第七話 セトリム襲来
「……やりましょう」
アスカリーが入って来た時と同じ静寂が彼女らの帰還を歓迎する。歓迎する彼らは意図が今一度誓い出来ていない様子だった。緊張しているアスカリーに再び千々波は背中を押す。
「町から軍隊を……追い出しましょう」
「……え?」
「やる気ないならいいけど」
その言葉に彼らは歓喜によって歓迎する。マリー達の正体を知った時よりも盛り上がっている。意気揚々、勇猛果敢に拳を天井に突き上げる。その空気に圧倒されたアスカリーは思わず顔を上げる。
「良かったですね、勇気ある一言でしたよ」
アスカリーは千々波の方を見下げた。千々波は気持ちいいぐらいに満面の笑みを浮かべていた。アスカリーもそれを見て笑みをこぼした。そしてマリーにつられてテーブルへと向かう。
「さっそくだけど作戦会議をしましょうか。まずは敵の陣地確認だけど……」
「え、えっと……、一番近いのは西側地区にある拠点。それから一番大きい北東部、新しくできた南西部の拠点で全部」
「それぞれの勢力は?」
「西側地区は増強されてて百五十人程度、町中に出払ってるから占領するなら容易。南西部は新しくできたばかりで兵力は分からないが、それほどいない。問題は北東部で……」
「……どれぐらいなの?」
「……一番最近の情報じゃ……千人ほど…」
「『ミッシュ隊』はこれだけなのよね」
「…別地区を含んでも、北東部には及ばないかと……」
マリーは深く考え込んだ。西部、南西部の拠点を陥落させても、北東部の軍隊がファーニマルに着てしまったら一瞬で水の泡。となれば反乱を成功させても意味がない。となると、おそらくは、持久戦に持ち込むのがやっとかもしれない——。
「私とエリゼが北東部を押さえておくから西部、南西部をその間に陥落させる。そこを落とせばこちらの士気が上がり、相手の士気が下がる。持久戦では有利に……」
「いや、千人相手に二人で何とかなるとは……」
「腕には自信があるから。依代ちゃんもいれば尚更貴方達の攻略も上手く行くでしょうし。それまでに二つを抑えて来てくれればいいのよ」
素人としては全くもって考えられないが、出会った時の衝撃と、彼女の決意の眼差しによって感性が狂わされてしまった。彼女達ならできるかもしれない。そんな希望を見出してしまった。
「……分かった。全力でやるから貴方も耐えるのよ」
「ええ、勿論」
とは言ったものの、実際千人を相手にしてみると自信がなくなって来るものだ。マリー達は北東部の拠点が見える小高い丘の砂上に寝そべり、じっくりと観察する。彼らが行動を開始すれば彼らは必ず行動する。
「マリー様、なぜこんな町に千人も駐屯してるんでしょうね」
「…私たちが悪いのか、戦闘をしていないからか。どちらにしろ別におかしくないわね」
マリーの魔法で自分達の周囲が適温に保たれているとは言え、長時間も砂浜に居ればそれだけで体力が奪われるという物だ。状況が変わらないままこちらも疲労が蓄積していく。
「マリー様、動きました!!」
「どこ」
「西門です、人が大勢ファーニマルに向かっているように見えます!」
『イードラ・ヴェーリテ』
マリーが魔法を使うと、その大勢の人間の前に三体の大きな砂のゴーレムが誕生する。動揺して基地戻って行く人間を尻目に、もう一度同じ魔法を使う。今度はもう一つの出口に四体のゴーレムを出現させて退路を塞ぐ。
「……さて、このゴーレムがどれほど時間を稼いでくれるかしら」
拠点内は大混乱。銃撃も斬撃も爆撃も効かないゴーレムに抵抗できず、次々に人が砂の餌食になっていく。しかし、以外にも容易くゴーレムが撃破されてしまう。
「西側のゴーレム、壊滅しました…!!」
「……弱点の水魔法がバレたか、思ったより早かった」
マリーは立ち上がって凝り固まった背中を伸ばす。そしてマリーはいよいよ拠点に向かって手を伸ばす。
「あまり他人の自由は奪いたくないけれども、貴方達が罪のない自由を奪うならそれは止めなければならない。」
『エテルネル・ソレイユ』!!
マリーの伸ばした右手から細長く赤い光が敵の拠点に照射される。その数秒後に拠点が赤い爆発に包まれてしまい、辺りをその赫赫とした光が包み込む。
「す、すごい……マリー様の実力を久々に見ました……!」
「どうやら、相手も魔導については良く学んでるようね」
爆発の後も拠点は破壊されずに存続している。しかし、膨大な霊力量で気絶している人物もいる。本来こんな攻撃まともに食らってしまってえば消滅は免れない。彼らの対魔導技術はイーサンド・ルイスの魔女狩りでも実感したように、かなりの物になっているのだろう。
「マリー様、拠点の霊力反応が消えました‼」
「なるほど、霊力に魔導で対抗したのね。つまり防衛網は一つ壊したと……」
「丁度南西部拠点の攻撃を開始したようです」
「よし、私も頑張ろうか」
『エテルネル・ソレイユ』
「マリー様!?」
「え?」
マリーはいきなり吹き飛ばされる事になる。痛烈な一撃にマリーのメガネが割れて砂の中に埋もれてしまう。エリゼはそれを見て驚愕している。目の前にやって来た男があのマリーを殴り飛ばしたのだから。
「……魔法が使えるのが君たちだと思うな、傲慢と偏見は身を滅ぼすぞ」
「あ、あなたは……?」
「我が名はセトリム。セクメル様の右腕にして軍の総司令官だ」
彼の機械化された剛腕が次にエリゼに向かって振るわれる。エリゼは下がって回避に成功するが、すぐに自由が奪われることになる。
『オブキューデ』
エリゼは現れた黒い縄によって完全に拘束されて動けなくなる。流石のエリゼも焦りを隠せない様子だった。
「君たちの計画は君たちの傲慢と偏見によって破裂する。来世ではもっと気を付けるんだな」
「……!!」
彼の剛腕は確かに振るわれた。しかし、それはマリーの左手によって防がれる。右手にはボロボロになった眼鏡を持ち、眼鏡を修復していた。左手と右手で別の魔法を使う姿を見て流石のセトリムも「手馴れ」と感知して一旦引き下がる事にした。
「……あぁ、痛い。久々に血の味と砂の食感を味わった。この感覚はもう御免ね……」
「人類の技術と古代魔術の融合によって魔法は既に時代遅れ。更に遠距離ではなく近距離戦には不向きだ。どれだけの手馴れでもこの悪条件は好転できまい」
「まぁ、手馴れはそんなこと関係ないけどね」
マリーは眼鏡を付け直し、体に着いた砂を払い落とす。対してセトリムは煙草に火をつけ始めた。それも右手に装備している装置の指輪から火を出してタバコに着火させている。
『リュミエール・デスポワール』
マリーはエリゼと自分に青いオーラを纏わせて防護を付与する。それを見てセトリムは全く変わらぬ表情でタバコを吸い続ける。
「そんな防護魔法で何ができる。当たれば防護諸共木っ端微塵だろ」
『エテルネル・ソレイユ』
セトリムに向けて放ったが、セトリムは仰け反って回避した。ゆっくりと起き上がり咥えているタバコを掴んで覗く。どうやら火種は消えてしまったようだった。残念そうにタバコを捨ててしまい、足で踏みつけて砂の底に埋める。
「……タバコ吸ってる間はあんたも俺も手を出さない紳士ルールだろ」
「そんなの知らない。健康に悪いからやめたら?」
「これだから女は嫌いだ。金鉱でも女が暴れているし……、少しは男にも楽させてくれよ」
『パラディーペル』
マリーは両手に黒い球体を纏い、セトリムに殴り込む。セトリムも応戦するが、やはり速度の方ではなマリーが優勢で、受けるのに必死の態勢だった。
『ユヴェリテ・グロビューズ』
纏う黒い球体が青白く発光し始め、マリーは右ストレート同時に指を開放。セトリムに青白い光線が貫通する。セトリムは痛みを感じてテレポートで後退する。
「……先程の威勢は噓みたい。」
「っ……」
砂を纏う風が優しくセトリムに向かって吹く。圧倒的な力と器の差を表している様子だった。それを感じて無性にセトリムは腹が立つ。
「マリー様、拠点の方を!」
マリーが拠点を見て見ると、こちらに大勢の軍隊が迫ってきているのが分かった。今はまだ小さいが、彼らが来るまでにセトリムを始末しなければ多勢に無勢。
「エリゼ、奴らを止めておいてくれる?」
「わかりました」
エリゼは動きずらいまま丘を下り、軍隊へと一人向かって行く。マリーはセトリムに向き直り、臨戦態勢を崩さず黒い球体を左右の手に再び纏い始める。
「……あんな少女一人で大丈夫なのか?」
「ええ、十分な実力だと思う」
セトリムはそれを聞くと笑いながら立ち上がる。右手の装置を確認し、腕を構え直す。
『ジェヘナ・インパクト』!
セトリムは高速で移動し、マリーの間合いに入る。そのままセトリムが剛腕に炎を纏いながらマリーに振りかぶる。マリーはそれを予想していたように両手を打突位置に持っていき、防御姿勢に着く。その様子を見てセトリムは満面の笑みを浮かべる。
『テレポート』
「えっ…?」
セトリムは移動しているエリゼの目の前にテレポートする。エリゼは炎の光が視野に入った瞬間に絶望を覚える。目の前のセトリムが「地獄の悪魔」に見えてくる。
「じゃあな、足手まとい」
「……ッ!?」
セトリムの打撃の直後、周囲に爆発が広がり、エリゼは吹き飛ばされてしまう。マリーの「エテルネル・ソレイユ」よりも規模は小さいが、人を一人殺めるには十分すぎる威力だった。だが、セトリムの思惑は外れる。
「マリー様!?」
「……くッ」
マリーは打突の一瞬でエリゼを庇う事に成功した。しかし、マリーは防護魔法があったとはいえ、体のいたる場所に消えない火がつき、顔の殆どを血液で埋め尽くされていた。エリゼはそんな無惨なマリーの姿を見て動揺して何もできなかった。
「……エリゼ、ファーニマル……テレポート……」
「え、あ、はい!」
エリゼはマリーと共にファーニマルにテレポートした。セトリムは姿勢を正して後ろの軍隊に通達する。
「ファーニマルに向かえ、そこが決戦の地だ。街ごと壊滅させても構わん!」




