第十七話 すべての帰還
大きな地震が起きたかのような地響きが城の全体に伝わる。その揺れで莽薙は目を覚ましたが、ヌビアは急いで退避するように言われる。どうやら城の石垣が崩壊するらしい。エリゼはマリーをテレポートさせて先に脱出した。
「……みんな、ありがとう…」
「もう少し休んでろ、俺が運んでやるから」
「そうだね、そうしようかな……」
「ナギ君だけずるいです!わたしも、わたしも!!」
「なーんでお前が!」
「私が背負うよ」
「やったー!ナッシーやさしー大天使ー!!」
千々波は梔子姫への背中に「千々波ダイブ!」を決める。梔子姫は背中に千々波を感じながら全速力で撤退を始める。
しかし、上から巨石が降ってきた——。手が空いてるのは花蓮しかいない。
「花蓮、石弾きできるか?」
「えぇ、どうかな、やってみる?」
花蓮は薙刀を出現させ、回転させながら降り注ぐ巨石に当てる。しかし、巨石を弾き出すには少し力が足りない。そこで赤城が奇策に出る。
「そういえば莽薙、こいつ金鉱の時にな、ある男に対して、いろじ——」
「ぎゃああああああああ!!!」
花蓮は馬鹿力と言わんばかりの力で巨石を弾き返した。そのまますぐに赤城へ薙刀の穂先を向けた。
「何もなかった、いいわね!!!」
「……お、おう」
莽薙は赤城の腕の上で目の前の花蓮の薙刀の刃が目に入り、恐ろしくて堪らなかった。
「楽しくてええのぉ~」
「ほんと、いい仲間ですよ」
そう言って全員が来た道へと戻り始める。一本道の通路を走って駆けて行く。ヌビアやセイビア、ジェットが期間を果たす。そしてそれに続いて花蓮が入り、いよいよ全員が帰還する直前——。
「赤城、莽薙!」
全員がその言葉に振り返る。そこには凄惨な光景があった。武田の体にアルドナートの槍が貫通していた。
「半蔵!?」
「あっ、ああ、ちくしょう…」
武田はそのまま膝を地面につけて動けなくなった。アルドナートはその光景を見て笑みをこぼす。
「……ヌビアさんの古代魔術のお陰です、改めて感謝を」
「お前ぇええええ!」
赤城の激昂も聞かずにアルドナートはポケットから古代魔術を取り出す。そしてそれを掲げて再び大声で語る。
「莽薙くんの忘れた古代魔術で私も逃げるとするよ!」
『テレポート』!
アルドナートは莽薙がアラバード・オアシスで使う予定だったゼリテーヌへのテレポートする古代魔術を使って一足早く脱出した。
「……くそっ!」
「半蔵さん、大丈夫ですか!」
武田はもう多くを語らなかった。糀谷は察しがついたが、涙を堪えて武田を担いで脱出した。
外に出た途端に城は崩壊し、砂埃が舞った。そんなことお構いなしに莽薙と糀谷、赤城は武田に駆け寄る。
「武田さん……!」
「……こりゃあ、いかん。」
半蔵は自分の死期を悟った。四人衆の一人で狂犬。そんな彼が最後に涙を流している。こんな砂漠の中で頬に零れる涙が、全員の涙を誘うのに時間はかからなかった——。
「莽薙ぃ、糀谷ぁ……、おまんらが力を手に入れりゃあ、夢は叶うさかい。まだその時ちゃうっちゅうだけやけん……、げに、心配なさんなやぁ…」
「何言ってんですか、そんな最後の言葉みたいな……」
「赤城ぃ…、おんどれ、御伽家守らにゃあ……づきとばすで…?」
「……ああ、任せろ」
その時だけは世界から一切の騒音が消えたかのように静かだった。目を閉じた半蔵の口が朗らかに笑う。とてもいい夢を見ているようで、それを嘆くような気持にはなれなかった。
イーサンド・ルイスからこの時まで、時間は少ないが、旅をした数少ないうちの一人。彼が居なかったら、もしかしたらここまで来れてなかったかもしれない。四人衆の赤城は涙をこらえる。関原は背中を見せて動かなかった。
——そこから三日間。マリーの魔力は思ったよりも回復せず、魔法が使えない日々が続いていた。エリゼが支援しているが、マリーは外に出られない日々が続いている。莽薙は逆に順調に回復して外出ができるぐらいになった。
ヌビアは国家の統一によって内政を全て任せて国王を退位した。その際に金の流出防止に努める事と、パラミダス川の解放。食料品の確保だけをお願いした。
「……私さ、一人で旅してみようと思ってるんだよね」
「えっ、僕たちと旅したくないって事!?」
「いや、そうじゃなくてさ。わたしは私の事まだよく知らないんだなって。それに、この旅が楽しすぎたの。今度は自分で旅をしてみたいの。あなた達みたいな。」
「まぁ、ナッシーも旅立ちの時なんだよ、いいんじゃない?」
「少し物悲しいが、旅の安全を祈っている。」
「私もです!」
「ありがとう、みんな」
そう言ってみんなで抱擁を交わす。しかし、抱擁と言うとは不思議な物だ。何故か感情がとても昂ってしまうのだから。
「あっ」
「えっ?」
「千々波の事やってもらわなきゃ!」
「あ!なんか依代で満足しちゃってました!」
「満足してんならそれでいいんじゃない?」
「確かに~」
「そんなわけにはいきませんよ!ヌビアさんの元に行きますよ!」
全員でヌビアが居るらしいマリーの病室に向かった。そこはマリーと談笑するヌビアが席に座っていた。エリゼはどうやら買出しをしているらしい。ヌビアにその件を話すとすぐに支度してくれた。流石は退位した王。暇なのかな。
「なんか思ったか?」
「いや、別に……」
マリーもそう考えると退位した女帝。各地に行けるのは自由と言うよりかは暇……。
「なんか思ったわよね?」
「いや別に……」
そんなこんなでトミコ大祭壇と言う場所に到着し、儀式が始まった。千々波の依り代が千々波の本体を持ってくるというなんとも不可思議な事態が発生したが、儀式上の進行には何も問題はなかった。
「こ、これは……厄介だな…」
ヌビアが祭壇に寝かせた千々波をよく観察し、専用の眼鏡でも確認する。千々波を直に触って確認する姿に千々波が目を瞑るが、儀式上の進行には何も問題はない。
「……思ったよりも複雑な呪いだ。長時間放置していた事もあるだろう」
「治せないのか……?」
「治せはするのだが、何と言ったらいいのか……」
ヌビアは顎に手を当てて言葉を探す。眼鏡を外して考え込んで、もったいぶるように時間を取るが、儀式上の進行には何も問題ない。
「完治はする。五年後に記憶がなくなった状態であれば。」
「え、それって……」
「君たちの旅の記憶は無くなる」
「じゃ、じゃあ依り代のままで良いです!」
「じゃあ、二年後に死ぬ」
驚きの診断結果だった。千々波は愕然として膝を崩してしまう。そのまま俯いて動かないが、儀式上の進行には何も問題はない。
「どうする、儀式をするか?」
「……生きていれば」
「ナミみん……」
「生きていれば、またいつか皆さんに会えますもんね!」
満面の笑みで四人に振り撒く。しかし、涙を流していて顔は既にぐちゃぐちゃである。そんな顔を見て景色が潤むが、儀式上、進行には問題ない。
「皆さん、五年後ですよ!絶対に迎えに来てください!」
「うん」
「当たり前よ!」
「勿論だ」
「私もその時には旅を終えていくよ!」
「花蓮ちゃんとか、寝坊しないでくださいよ!?」
「バカッ、最後の別れに言わないの!!」
「えへへ」
そう言ってみんなで再び抱擁を交わす。感情が昂って全員が涙を流すが、儀式上、進行に、問題ない。
「それでは始めるよ」
『ウラジェート』!
ヌビアの貼り付けた古代魔術から蛇が千々波の中に潜り込む。そして全身に入ってから千々波の依代は分解が始まる。儀式上、問題ない。
「皆さん、ありがとう、さようなら。また会いましょう!」
無心で全員手を振る。今までの思い出を巡らせながら、依代がなくなるまで。千々波は深い眠りについたが、儀式上、問題ない。だが、感情には異常しかなかった。あの赤城でさえ涙を流している。この旅において初めての経験だった。
「さて、次は貴方達だからね!」
——翌日、梔子姫を置いて地元に帰る事にした。出発はローシャング王国の飛行船を使う事にした。騎士団の話では、ロメリアとソフィアが別れ際に言ったように、吾妻に来るらしく、丁度いい機会なので吾妻まで飛行船で帰還することにしたのだ。
「君たちには色々と世話になったよ、パラミダスを代表して感謝する」
「こちらこそです、いい勉強になりました!」
「私も体調が整ったら行くわ。莽薙君の夢、前に進めとくのよ」
「もちろんです、待ってますから!」
「ナミみんをよろしくね」
「ああ、任せろ。自分の事も気遣ってやれよ」
「また旅のどこかで貴方達に逢えたら……その時は『奇跡』ね」
「フッ、そうだな。五年後まで忘れんなよ」
「もちろん!!」
飛行船は飛び立つ。外の歓声を遮断するように扉が締まり、プロペラが回る。歓声も聞こえないが、僕たちの泣き声も遮断される。この点だけは飛行船に感謝したい。
どうして人間は出会った時はそれとないのに、別れるときだけこんなに心が苦しいのだろう。普通は出会いをもっと分かりやすくしてほしいものだ。その点だけは神様を恨む。
ああ、今思えば雄大な旅だった。明日はまた別の世界が待っているのだろう。色々なことを経験してきた。色々な感情も養ってきた。胸も苦しく、呼吸もし辛い。でも前に進まなければならない。
五年後、顔負けせずに笑う為に
死にたいと思えないような世界の為に
『僕らの愛しきユートピアの為に』
「僕らの愛しきユートピア」は毎週水曜日と日曜日の19時に更新されます!
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次回は故郷。最後の話となります。旅の締めくくりをどのように迎えるのか、どうぞご覧ください!




