息だけとなり、脳がその吐息をうるさく錯聴する。


「赤城、おつか…」

「——ま、まだ、戦いは終わってねぇ…」


 肉片が集結し、発火する。それを火種にやがて一つの炎が完成し、その炎が大きくなる。その炎から無傷の梔子姫が現れたのは言うまでもない。啞然として言葉も出ない。


「もう体が音を上げているじゃないか。今の感情は……『絶望』か?」

「小癪な話だ」


 そう言って再び火花と音を立てて戦いが始まる。しかし、赤城は初動から避けることが多くなった。少し焦っているようにも見える。赤城は一度間合いから大きく離脱すると、そこで初めて腕に浅めの切傷を作っていることに気付く。


「こんくらいで…ゴホッツ」


 赤城は動きすぎたのか咽こんでしまった。口元を手で隠しながら、目線は獲物を睨み続けている。


「恨むのであれば、人間であることを恨みな」


 梔子姫の右手から放たれた火炎玉を回避し立て直す。そのまま右手に回り込んで先ほどの続きを始める。だが、誰がどう見ても赤城の劣勢は明らかだった。だからといって自分に出来ることは——。


「糀谷さん、これを不死鳥に投げて‼」


 千々波の演舞が終わって様で、彼女が乳瓢を投げ渡してきた。不死鳥はその瓢を目線上に認めると、赤城を後にしてやっと立ち上がった糀谷へ一目散に向かう。赤城は急いで左腕を切り落とすが、刀は右手にある。おおきく振りかぶってその刃先が首へと振り下ろされる。


「……この際諸共‼」


 何の影響を及ぼすのかは知らないが、死を承知の上で勢い良く不死鳥へ投げつけた。乳瓢は不死鳥の斬撃で斬られ、中から白い液体が飛び出る。


「くッ…‼」


 そう身構えたが、予想外にも不死鳥の刃先は止まっている。その腕は痙攣しており、赤城が不死鳥の胴体を二本の刀で突き刺して動きを止めている。その隙に千々波は号令を下す。


溶礼術ようれいじゅつ 白乳白玉はくにゅうはくぎょく‼』


 白い液体は忽ち膨らみ不死鳥を優しく包み込んだ。不死鳥は遂に身動きが取れなくなり、罵声を上げることしかできなくなった。千々波はその不死鳥に近づいて札に文字を書き、貼り付け始めた。


「後は夕暮れを待って自然消滅を待ちましょう」

「お、終わったのか」


 糀谷は倒れこむと、赤城が刀を不死鳥に刺したまま下がり、糀谷の隣に立って不死鳥を覗き込んだ。


「なぜあの斬撃は自分の首元で止まったんだ…?」

「奴の慈悲ではない。よく言えば、そうなる運命だった」


 糀谷は首を傾げると、赤城は分かりやすく説明した。


「あいつは『完全回復』じゃなく、『コピーの復元』ができる。と言えばわかりやすいな」


 糀谷の傾げた首は戻らず、赤城はため息交じりに首裏を優しくなで始めた。どうやら分かってない様子に赤城は呆れた様子で事の顛末を話す。


「完全回復なら、お前が倒れた後に体の動作確認をする理由が分からない。そう疑問に思ったから仮説を立てた。『回復じゃなくてコピーの復元なのでは』、『復元が失敗することもあるのではないか』と」


 糀谷は理解した様子で首を縦に振る。赤城はより詳細に語り始める。


「俺が咽こんでる時に来た右腕の攻撃は少し鈍くて、少し止まっているようにも見えた。そこからその説を核心に変えて、右腕の肘以外の場所に目標に向けて攻撃を集中させた。そして君が狙われたときに右手が使われるように左腕を切り落とした。後は念のために胴体を。」 


そんな中で不死鳥が声を上げて笑う。


「大した人間だ、全人類がこのような男であれば神でも敵わないな。まあ長生きはできないがな。精々人間として…」

「だまらっしゃい!」


 千々波は不死鳥の額に勢いよく大きなお札を貼り付けた。いや、叩きつけたの方が表現的にはあっている。面食らった不死鳥はそのまま喋る事はなかった。


「コピーなのはわかったが、梔子姫本体は何処にいるんだ?」


 不死鳥は再び声を上げて笑う


「勝ったとはいえ、私の能力について教える義理はない!」

「教えなさい!」


千々波は不死鳥の額に勢いよく更に大きなお札を叩きつけた。再び啞然として、一度間を開けてから喋り始めた。


「梔子姫は私にとっての依代だ。本体は復活する前に彼女がいた場所。私が彼女の体を使うのは、一番動きやすいからだ……これでいいか?」


 赤城はそれを聞いて安堵して腰を掛けた。今度は糀谷が質問した。


「コピーを復元するのになぜ不良品が出るんだ?」

「それは…」

「言いなさい!」


 千々波は不死鳥の額に勢いよくさらに大きなお札を叩きつけ…


「さっきからこのお札意味ないんだよ!もうお互い顔見えないし!」


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