第一話 トッコン・ジェロ
「さてと、いよいよ本腰ね」
「私、張り切っちゃいますよ!」
「……程々にね」
マリーはエリゼを宥めながら周囲を確認する。イーサンドに行く前にヌビア達と話したあの部屋だが、その部屋はおろか周囲から全く音が聞こえない。あたかも廃屋に来たかのように。しかし、埃は見当たる事は無かった。
「……不気味ね、私が外を確認してくる」
そう言ってマリーは外を確認しに出て行った。エリゼも向かおうとしたが、マリーの心配が勝って行かせてもらう事はできなかった。仕方ないのでソファーに座り、マリーの帰りを待つ事にした。そこから数分してからマリーが帰ってくる。
「——誰もいなかった。それに至る所に瓦礫が残っていた。これはもしかすると…」
「……いや、そんなバカな」
莽薙も一緒に外に出る。確かに瓦礫が残っている。町には活気が残っていない。まるでパラコ派が敗北したかのように——。
「VΛ/dΛ!」(クソ!)
莽薙を追いかけて全員が部屋を出た。マリーもこの凄惨な光景を見て怒りがこみ上げてくる。イーサンド・ルイスでの足踏みが、ここに来て痛烈に情景として目の前に現れてきたのだ。
「……あ」
「あ」
立ち止まった白い和服の不死鳥。そして、隣に居る親しい鬼。二人がこちらを覗いたとき、お互いが停止した。動き出したのは千々波だった。
「ナッシー!カネチー!!」
千々波は二人へと手を広げて向かった。対する赤城は拳を振りかざした。
「いでっ!」
「誰がカネチーだ、俺は赤城兼通だ」
「ま、まぁ、抑えて、カネチー」
「……ったく」
赤城のあだ名「カネチー」は、なぜか命名した梔子姫以外が言うとこうなる。一番の謎である。莽薙と花蓮は苦笑いを浮かべ、二人に近づいた。
「この惨状、どうしたの?」
「いろいろあって、ここにも戦禍が来たの。本拠地も移したからそこに行って話しましょう。」
——一行はトッコン・ジェロを離れ、一軒の廃屋を見つける。廃屋の中には下に降りられる梯子がかかっており、千々波はその中に入っていく。莽薙達も続いて入るが、エリゼは躊躇していた。
「…どうしたの、入りたくない?」
「いえ、私の服装では入りにくいと言いますか……」
確かにエリゼのメイド服では入りにくい所はあるだろう。そこでマリーがそこに着いてからテレポートをすることにした。梯子を降りていくと、大きな空間が現れる。そこによく聞いた声が反響してきこえてくる。
「ただいまでーす、ゲストも連れて来ました」
「ゲスト……?」
「……ただいまー」
全員が固まる。少ないスペースで半蔵、関原、糀谷、ヌビアとその付き人が肩を寄せ合っていた。
「おかえりなさい、莽薙様」
「よぉーもどったのぉー!」
「皆さん、よくぞご無事で。現状と作戦を会議しますから座ってください」
小さなテーブルを大人数で囲むともなれば窮屈になる事は間違いない。そこで既に情報を得ている赤城達を後ろにして、イーサンド組を前方に座らせた。関原が開いたのはパラミダスの地図。情報を精査しながら作戦を伝えると言う。
「つい先日から二回ほどトッコン・ジェロに空爆がやってきた。見ての通り全員が無事ではあるが、停戦協定を破っての攻撃によって、民衆の中には負傷者も多く存在する。連中はローシャングの飛行船を四隻使って空から空爆した。」
「……ローシャングか」
マリーは少し怒りを抑えた様子で話を聞いている。しかし、それを聞く勇気はなかった。ローシャングは自分にとって良い所だと思っているからだ。批判されてあまりいい気はしない。
「多分……、鹵獲されたかもしれない。僕らの救援に来たローシャングの船が鹵獲されて使われたのならそうかもしれない。」
ローシャングが今この内戦に介入するとは思えない。ロメリア達が自国の為に頑張って居るのに、他国を支援なんてしない。そう推察した。そもそも、ここに来たのはミダルの軍隊による恫喝でもある。その可能性は高いだろう。
「パラコ派全体の戦況と国力を総合的に判断できた。」
「……結果は?」
「当分生活に支障は無いという結果なのだが、前線を超えて被害が出てきた以上、戦争を長引かせるわけにも行くまい。」
いよいよ戦争状態を終わらせる必要が出て来た。彼らは戦争経済によって潤っていると予想される為、かなりの抵抗があるだろう。それを避けて内戦を終わらせる作戦を関原とヌビアは立てているのだろうか。
「……では作戦を説明しよう」
そう言ってヌビアは地図にピンを立て始める。最初にピンを刺したのはアブダビ川の源流、グナラ山。金鉱山があり、徴兵によって強制労働がされている場所だ。イーサンドの諸悪の根源でもある。
「ここで反乱を誘発する。強制労働と少量の配給制によって彼らの怒りは限界だと聞いている。」
そのまま次は砂漠の孤島と言っても過言ではないアラバード・オアシスにピンを立てる。この町だけは他の町との繋がりが無いようにも見える。
「このアラバード・オアシスは軍需工場の強制労働所だ。陸の孤島であるこのアラバード・オアシスは逃げる場所も情報も遮断される。ここを取れば彼らの戦争経済は事実上不可能になるだろう。」
次にピンを刺したのはファーニマル。パラミダス川の中流にて栄える大きな都市である。
「このファーニマルは一番弾圧が酷い庶民の町。庶民であるが故に労働力を酷使され、反抗できないのが現状だ。ここで反乱を起こせば、前線との連絡も補給路も絶つことができる。」
そして最後に刺したのはゼリテーヌ。パラミダス川の下流に一大都市として栄えるミダル派の首都である。
「その三つからゼリテーヌを包囲して前に進める。正直、全ての反乱誘発が上手くいくとは限らない。その時は遠慮なく帰ってきてくれ。後は君たちの配分だが——」
地図のファーニマルに三つの人型の人形を配置する。全て女性の形をした人形である。
「ファーニマルは民衆の扱いに達者であるマリーさん、エリゼさん、千々波に任せる。ここでは反政府勢力とも接触をしているから、そこを頼りに行動してくれ。ここは戦況に関わる重要な場所だ。君たちに頼んだ。」
「ええ、任せて頂戴」
「一緒に町を平和にしましょう!溶礼道の名の下に!!」
今度はアラバード・オアシスに三つの人形を配置する。男性二つ、女性一つである。
「アラバード・オアシスはミダル側の戦争継続理由の一つでもある。ここは統率力のある莽薙、糀谷、梔子姫に任せる。頼んだ。」
「莽薙と糀谷は分かるけど、私ぃ…?」
「いや、僕も莽薙さん、梔子姫さんには敵いませんよ」
「……いやいや、二人とも素質はあるよ。ヌビアの見る目は合ってる。」
最後のグラナ山に残りの人形を立てる。男性二つ、女性一つの布陣である。
「金鉱は軍人が多くいる。扱いが慣れている花蓮、武力が長けている赤城、武田の二人でこの金鉱脈を制してほしい。」
「まかしちょき!!」
「まぁ、赤城が居るなら安心ね」
「ああ、任せろ」
「おい!わしはぁ!!」
ヌビアはすべての人形をゼリテーヌへと集める。
「そしてゼリテーヌで落ち合おう。勿論さっき言ったように無理にとは言わない。それと君たちには古代魔術を三つ配っておく。それぞれの目的地、トッコン・ジェロ、ゼリテーヌにテレポートができる古代魔術だ。」
↑作戦図
そう言ってヌビアは三枚ずつみんなに配り始めた。イーサンド・ルイスが終わってから早速の仕事ではあるが、イーサンド・ルイスに居る間に事態を進展させてくれていた恩がある。任務は身を挺してもやり遂げなくてはならない。
「……私と関原はパラコ派の総力を持って反攻作戦の準備を行う。計画に同行できないのは不甲斐ないし、申し訳ない事だが、私の国と国民をよろしく頼んだ。」
そう言ってヌビアと関原は深く頭を下げた。恥じらいのない所作に彼の決意を垣間見られた。




