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僕らの愛しきユートピア  作者: モッツァレラ
第一章 虚空の炎舞編
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第六話 陰陽節

太陽がいつものように上がって朝が来る。だが、明日の朝はいつもの朝ではない。今夜から明日の夕方までが陰陽節。陰陽節の本質を知る者だけが立ち向かうのは、隠された地獄と灰の運命である。


「あれ、千々波、何してんの?」

「ちょーっとこの設楽女に予定があるので、行ってきまーす!」

「気を付けてね~」


 千々波は大きな鞄を持って玄関へと走りこんだ。ドア開けると思い出したように勢いよく振り返って蛇のような鋭い目つきで威嚇する。


『絶ッッッッ対来ないでくださいね』

「ああ、行かないよ…」


 そんな鋭い目つきを前に誰も行こうとは思わない。そう言えばここまでの話、千々波に振り回されてばかりだった。千々波を助けたのに、彼女自身が台風の目だったというオチ。だが不思議と悪い感じはしない。感覚がマヒしているだけかもしれないが…


「じゃあ僕らも高天河原に戻ろう」


 宿を後にして、一行は高天河原へ向かうことになった。昨日あれだけ執拗に追いかけてきた氷川隊は見る影もなく、ほのぼのとした太陽が僕らを賛嘆する。


「そういえば莽薙、お前なんか質問があるとか言ってなかったか?」

「ああ、忘れてた」


 そうは言ったが、内心聞いて良い事なのか悩ましかった。そこで菊水が赤城について質問して怒られているのを思い出した。それを思い出し、質問する気が完全に失せてしまった。必要であれば赤城の方から話すだろうし、急を要する物じゃない。


「……いや、良いんだ」

「そうか、ならいいんだが」


 結局質問しなかったが、逆に質問しなくてもよいものだったのだろう。そう思う事にした。しかし、赤城は何か言いたげな気持ちを抑えていた。

やはりここに来るまでに時間がかかったので、高天河原につく頃には既に黄昏時の一歩手前になっており、祭りの準備が始まっていた。今はどうやらリハーサルをしているらしい。ここまでの道のりで結局氷川隊はもう襲ってこなかった。襲っても赤城に倒されることが分かったのだろうか。


「ちょっとぐらいなら楽しんでもいいよね、まだ時間はあるわけだし」


 もちろん菊水の言うように、遊びたい気持ちは大いにある。しかし、横に居る鬼が——。


「ああそうだな、俺は梔子と一緒に居るから行ってくると良い」


 その赤城の言葉で心配がなくなった。準備が続々と終わり、茜色の空の元に色とりどりな明かりと屋台が街を一層華やかに飾る。そこで三郎の案内で菊水と祭りを回ることにした。


「莽薙、これしよ!」

「いいよ、三郎もな」

「え、僕も!?」


 三人は「水晶転がし」と呼ばれるガラスの球を板の上で動かして、番号の付いた穴に順番に入れるゲームをした。奥の穴に行くにつれて穴は小さくなり、入れ辛くなるのもそうなのだが、一番、二番の穴が大きく、後半になるにつれて避ける穴も多くなるので、難易度が徐々に跳ね上がるのだ。菊水は六つある穴のうち三つ、莽薙は四つ、三郎は卓越した技術ですべてを穴へ瞬時に落とすことに成功した。板をうまく使って重い球を飛ばし、穴を避ける場面もあった。勿論制限時間内だったので金銀の紙吹雪が出る吹雪玉を景品としてもらった。


「糀谷さん上手!」

「流石次期当主だな」

「慣れたらできるようになりますよ、数年かかりましたけど……」


 一方で赤城と共に過ごしていた梔子姫は盛り上がる祭りと同様に、心拍数も上がっていた。これから起こりうる運命に対してもそうだが、物理的にも鼓動は大きく、張り裂けそうになっていた。祭りの大きな太鼓が鳴るたびに心臓が躍動する。次第に息も荒れて、めまいが起こる。流石に赤城もこの異変には気づいたようで、赤城は祭りの喧騒から離れるように梔子姫と行動した。


「あれ、赤城さんじゃないですか」


 そこには服が薄汚れた千々波がいた。どうやら設楽女での案件が終わったらしく、鞄がパンパンに膨らんでいた。千々波は梔子姫の様子を見て神妙な表情を浮かべた。


「一体何していたんだ?」

「お互い詮索はなしにしましょ?」


 彼女にも秘密の一つや二つぐらいあるのだろう。自分がされて嫌なことはしない方が、自分の弱みを相手に探られない事にもなる。


「暇なんで作戦会議でもしますか」


 そこで作戦会議が始まった。ありとあらゆる現象に対処できるように作戦を練った。そこで思ったのは、身体的特徴は少女でありながら、やはり内面が幾つか大人びている。修行の成果なのだろうか。今作った作戦も非の打ち所がない。だが、「こんなことができるのか」という疑問と、解説の絵図が下手すぎて分からない事以外は上出来だ。彼女は信じるに値する価値がありそうだ。

 するといきなり梔子姫が気絶して倒れた。ずっと具合が悪そうで息が荒れていたが、遂にその時がやってきたのだ。啞然とする二人を尻目に梔子姫は昏睡状態になった。


「大丈夫か梔子!?」

「梔子姫様!」


 反応はない。次第に冷や汗が引き、心臓の鼓動も祭りの終わりに連れて静かに収まっていく。丑三つ時には既に肌は白く、眼は濁り、死者のような姿となっていた。だが、その伝説があるのであれば、彼女は未だ死んでいないはずである。

そんな中、祭りを終えた莽薙達が走って赤城に駆け寄る。しかし、意識のない梔子姫を見て衝撃を受ける。死体を最近見た莽薙にとって、鮮明に覚えのある状況だった。


「え、これって——」


 千々波が落ち着かせて事情を話した。思ったよりも莽薙達は吞込みが早く、すんなり話を受け入れた。吞み込みが早い莽薙に疑問に思っていると、直ぐに莽薙が別件を話し始めた。


「——糀谷が行方不明になった」

「おい、それは捕まったんじゃ…」


 菊水は一つの紙を見せた。乱雑で糀谷らしくはないが、その紙に文字が書いてあった。千々波の図解よりかは分かりやすいので、理解はできる内容。しかし、意図は全く汲み取れなかった。


『一度、家に帰ります』


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