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第十話 信頼

「何かいい情報あった?」

「まぁ、長官がバッザースって名前でこの国にルーツがない人間なのは分かりました」

「異邦人って事?」

「ハーフかもしれないですが、どちらにしろその方向では変わりないかと」


 夜もすがら、昨日と同じ時刻になった。今日は火災を起こさない事にした。連日連夜火災を起こしていては怪しまれてしまうからだ。これは誰でもそうする。なので別のアプローチをすることにした。


「……と言っても、自分一人で潜入かよ」


 莽薙が寝静まった工場内を歩き回る。何か痕跡がないかなどの捜査として潜り込んだ。とは言え、寝静まった工場内で見つかる事はあまりない。莽薙は目を凝らしながら隅々を見て回る。


「全く、サイコーな女だぜ」

「ああ、アレを突き出せばすぐに言いなりになる」


 何だか不穏な会話が路地から聞こえてくる。その声のする方に進み、近くで物陰に隠れる。どうやらあの扉から出て来たらしい——。

 ついに彼らが動き出したところで、その扉を開ける。しかし、彼らが鍵を閉めたようで全く開こうとしなかった。そこで莽薙は刀で強引に突破した。


「……きょ、今日は、もう、ご勘弁を…」


 そこにはヌード姿の二人の女性が頭を下げていた。前に居る女性は頭を地面にこすりつけて懇願している。後ろの子はまだ幼そうな女性でこちらに何とも言えない目線を向けている。


「何か勘違いしているようだが……」

「……え?」


 頭を下げていた前に居た女性が顔を上げる。軍隊ではなく、異邦人の姿にとても驚愕した。それと同時に彼女は何故か涙がこみあげてくる。そのまま莽薙に抱き着いた。


「え、ちょっ」

「助けてください、どこの誰だかは知りませんが、どうか、助けていただけませんか……!」


 服を引っ張って体重を預けている。その彼女の懇願と涙一粒一粒がその引っ張る力を一層強くさせる。


「も、勿論だ、僕もそのつもりで来た所で……」

「では、この子もよいのですね……!?」

「あ、あぁ……」


 そう言って二人を連れ出そうとしたが、その姿で移動させるのも良くないと思ったので予備で購入していたゼリテーヌの服を着させることにした。


「さ、行くよ」


 そう言って二人のうでを引っ張って外へと抜けだした。梔子姫は確か消火が済んだ第一工場の瓦礫の中に拠点を作っていると言う話を思い出して第一工場に向かう。


「ど、え、どうしたのその子達……」


 梔子姫に事情を説明すると、梔子姫は昔来ていた白装束の服を渡して大きい女性の方に渡した。小さい女性の方は種類が無かったので新しい物が出せなかったが、十分だと言って新しく調達する事を拒んだ。

糀谷が帰ってきた時は軍人として不信感を抱いていたが、事情を話すと受け入れてくれた。


「助けて頂きありがとうございます。私の名前はマヤ。彼女はアリサ。私達はいきなり連れてこられて監禁されていたんです。」

「……アリサです。ありがとうございました……」


 そう言って二人とも深々と頭を下げた。莽薙達は顔を上げるように言う。糀谷は誘拐犯と共犯者の名前を聞き、入念にメモを取った。


「……ちなみになんだけど、反乱勢力とかこの工場にはあるの?」

「ありますけど、わかりません。彼らは場所を転々としていますので。」

「私達も合流したいけど、分からないようじゃ駄目ね。いつまでも第一工場の瓦礫に拠点を作れないからさ、どこかいいところ知らない?」

「でしたら……」


 そのまま彼女について行くと、廃コンテナが砂漠に吞み込まれているところに到着した。莽薙と糀谷が入口を開けて中を確認する。すると、中には金属製のラックぐらいしか置いておらず、殆ど何もない好条件な場所だった。


「ここは人が中々来ない町の端ですから使い勝手は良好だと思います」

「ありがとう、マヤちゃん、アリサちゃん!最高だよ!」


 梔子姫は二人に抱きつく。二人もそれに呼応して抱きしめる。とにかく拠点ができたのはいい成果だった。


 そこから糀谷とマヤ、アリサは仮眠を取って朝を迎える。今度は莽薙と梔子姫が仮眠を取って糀谷は出勤。マヤとアリサは見送った後でコンテナにて再び眠りについた——。


「——おはようサブロー君。別に毎朝挨拶に来なくてもいいんだよ…?」

「昨日も言いましたが、尊敬しておりますから挨拶ぐらいさせてください」

「別に君が言いならいいのだが……」


 今日も今日とてバッザース長官は窓を眺めてコーヒーを啜っている。昨日と違うのは軍帽を外して艶やかな黒髪姿を見せている点と、立ちながら外を覗き込んでいるという点だった。


「……今日の職務も第三工場と第五工場の予防ですかね?」

「いや、今日は第三工場と第四工場をやってもらう。その工場では銃火器のパーツを生産しているからだ。第五工場は後回しで構わない」

「左様ですか……。」


 糀谷はそのまま部屋を出ようか迷った。マヤ達の事を言うべきか迷ったからだ。しかし、ここで長官に計画が露呈されても困る。思い留まって部屋を後にしようとした時だった。


「……サブロー君、深夜の事、何か知っているかね?」

「……し、深夜ですか?」

「ああ、住宅地区の路地にあった扉が刀のような物で強引に開かれた様子でな。この軍隊の中では刀は出回っていないはずだ。何か知っている事は……ないかね?」


 バッザース長官は糀谷を横目に微動だにせず様子を伺っている。糀谷は少し考えた後にメモ帳を取り出し、該当のページを切り出す。


「……私の個人的な見解ですが、こちらの人物が怪しいかと」


 バッザース長官に渡した紙にはマヤ達に聞いた男たちの名前が書かれている。糀谷はその紙を渡すと、逃げるように元の位置に戻って行った。


「なぜそう思うのだ?」

「深夜の消灯時、私は夜風に当たるべく散歩をしていました。その時にこの人物らが住宅地区より歩いて帰っているのを確認したので……」


 バッザース長官は逃げた糀谷の目の前まで歩き迫っていく。そしてコーヒーを持つ逆の手でその紙切れを自身の顔の横にかざす。糀谷は緊張して汗を流す。


「これがもし…噓だとしたら……君は仲間を蹴落とした重罪人だ。彼らの将来は絶望に満ち溢れ、路頭に迷うだろう……。それでも君は…神に誓って……この人物たちを…?」

「はい、私が見た事実であります……!」

「…では、速くも君の出世チャンスだな。午後まで業務を遂行しろ。遂行したらここに戻ってこい。彼らへの尋問の結果を教えてやろう……。」


 糀谷はお辞儀して部屋を出ていく。彼らはあの部屋でしていた事知られたくないはずだ。ならば昨日の夜に行動した事のでっち上げができなければ、彼らは黙秘するしかできない。隠蔽か、黙秘か。彼らに残された道はそれしかない。糀谷の勝算は高いとの予想だった。しかし、それは予想外の結果を呼ぶ——。


「尋問の結果が出た」

「左様ですか……」

「君のメモはこの通り、四人の人物が描かれているな?」

「はい、その通りです」

「……結果から言うと、上の二人は黙秘を続けているが、下の二人はアリバイが成立した。そして上の二人に責任転嫁という形かは知らないが、罪を言及している。」


 糀谷の誤算。これはマヤ達が言った『関与』と言う物。彼女らを監禁したのは確かに四人だが、この日実際に訪れたのは二人。そこまで糀谷は頭が回らなかった事が大きな誤算につながった。


「上の二人は良いが……君は危うく下の二人の人生を路頭に迷わせようとした。この罪は重いと思わないか?」

「……はい、申し訳ありません」

「言い訳はあるかね?」

「……述べさせてもらえるならば弁明させてもらいます。私はまだここに来てから日にちが浅い訳です。軍人一人一人の名前を知りえることは難しいのでして、そのリストも今朝軍人名簿を見て書き写したもので、顔を見間違えている可能性も十二分にあります」

「……必死だな」

「信頼を失うのは、力を失う事よりも恐ろしい事なので」


 糀谷は深々と頭を下げる。バッザース長官は啞然として糀谷を見つめていた。長官はコーヒーを飲んで落ち着くと口を開く。


「……まぁ、二人を当てて二人を外したんだ。今回は不問にするが、以後気を付けるようにしなさい。」


 そう言って糀谷を部屋から追い出す。バッザース長官は自分の椅子に寄り掛かり、天井を見上げた。そしてゆっくり目を瞑る。


「……女房と同じ事を言われるとは。」


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