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第十二話 集う勇者たち

挿絵(By みてみん)

↑結果の地図


 梔子姫がトッコン・ジェロに戻ってから、ゼリテーヌに向けてパラコ派の軍による反転攻勢が開始された。ファーニマルの蜂起によって補給路が絶たれていたミダル軍は駆逐されることになる。 

 翌日にはファーニマルに到着し、マリー達とミッシュ隊に合流。その翌日にはゼリテーヌに到着し、花蓮達の金鉱山蜂起軍にも合流した。今まで何も動かなかった前線が一気に二日で動き始めた。


「ナミみん!ナッシー!」

「ハナミ!かねちー!」


 久々の再開に花蓮と梔子姫、千々波は抱擁を交わし再会を喜び合った。糀谷もそこに近づき、武田と硬い握手を交わす。赤城はそれを見て微笑むが、すぐに違和感をおぼえる。


「……おい、莽薙は?」

「ナギ君は……」


 梔子姫は起きたことすべてを話す。マリーもその話を聞いて驚愕して口を塞ぐ。赤城でさえも愕然とし、全員がその悲報に俯く。一番驚いたのは花蓮だった。花蓮は膝から崩れ落ちて顔を覆い隠し、涙を浮かべて肩を上下に揺らしている。千々波は花蓮を慰める事しかできなかった。


「こうなっては仕方ない、さっさとあの居城に行くしかないだろ」


 赤城はそう言って一人足を動かす。しかし、彼らの疲労は想像を絶するものだった。無理もない。二日でここまで来られた事自体が異常なのだから。


「落ち着きぃや赤城、今は無理じゃろうて……!」

「俺は行ける。そこをどけ武田」

「言うたちや……」

「……じゃあやり合うか?」

「待ってよ、カネチー!」


 梔子姫は間に入り、赤城の柄を持つ右手を抑える。そして強く赤城の顔をにらみつける。赤城は相変わらず表情を変えない。


「私だって行きたいのは山々だよ、でもこの状況じゃ無理だよ……」

「俺は行けると言っているだろ。あいつの刀である俺が、ここで止まって何になる。」


 赤城は梔子姫を振り払ってそのまま真っ直ぐ歩み始める。その後ろ姿はいつもの赤城の語らない背中ではなく、どこか物悲しいく脆弱(ぜいじゃく)な背中のように思えた。


「……貴方はナギ君の刀かどうかは知らないけど、私達は仲間でしょうが!」


 梔子姫は赤城の肩に手を置いて強引に止めようとする。しかし、梔子姫が思った以上に歩む力は弱く、手をのせてからすぐに立ち止まった。まるで止めて欲しかったかのような雰囲気だった。そしてもう一つ気づいた事がある。


「か、かねちー……泣いてる?」


 赤城は左手で目頭を押さえているようにも見えた。肩動いていないが、頬を伝う汗のようなものが見えたのは確かだった。


「……その手をどけてくれ。別にお前は悪くないが……、俺の中にある、良く分からない感情が……、お前を斬れと言ってんだよ……」


 赤城は悔しさと守れなかった梔子姫に対しての憎悪がにじみ出ている。梔子姫が仲間なのは百も承知でありながら、その考えが出てきてしまった自分への嫌気。そして莽薙を攫って行った彼らへの憤怒。これが合わさって優しい赤城の精神を蝕んでいた。


「かねちー……」


 梔子姫は赤城に置いた手をそのままに、後ろから抱擁する。梔子姫は人の心には人一倍敏感な一人の人間。不死鳥と蔑まれて恐れられた中で、光を見せてくれた人物達ともなれば尚更大事に思う。


「……私、別に仲間に殺されるならいいよ。元々死にたかったし。でも、貴方達が見せてくれるんでしょ?『死にたいと思えない世界』を……」


 赤城はそのまま頬の雫が乾くのを待った。砂漠である事を良い事に、その雫はすぐに乾くことになる。だが、逆に赤城は全く動けなくなった。


「ナギ君は大丈夫。大丈夫だから。ナギ君もみんなに救ってほしいんだと思うよ?」

「……そうか」


 赤城はそう言われた後で右手を刀の柄から、左手を目頭から離した。両手をだらけてそのまま赤城は俯いてため息を一つ。今度は額に左手を当てて冷静さを取り戻して振り返った。


「……治安を乱しているのは君たちだったか。」


 梔子姫は赤城の顔を見た後、声のした後ろへ振り返る。そこには見たことある人物達がマリーと対峙していた。それはロドメリア騎士団団長の——


「……ジェット?」


 花蓮と千々波の目前でジェットが率いるロドメリア騎士団と、ルイーゼ率いる「栄光ある自由の守護者達」が睨み合っていた。


「ローシャング王国はこの国において飛行船計五隻を喪失した。行方を確認して確保するまでゼリテーヌの治安維持は我々に任せてもらう。直ちに武装解除、調査に協力されたし。」

「イーサンド・ルイスはこの国において民衆の自由を確保する。貴殿の要求はゼリテーヌ市民及びこの国の自由を揺るがすものである。到底受け入れられるものではない」


 そのまま両者の論戦は過激化していく。マリーもエリゼもローシャング王国のロドメリア騎士団を睨みつけている。千々波は近くに居るマリーに駆け寄る。


「マリーさん、どうにかできませんか!このままじゃ戦闘に……」

「……イーサンド・ルイスはローシャング王国との因縁が多く存在する。ここで引けない。それに、既に戦争状態だしね。」

「千々波殿、正直、この対立を止められるとするなら、すでに両国の関係は改善されているものだと思います。」

「そんな、関原さんまで……」

「意地の張り合いは長く続く物ですよ。」


 両者引くことができないまま対峙を続ける。そしてついにローシャング王国が武器を構えて初め、イーサンド・ルイスも武器を構えて臨戦態勢を整えはじめた。


『クラージュ、インパクト』!!


「抵抗の意志ありと見た。それでは総員……」


『やめぇええええええ』!!


 ジェットとルイーゼは大声のする方を向く。声の主は先程まで泣いていた花蓮の物だった。一瞬で全員が黙り込み、花蓮の漏らす息の音だけが響き渡る。そして花蓮は薙刀を出現させ、双方の間へと歩んでいく——。


「……悪いけど、貴方達の言っている事は受け入れられない。ナギ君がこんな事を求めたりしない。もし、双方の主張を通すなら、ナギ君の意志である私を倒してからにしなさい!」


 双方は啞然として何もできなかったが、花蓮は薙刀を構えて双方を交互に睨みつけている。そこには悠々と赤城も乱入する。


「あ、赤城……?」

「お前が莽薙の意志ならば、俺はそれを守るまで。俺らに刃を向けておいて、生きて帰れると思うなよ貴様ら。こちとら、こんな世界で世界一周する寸前なんだからな。」


 赤城は花蓮の後ろに立ち、右手を再び刀の柄に添える。すると、次にトコトコと少女がやってくる。小さいながらも強い意志を周囲に感じさせる。


「……千々波」

「私もこんな争いには反対です!溶礼道の道から外れています!」


 千々波はレイピアを出現させてジェットたちの方へと刃を向ける。今度はなびく黒髪がすべてを吞み込んでしまいそうな女性が歩いてくる。


「ナッシー!!」

「彼らじゃ『死にたいと思えない世界』は作れなさそう。私が信じるのは今も昔もこれからも、ナギ君のこの言葉しか信じれない。」


 梔子姫は大太刀を出現させて、ルイーゼの方へと睨みを利かせる。マリーもジェットも彼らには恩があり、迂闊に手が出せなかった。


「……ねぇ、来てみたけどさ、これ勝てるの?」

「私達は色んな国を救ってきた。今回も大丈夫よ!」

「ああ、恩知らずの人間は俺も嫌いだしな」

「あんまり痛いのは嫌いですけど……ナギ君の痛みに比べたらって奴ですかね?」

「なんかあなた達と居ると、ほんと意味わかんない勇気が出て来るわ」


 すると、今度は糀谷と武田が歩いて向かってくる。糀谷は梔子姫の前に、武田は千々波の前に進んで武器を取る。


「お前たちの……何で…」

「僕は皆さんのファンなので」

「こっちのほうが、おもろそうやきなぁ…!」


 それに続いて鉱山蜂起軍が乱入。アスカリーも千々波を見ていて、居ても立っても居られなかった為に乱入。バッザースも笑みを浮かべて歩みを進める。ルイーゼもその行動には酷く動揺した。


「カーレンの言う通りだと思うよ!」

「今度は千々波ちゃん達の背中を押してあげなきゃね」

「部下の責任は上司の責任でもある。この有給で出世の手伝いをしてやろう」


 この騒動を受けてパラコ派の軍隊にも火がつき、花蓮達や蜂起軍の外側に展開していく。そしてヌビアが現れる。


「……これがパラミダス市民の意志だ。申し訳ないが、私の一存ではこれを変えることはできない。双方とも武器を下ろしたまえ。」


 この命令に双方は歯を食いしばり、双方が武器を下ろして臨戦態勢を解いた。


「ルイーゼ、ジェットに通達する、双方の利害達成のために指揮権をヌビアに移譲せよ!」


『はぁ!?』


 花蓮の提案に動揺し、ルイーゼとジェット抵抗した。しかし、マリーはルイーゼに命令に従うように言った。ルイーゼは反論したかったが、この情勢を受けてヌビアの前へと駆け寄った。


「『栄光ある自由の守護者達』は……パラコ共和国臨時政府国王、ヌビア陛下に……事態が終結するまで、指揮権を……移譲します……」

「よく言ってくれた。君たちの栄誉は保たれるだろう」

「……ありがたき幸せ」


 先を越されたジェットはヌビアの痛い目線を受けながら焦っていた。そこでネクサが背中を叩いてため息をつきながら行くように諭(さと)す。ジェットはその勢いのままヌビアへとゆっくりと歩いて行く。大きなため息をついた後に立膝をついてヌビアを見上げる。


「……ロドメリア騎士団は、パラコ共和国臨時政府国王ヌビア陛下に対して、事態終結までの間、指揮権の移譲を認めます」

「あなた達の飛行船についてはお詫びしなければなりません。心苦しい決断だとは思いますが、その勇気に感謝を申し上げます」


 花蓮達は臨戦態勢を解いて胸をなでおろした。四人は振り返って笑顔を見せあった。糀谷や武田もそれを遠目から見て微笑んでいた。

 ヌビアは民衆たちの間を縫って花蓮達の元へとやって来た。彼らに微笑み、花蓮とは硬く握手をした。


「莽薙君の安全は私にとっても、この戦争の勝利よりも重要な所だ。それまでは君が莽薙君の意志の代弁者として引っ張ってくれ」

「ええ、もちろんです!」

「皆の衆、明日はついにすべてを決める戦いの火蓋が開かれる。今日は英気を養い、明日の決戦に備えることを望む。良いか!?」


 パラミダスの市民たちは歓喜を上げて呼応する。ヌビアはその呼応を聞いて安心し、民衆の間を縫って戻って行った。その先にある大きな城を睨みつけながら。


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