第十五話 朽ちない姫
「……お凛さん」
お凛は千々波の周りに転がる仲間たちの死体を見て、自分を落ち着ける事が出来なくなった。しかし、噓を吐く事しかできない。
「……ご安心なされよ。心配ご無用!」
千々波がその場に座り込んだところで、お凛は再びセクメルと目線を合わせた。
「これで分かっただろう。お前も人間でありながら、神に近い者であると。」
「我らは……一体」
「この地を天の国とするならば——下だ。」
「この小職もか——」
お凛は少し動揺したものの、少し俯いたまま目を瞑る。そして少し頷いた。
「……左様か。些か、小職を人間か何かだと、盲信しておった。」
「ああ、お前は人間ではない。」
「……だが、小職は、私は、人間になりとうございまする。」
「人間になったところで、人間がそなたにする事は傍若無人。そしてこの景色のように、幾度も親しき人間を亡くす景色を見る事になる。人間を辞めるならば、私があなたを配下として永遠に重宝してやる。」
お凛は目を開けた——。
「その義には及ばず。先んじて、彼らの仇を討つべし。」
「永い命はつまらん。その仇討ちも何の意味があるだろうか。」
お凛の目には、涙が浮かんでいた——。
「彼らと歩んだ旅。永い命などより、その一瞬が小職の求むるもの。儚くともよい、届かずとも良い。小職なりの恩返しに御座候。」
お凛は印を結び、自身の胸に手を当てた。
「……なんだそれは?」
「小職、いや、梔子姫がこの先、どんな困難あろうとも、自我と大義を忘れる事なく、清き正しき道を進む為の咒に御座います。」
お凛は形代を取り出し、呪文を唱える——。
——天津道を知る者よ、漆黒の炎を以て護道せしめ給え。
天地玄妙『不死鳥』
我が声に答え、ここへ来たれり。
急々如律令!
お凛は形代に強く息を吹く。その形代が指を離れて宙を舞う。その形代が飽和していく——。
「——真名・梔子姫」!!!
大きくなった形代は、お凛を優しく包み込んだ。お凛の涙は消え去る。背中から黒い翼が生える。
そして同時に隣にも同じような人型のシルエットが形成される。そちらには黒い翼は生えていない。代わりに——黒い髪が靡いている。
「ゆけるか、梔子姫。」
「え、な、なんで私が!?」
「小職も斯様になるとは夢にも思わず。」
「な、何ができるかな、私……」
「貴殿は火を操れる。助太刀をお頼み申す。」
「……なるほどね」
「す、凄い、ナッシーとお凛さんの共闘だ! テンション上がるぅ!! ガンバレ二人共ぉ!!!」
千々波は立ち上がり大興奮。目を輝かせていた。梔子姫とお凛はその応援を笑顔で受け取る。千々波は負けじと溶礼道の舞を踊り始めた。
「不肖、彌姫改めお凛、」
「梔子姫、」
『推して参る!』
梔子姫は開幕と同時に手を伸ばし、いつもの回復する手順と同じように火魔法をセクメルに放った。セクメルはが視界をさ抉られた瞬間、お凛は翼で飛び上がり、そこからセクメルの首へ大太刀を引っ張る——。
『妖魔退散』!!
梔子姫の炎が止むと、大太刀がセクメルの首を切り落とした。しかし、セクメルは片手で自身の首を掴み、その傷を回復させた。
「させぬ!」
お凛は地面に足をつき、そのまま体をねじり、その腕を大太刀で切り上げる。
「鬱陶しい。」
お凛はセクメルの片手に出現したステッキに叩かれる。ステッキの打突と同時に振動がお凛に注がれており、思わぬ痛手を被った。
「——ぬかった…!」
立膝をつくお凛に梔子姫が近づき、炎でいつものように回復した。
「お凛、これは彼らを見て思った事なんだけど……」
梔子姫は炎を大太刀に纏わせた。
「——もしかしたら、じゃない?」
「回復遅延か……重畳至極!」
お凛はその大太刀を携えて再びセクメルへと挑みに向かった。翼で飛び上がり、再び同じように刀を引っ張る。
「……同じことを何度もやるのは、愚かだ。」
「間違いに気づかなければの話である!」
セクメルの目線にあったお凛は幻影として消える。そのお凛は既に大太刀を振るい、目の前に居た。
セクメルはステッキで防ぐも、両断され、腕を刎ねられる。そのまま体をねじり、大太刀をセクメルの胸に貫通させた。
「……やりおるな、不死鳥か。」
「戯言を…」
セクメルは片腕でお凛の首を掴む。そして先程同様に衝撃波を流し込み始めた…。
「ウグッ」
「さぁ、お前はもう離れられまい。」
しかし、胸に刺さった大太刀の炎が大きくなるにつれて、セクメルの痛みも徐々に大きくなる。お凛の裏で梔子姫がその炎の威力を大きくするように努めていた。
「……ここで果てるならば本望!!」
「……クソ野郎!」
セクメルは徐々に声を上げ始める。お凛は衝撃波と共に吐血する。しかし、大太刀を離そうとはしなかった。
「——っふ、これで、小職も、梔子姫も、あの世で彼らと旅が続けらる。」
お凛は三つ編みの髪が乱れ始め、吐血の頻度が多くなり、白目を向く回数も多くなってきた。それと同時に一心同体の梔子姫にも疲労が見え始めた——。
「おい、『死にたいと思えない世界』はどうした」
「……え?」
セクメルの腕は切り落とされ、お凛は大太刀を残して倒れる。それを優しい両手が抱えた——
「……ま、まさか、そんな、ことが…!?」
赤城がセクメルの前に立ち、花蓮がお凛を抱えていた。
「お凛ちゃんよく頑張ったね」
「……でも、な、なにゆえ…」
「……おまじないさ」
セクメルはヌビアが貼り付けたあの古代魔術を凝視する。
「その古代魔術、『トートジェニファ』は『物質の動きを戻す効果』がある」
セクメルは胸に刺さった大太刀を抜き取って捨てた。
「お前の負のエネルギーは本来この世界には存在しない。古代魔術に触れたら吸い取られるのは当たり前だ」
「つまり、私達は無傷で貴方は弱体化するって事。追い詰められていたのは貴方よ」
セクメルはマリーとヌビアをつよくにらみつけた。
「そして、私の舞も回復も魔術の効果を高めている事もお忘れなく!」
千々波は梔子姫に抱きついた。花蓮の腕の中でお凛は少しだけ涙を浮かべる。
「……死ぬかと、思いました。」
「私たちが何とかするから、お凛ちゃんは休んでてね。」
「——かたじけ、ない。」
お凛は目を瞑る。花蓮の腕の中のお凛は形代となって梔子姫に向かって消え去った。
「カラクリを知ったからにはもう終わりだ、死にたい程に痛めつけてくれよう」
「マリーさん、お願いできますか」
「ええ、勿論。エリゼも手伝って、私が死んでほしくないならね」
「はい、わかりました!」
セクメルは古代魔術を二つ貼り付ける。
『ジィヤーダト』
そしてマリーは左手で右手首を支え、右手をセクメルに向かって構える。その背中にエリゼが背中に両手を触れる。そしてそのまま目を瞑って詠唱を開始した。
「マリーさんの詠唱が終わるまで、セクメルの足止めをしてくれ」
『了解!』




