第八話 勇者達のエール
エリゼはファーニマルのミッシュ隊拠点にテレポートして戻った。エリゼは魔法を駆使しながらマリーを持ち上げてソファーに座らせる。そして急いで処置を始めた。
「えっと…、えっとぉ……」
エリゼはまず顔をタオルで拭い、傷口を押さえる。火を消そうと奮起するが、中々消えそうにない。その間にタオルが剝がれ落ちて再び出血する。エリゼはパニックになってあたふたしていた。マリーはそんなエリゼの腕をがっしり掴む。
「私は死なない。ゆっくり、着実に。」
エリゼは頷き、丁寧に作業を始めた。マリー自身も目を瞑りながら傷口や折れた骨の回復に専念した。痛みを声に出しながら一つ一つ着実にこなして、ようやくマリーは傷がふさがり、ふらつきながら歩ける程度には回復した。
「そんなに無理しないでくださいね、報告では南西部の拠点も無事陥落したそうですし。千々波さんの策略がハマったみたいです」
「……それは、良かった。私達も、町を…守る準備を……」
エリゼは俯いていたが、ついに涙を流し始めた。マリーは外に出ようとしていたが、そんなエリゼを見て出る気にはならなくなってしまった。
「ど……どうしたの、エリゼ」
「いや、申し訳ないのです、足手まといにしかならなくて……、マリー様のお役に立てなくて……、こんな事になるぐらいなら、私なんて来なかった方が……」
「……自分の自由を自分で縮めないで。貴方は足手まといじゃない。」
マリーはふらつきながらエリゼの元へ向かう。その光景を見てエリゼは逆にマリーへと抱きつきに行く。マリーはエリゼの砂を纏った髪を撫でる。
「ご、ごめんなさい……、私、もっと強くなります。マリーさんを援護できるように……マリーさんみたいになるために…!」
「はいはい、応援してますから。そう泣かないで。私は貴方の笑顔の方が好きですから…」
エリゼは涙を拭い、赤くした目を向けながら微笑む。マリーが外に出ると、丁度アスカリーが帰還してきていた。
「……その体、セトリムは倒せませんでしたか」
「まぁ、当初の作戦通りであるのは惜しい所だけど……」
「作戦通りなだけ上々です。攻防戦の準備をしましょう」
そう言って町の中心へと向かった。町の防衛戦の作戦を練る事にした。千々波はマリーの様子を見て溶礼道秘伝千々波特製回復薬をマリーに与えた。マリーが飲むと、徐々にだが体調は良くなっていく。
「……ちなみに南西部の拠点はどうやって落としたの?」
「これです!」
千々波はセトリムの顔を模った彫刻を見せつけた。色の色彩もリアルで、見せられたマリーとエリゼが驚いて少し退く程のリアルさだった。
「これで敵の士気を低下させて速攻占拠しました~!!」
「どこでセトリムの顔を知ったの?」
「西側の拠点で偉そうな写真が飾られていたので」
千々波の意外な一面を見たところで、マリー達は作戦を練り始めた。鹵獲した武器、住民の状況、軍隊の状況と守備の固め方を話し合い始めた。しかし、その最中で……
ドンッ、ドンドドドンッ、ドンドドドンッ、ドンドドドンッ、ドンドドドンッ
大きな太鼓の音が大きくなり始める。マリー達は静寂の中にそれを聞いて、自身の心臓の音と誤認していた。
ピーピピピー、ピピピピピピピピピピピー
小さな笛の声も聞こえてくる。そこで初めてマリーが動いた。その他の人は敵の来襲と感じて戦闘の配置に着き始める。しかし、マリーだけが音に誘われるようにその方向へと歩んでいく。その姿を見てアスカリーは止めたが、マリーは止まる気配がなかった。
「……この音を聞いたことがある。」
やがて町中に現れた紺色を基調とした軍服。トリコーンと呼ばれる三角帽子を被り、銃を担いだ集団。間違いない、イーサンド・ルイスの軍旗を持ったイーサンド・ルイス軍である。
しかし、軍服が古めかしい。イーサンド・ルイス軍にしてはアンティークだ。マリーはとても不思議に思いながら応戦をしないようにアスカリーらにお願いする。行進に合わせたドラムと笛が止み、マリーの前で停滞する。
「ぜんたーい、止まれ!!」
行進は歩調を合わせて停止する。銃を降ろす姿がその軍団の精鋭さを伺わせる。その中で旗を持った女性が最後尾から隊列の間を通り前へと出る。その顔が見えた時、マリーは思わず口をふさいだ。
「総員、休め!!」
隊列は一斉に少し股を開く。旗を持った女性はマリーの方へと振り返る。その一つ一つの動作がまさに機械的で美しく、洗礼されている。
「『魔女リベラテ様』ですね?」
「……え?この人はマリ…」
「いいえ、『魔女リベラテ様』の筈です。マリーと言う魔女は遠い昔にイーサンド・ルイスに居ましたが、現在は存在しません。もう一度確認します。『魔女リベラテ様』ですね?」
マリーは察しがつき頷くことにした。「魔女リベラテ」の愛称を知るのは彼らしかいない。旗を持った女性は旗を脇に挟みながら丸めた手紙を広げる。
「元老院より命令。『魔女リベラテ』の活動を支援すべく、特殊作戦軍を組織することを命ずる。以上の命令により本部隊を『栄光ある自由の守護者達』と称し、『魔女リベラテ』の活動に協力せしものとする」
「……え?どういう事…?」
「元老院議員が一人、シルヴァン・アンヌ様より手紙を拝借しております。どうぞお読みください。」
マリーは封筒を渡される。促されるまま手紙を読み始める。
「私は『女帝マリー』については嫌いであるが、「自由の魔女リベラテ」においては志に同意を示す所である。議員の退職金すべてを仕立て、元老院の支援も賜りながら用意するに至った。
これは貴殿に対するイーサンド・ルイスにおける自由からのせめてもの報奨である。未来が断絶される事なきよう、自由の発展に励むことを要望する。
——マシアック大学天文学者兼元老院議員 シルヴァン・アンヌ 」
この手紙を見てマリーはひたすらに啞然としていた。状況が吞み込めないのもそうだが、あんなにマリーが嫌いなアンヌが支援をするという現実が受け入れられなかった。
「ご高覧しましたか?」
「……ええ」
「では自己紹介をさせて頂きます。我が名はルイーゼ・アンヌ。元老院議員シルヴァン・アンヌの妹であり、この『栄光ある自由の守護者達』の司令官です。以後、お見知りおきを。」
「え、妹……?」
「安心してください、姉さんのように貴方を嫌った事はありません」
「……なんか、やりづらいわね…。」
そのままマリーは先程まで残っていた痛みなどを忘れてしまい、そのまま頭を掻いて頭の中の情報を整理する。どちらにしても頑固なアンヌ姉妹に抵抗するだけ無駄だと感じてそのまま鵜吞みにすることにした。
「……じゃあ、さっそくだけど、この町の自由を守るためにここに来る千人の軍隊を撃退して欲しいのだけども」
「……千人ですか」
「いや、勿論支援するし、仲間の彼らも一緒に……」
「千人でいいのですね?」
「え、できるの?」
「我が部隊は最精鋭の粒ぞろいです。千人程度ならば問題ありません。一人十人倒せばいいですからね。」
そう簡単に言われるとミッシュ隊の戦意も下がってくる。しかし、ルイーゼは司令官としてそこにも配慮する。
「彼らが仲間でしょうか?」
「……ええ」
ルイーゼは旗を持ったままマリーの後ろに立つミッシュ隊に向かうように立つ。そして旗を高らかに掲げる。
「我々は戦闘に勝利せども、各々の自由は掴むことはできない。それは一重に諸君らの掴むべきものだからだ。故に自由を手にしたいならば、諸君らの努力も必要だ。そこで諸君らに問う。諸君らは自由を求めるか?」
「……ああ勿論だ」
「自由を奪う者に対して、反逆する勇気はあるか」
「勿論だ」
「諸君らの家族の喉を切り裂く暴君に立ち向かう、その勇気があるか!?」
「うおぉおお!!」
「諸君らが諦めない限り、この旗が高く諸君らの勇気を先導する。我々、自由のイーサンド軍が諸君の為に血肉と旗を以て貢献することをここに誓おうではないか!!」
うおぉぉぉぉぉおおおおお!!
流石のアンヌ姉妹。議会の時と同じように勇気を奮い立たせ、その勇気に対してエールを送るような演説を行う。ルイーゼはマリーの横を通って再び定位置に戻る。
「指揮は好調、武器の調整も問題ありません。いつでも戦闘可能です。リベラテ、ご指示を」
「……つくづく実感する。アンヌ姉妹を敵に回したくないってね」
「よく言われます」
「じゃあ、その脅威を敵に見せつけなさい。そろそろ東側からやってくる。戦闘準備を」
「承知しました。敵軍団は東部方面から来襲の可能性。総員戦闘配置に着けぃ!」
そのまま軍勢は東部郊外の敵が通るであろう道に先に参列の陣を作る。最後尾のルイーゼは旗を持ち、その隣の人間が双眼鏡を覗き込んで状況を把握する。前列の人間は既に銃口を構えていた。その数分後にその銃口は火を噴くことになる——。
「敵影発見!射程圏内に入ります!!」
『クラージュ』!!
ルイーゼが旗の柄を地面に二回叩きつける。その時の音は硬い物同士がぶつかり合うような硬い音ではなく、ドラムを叩いたような重低音だった。そして腕を上げていた兵士が勢い良く腕を振り下ろした——。
『インパクト』!!
ルイーゼは強く旗をなびかせながら天高く旗を掲げる。それを合図に前列の鉄砲隊が発砲を開始する。その銃弾は敵の前列のみならず、貫通して後列までに被害が及んだ。
『クラージュ、アクセラシオン!』
兵士達の動きが速くなり、装填が素早く行われる。銃弾の速度も速いが為に敵は緒戦から甚大な被害を受ける事になってしまった。
「頃合いだ、退避!」
敵の反撃が来る前に足早に撤退する。今度は町の中に前線を作り、そこで敵の来襲を待ち構える。しかし、そのまま来るほど相手もバカではない。前線は停滞を始めた。だが止まった敵は逆に好敵手とも言える。
『エテルネル・ソレイユ』!!
今回はエリゼがマリーの指導の下で技を放つ。マリー程ではないが、セトリムよりも少し小さいぐらいの爆発を起こす事に成功した。これには敵も動揺して前の前線に無意味な突撃を始める事由になった。
「エリゼ、よく頑張ったね」
「……これは、かなり疲れますね…」
『ティアン・ボン、デファーンス』!
ルイーゼが再び旗を振ると、敵の銃撃をものともしない無敵状態になる。それに混乱するまま敵は撃ち殺されていく。そんな状況でセトリムがテレポートして出張ってくる。
「……旗振っている分際で、調子に乗るな!」
「旗手がその単調な攻撃に対処しない訳ないでしょ」
建物の影から鋭い目つきをしたアスカリーが登場する。セトリムはマスケット銃を見て恐れをなした。その一瞬が勝機を見出した。
『アスカリー、クラージュ、インパクト』!
「一発で倒せない相手に銃を向けるな……か、ならば問題ない……!」
ヴァアン!
アスカリーの銃弾は防ごうとしたセトリムの左手を貫通してそのまま脳も貫通する。セトリムには流石に致命傷であった。セトリムにとっては呆気ない死であった。しかし、アスカリーにとっては親の仇を果たしたという意味のある物だった。
『クラージュ、アクセラシオン』!
そのまま正面からミッシュ隊が敵部隊に突撃する。そのミッシュ隊の速さ、エリゼの追撃、ルイーゼの援助を前に千人も居た軍は忽ち壊滅的な被害を出して逃亡。ファーニマルの戦いは予想よりも速く勝利した。すべてルイーゼの卓越した指揮と魔法によるものだったと言っても過言ではない。
『我らの自由の勝利だ!!』
うおおぉおおおおお!
戦闘したものは銃を掲げ、戦闘の経過を見ていた者は腕を上げて旗と共に喜びを共にした。この戦いでの死傷者はこの町に居なかった事から、ルイーゼ達の凱旋が催された。その最中にマリーは魔法でヌビアに喜びを伝える。
「ファーニマル、無事作戦成功。パラコ派の進軍を推奨する。」
トッコン・ジェロとゼリテーヌの狭間の要所、ファーニマルの占領によって、この後のパラコ軍の進軍は確約された。




