第五話 踏み台の街
心臓や脳、消化器官を通じて僕らは命を享受している。それでも、そもそも僕らはその肝心な「命と呼ばれる物」が一体何かを知らない——。
↑作戦図
「さてと、さっそくだけど情報収集をしてみようかしら」
マリー達はファーニマルに到着した。町の中央には橋が幾つものかかり、川を挟んで栄えていたことが伺える。だが、ここには川の水は流れてきていない。パラコ派が水を止めているからである。
「いいですよー、私はあっち行ってきまーーす‼」
「あっ、気を付けて、後でまたここでしゅうご……」
「マリー様、これは言っても無駄そうですね」
「なんか……莽薙君の仲間達って……莽薙君に似てる気がする…」
「同感です、遅れを取らないように私達も反対側に向かいましょう」
マリーとエリゼが向かったのはファーニマルの東側。東部には人が多く居た。全員が痩せ細っているが、建物を見るに、ここが町の中心部であるのは間違いないだろう。同時に、まばらに軍隊が居ることも分かる。さも敵地を占領している駐屯軍のようだった。
「雰囲気からして険悪ね」
マリーとエリゼを見た庶民は蔑む目線を送り、関わらないように距離を置いている。軍隊もマリー達を注意深く見ている。そんな状況で情報収集が上手く行く訳がなかった。そこで半強制的に会話が発生する売店に足を運んだ。
「……すみません、旅人なのですがここには何が置いてあるのですか?」
「悪いが、今じゃもう何も売れない。」
「…それはどうして?」
「材料がない、売る物がない、そして仕入れる金もない。旅人には悪いが、この町はもうすぐ砂漠と同化する。ここで夜を明かすよりも隣町で夜を明かした方が身の為だ。」
結局何の店かも分からないまま門前払いに会った。分かったのは想像以上に酷い状況であるという事だけだった。人は多いだけで協力的ではなく排他的。情報収集は長くなりそうな様子だった。
「こりゃあなんもない町ですなぁ……」
千々波の来た西側は変わって人が居なかった。ただひたすらに閑散としていた。砂漠に埋もれてしまったかのように。
「ん~、こりゃあ困りましたなぁ……、情報収集って全く出来ないじゃん」
千々波は考えながら大通りらしき場所を歩いて行く。しかし、人影一人も見当たらない。諦めて引き返そうとした矢先、奥の建物の陰に人影が見えた。
「あれ、あれあれあれ、あれ人間かも、こりゃあ行くしかないね!」
そのまま走って人影に向かって行く。しかし、その人影が堂々と見える頃に千々波は足を止めてしまう。それは一般人なんかではなかったからだ。
「……これは」
千々波が見たのは軍隊の男四人が一般市民を恫喝している様子。しかも恫喝している一般市民は若い男の子である。千々波はそれを静観できるほどお人好しではない。
「ちょっと、いじめるのは良くないですよ!!」
「誰だお前?」
「相手の理解を得て打ち解けるのです、その恫喝じゃなくて!!」
「おい、あいつもやっちまえ」
「和解しろ~、暴力反対!!」
軍隊は発砲して千々波を追い払おうとするが、千々波はその発砲を受けて天誅の意思を固める。右手からレイピアを生成し、軍隊に向かって剣先を構える。
「依り代で戦いづらいですが……天誅です!!」
「はぁ!?」
交戦する前、全身布に包まれた人物が軍隊と千々波の間に入る。その人物は肩から下げた長銃を軍隊に向かって手慣れた手つきで構え、そのまま一瞬で発砲。軍隊の一人のふくらはぎを貫通させて悶絶させる。
追撃するように銃床を棍棒のように殴りつける。そのまま少年を抱えて後退。千々波の方へ駆けて手を伸ばす。千々波はその手を掴んで路地裏の闇へと消えて行った——。
一瞬の出来事で少年と千々波は状況を全く理解できなかった。そしてついにその人物はフードをめくる。
「……あんまり無茶な事しない方がいいよ、この町は異常だから」
優しそうな女性だった。物騒なマスケット銃に弾を込めて、周囲の様子を伺っている。その姿勢はなぜか安堵できる物だった。
「貴方達、東部から来たでしょ?」
二人とも大きく首を縦に振る。その目はどちらも輝く尊敬の眼差しだった。それが嬉しかったのかは分からないが、彼女は微笑みかける。
「今ならそこまで届けられる。後援が来る前に行くよ!」
そう言って二人の手を引いて東側の地区に入る。彼女は軍隊にバレないように銃を消してフードを脱ぐ。そのまま東側の中心部で二人と別れることにした。少年は一目散に家へと帰ったが、千々波は帰る場所がない。
「……貴方異邦人だもんね。仲間はいるの?」
「はい、魔女が二名ほど」
「……なんか物騒」
「銃を扱う貴方には言われたくないです!」
「……確かに」
彼女は悩んだ末に一緒にマリー達を探す事になった。しかし、元居た場所に着いてもマリー達の姿は見えなかった。まさかと思って来た道を引き返す。
「エリゼ、中々腕を上げたんじゃない?」
「いえいえ、マリー様の支援が無ければここまでは……」
マリー達は結局千々波を探して西側に来ていた。多くの軍隊が地面にへばり付いて離れない。その光景を見て二人はとても動揺した。
「な、何者だ!?」
「依代ちゃん!?」
「マリー様、千々波を誘拐したのって彼女では……」
彼女が銃口を向けた先に立ち尽くすマリー達。両者の中で緊張状態が発生した。千々波はその状況を察知して間を取り持つ。
「ま、待ってください、彼女は私を救って下さった恩人です!」
「あら、そうなの、誘拐じゃなくて?」
「その軍隊……全員あなた達がやったの?」
「ええ、まぁ…、殺しては無いけど」
彼女は啞然として銃を消して両手を上げる。マリー達は近づいて両手を戻すように伝える。そして千々波についても感謝を述べる。そして簡単に自己紹介をした。
「私の名前はサフィーヤ・アスカリー。この町の秘密組織『ミッシュ隊』総司令官です」
「……なにその『ミッシュ隊』って」
「あんま大口で言えないんですけど、反政府組織みたいなものです」
ここに来て偶然、マリー達の目的である「反政府勢力」との合流を果たした。マリー達もこれには驚いた表情をし、その表情を見てアスカリーは首を傾げた。
「ヌビア……って知ってる?」
「ああ、ヌビアさん。パラコ派の王様ですよね」
「私達も大口では言えないのだけども、そのヌビアと同盟している者なの。あなた達を支援しに来たわ。」
「それは奇遇でしたね。ここに居ても仕方ないので私の拠点に案内しましょうか?」
「そんなすぐに私達を信用してよいのですか?」
「ええ、貴方達の行動と、『ヌビアさん』の名前を出しただけで十分ですよ。それにあれをみたら誰でも——。」
マリー達は振り返ると、軍隊がまだ地面にへばり付いている。苦笑いしてアスカリーの方に向き直る。アスカリーは手招きしてそのまま東側の町へと戻って行った。
「貴方、使ってる武器『魔導式マスケット銃』よね?」
「ええ、それが何か?」
「今時かなりアンティークな物を使うのね」
「まぁ、家の伝統でしてね。このマスケット銃しか使ってないのです」
「でも一発ずつしか打てないのは不便じゃない?」
「家訓で『一発で倒せない相手に銃を向けるな』ってのがあるのです。それが自分の成長にも、生き残る戦術にもなるということで」
「なるほど、そう言う考え方もあるのね」
東側の人の気配の無い路地裏。誰も来ないような入り組んだ路地を進んでいく。ある程度来た所で地面にある大きな石を移動させると、深淵に向かって梯子が伸びている。アスカリーが先に入り、千々波、マリーと続いていく。エリゼはあの時と同じように待機していた。
エリゼは暇をつぶすように壁に寄り掛かって空を大きく見上げる。空は既に夜を迎える準備をしていた。




