第三話 金を探る者
『作業開始!!』
強制労働の実態は強制労働と言えるような代物ではなかった。あえて言うならば動物への虐待と言っても差し支え無かった。異邦人である赤城達は軽い物だったが、他の者達は全く軽いとは言えない内容だった。
「……もう、手がぁ…」
「家族に申訳がないと思わないのか! 手の痛みで家族が飢えてしまうのかもしれない。家族が敵に捕まるのやもしれないのだぞ!」
「そ、それでも……もう…」
「この親不孝者が!! こっちにこい!」
泣き喚く彼は監視員の一人に連れていかれる。見るに堪えない惨状であることは明らかだった。全く、彼らが一体何をしたというのだろうか。
「……あんまり見てやるな、異邦の人」
「…あいつはどうなるんだ?」
「考えたくもない。機械や家畜と同じだ。使えなくなったら捨てるだけだ」
この人はムアイヤド・アディーブ。同じ班に配属されてから手取り足取り教えてくれる班長。強制労働の実態も、彼から聞けば粗方の事が分かる。まぁ、聞くに堪えないが。
兵士としてやって来た彼らはここに順応していくことになる。順応できない奴は「適切に処理」される。順応しても使えない者は、使えるだけ酷使してから先程のように「適切に処理」される。
半年を超えて労働すれば「班長」。班長で成功すれば「監視員」になる事ができる。身内で落とし合い、我先に解放されようとするわけだ。班長になったからチェックメイトではない。逆に班長は、下っ端とほかの班長、監視員誰も信用できない孤独な役職だ。
「お前はここに来る前に何をやっていた?」
「……ただの文学者だ。趣味で運動をしていたからここまでの労働に耐えてきている。だが、俺以外の仲間はみんな処理されたね」
「……それは、災難だったな」
「あんたもそうならない事を祈るよ」
「ああ、俺は大丈夫だ。お前はこの連中を助け出そうとは思わないのか?」
ムアイヤドのピッケルが止まり、他の人が石を穿つ音が聞こえる。監視員の目線は他方を向いているが、この緊張感には息を吞むものがあった。
「……そんな野心を抱いてはいけないよ。露呈、失敗したらすべてが無駄で他の人にも迷惑がかかる。君もそんな事は考えない方がいい。」
赤城はそこから何も言わなかった。少し自分でも考えるところがあるからだ。何も言わないまま今日の作業を続ける。
「……ノルマってこれでいいのか?」
「は、速くね!?」
「まあ、こういう棒状の物を振るのは慣れているからな」
「……なるほどなぁ、監視員に言えば自由時間が貰えるはずだ。だがオススメはしない。その分次のノルマが多くなるからな。時間まで働いているフリをしときな」
「なるほどな」
そう言って赤城は作業を続ける。微動だにしない、疲れた表情も見せない赤城にアディーブは少しの動揺を見せた。自分で掘るのが馬鹿らしくなってくる。
「……働いているフリでいいんだ、そんな働かなくてもいいだろうよ。」
「今働いているのはお前のノルマの為だ。自分は演技をするのが苦手でな、生憎これしかできないんだ。すまないな。」
「……そうか、ならあいつの為にやってくれないか。」
いかにも疲れ切って振り上げる腕がぎこちない。そんな細々とした男が息を切らしながら腕を必死に振り上げていた。
「あいつの名前はバルカム。彼は毎日ギリギリノルマに達している。今日も大変そうだから彼の為にやってくれ。自分はまだ大丈夫だから。」
「そうか、一人分はやっておいたぞ?」
「お前は重機かッ!?」
無事に労働時間までにノルマを達成した。ノルマを達成できなかった班はノルマを達成するまで作業するか、できなかった人物を差し出す事になる。殆どの班が残業をする中で、時間内にノルマを達成したのはこの班と、武田が居る班だった。
「おんしもおったか!」
「まぁな」
この後は数時間の自由時間。班員全員で集まるのが一般らしく、班長の部屋で班員の複数名で集まって談話を始めた。その中で赤城は多くの人物から感謝を述べられる。一瞬で班は彼を英雄視したのだ。しかし、赤城は班長の顔を立てた。自分はあくまでも班長の意見を尊重して動いたと。
「……じゃあ、おれは部屋に戻る」
「ああ、明日もよろしくな」
そのまま部屋に帰ると、武田が先に帰って来ていた。武田は赤城が入ってくると手を大きく振ってベッドに座るように促した。
「ほき、今日はどうじゃった?」
「まぁ、普通だ。他の人の分も労働してやった」
「ぶっちゅうやな」
「反乱を誘発できそうか?」
「どうやろーか……、いざとなれば二人でなんらーなるにかーらん」
「…それもそうか」
赤城はそう言って刀を取り出して素振りを始める。ストイックなのは良い事だが、彼の今日の労働に対して更に負荷をかける結果にはなる。武田はただ静観していたが、違う所に口出しをする。
「おんし、戦い方かわっちょらんか?」
「……なんでだ?」
「前よりも余計な動作がおおくなっちょる」
「……やはりわかるのはお前だけか」
赤城は素振りをやめて武田の方へ顔を向ける。武田はそれをもう当たったのを嬉しそうに微笑んでいる。
「……まぁ、あいつらと居る内に戦い方が変わったのは確かだ。戦えるのが自分だけ、そして護衛を任されている。そんな状況下で今までの居合斬りをしても大人数を救えない。余計な動きと言っているが、そこから派生させてどんな状況でも戦えるようにしている。」
「なんか、おまえらしゅうないがや」
「……?」
武田は頬杖をついて赤城を不敵な笑みで変わらず見つめている。赤城はあまりこう言う状況は好きではない。だが、相手が武田だから聞いている。
「あいつらも自分が足で歩きゆう。おまえも自分の足で歩きなぁ、どうするがよ。」
「ほう…」
「自分の信念を貫きや。それが武士道っちゅうもんやろが。」
赤城は首の裏に左手をまわし、大きくため息をつく。そのまま刀を納刀して首の裏をさすりながらその場に座り込む。
「……お前の言う通りだ。だが、お前は信念を貫きすぎだ。」
「ガハハハッ、よう言われるわ」
そう言って武田は後ろに笑い転げた。赤城はそれを見て呆れるように微笑んだ。赤城が仲山王の時と同じような衝撃を受けたのは明白だった。
ローシャングの結果から見ても彼らが成長して自衛できるのは見るからに明らか。そうなれば、相手の懐に入る攻撃特化の抜刀術も使えるってことだ。正直、こちらの方が性に合うと感じる。
「そういえば寒川にはには会ったか?」
「おうてないにゃー」
「……あいつらも相当な大役を持っている。四人衆の力を合わせねばな。」
御伽の勢力範囲で赤城、寒川、関原、武田は御伽四人衆と言われて、特に腕が立つ人物として噂が広がっていた。赤城は龍帝の教え子。寒川は御伽家を古くから支えている臣下。関原は刀の腕というよりも参謀、戦略が達者。武田は見ての通り暴れる狂犬。全員が全員違う戦い方をし、御伽家に貢献している。
今となっては全員がその個性で時代の波に乗ろうと奮起していた——。




