第十三話 黄金の資金
「エリゼ、テレポートお願い!」
「え、またですか!?」
「リコラッタは僕たちの宿敵だ。ノワール・ルテイオスが居るノワール運輸会社に!」
「えっと……またマリーさんに……」
「じゃあエリゼは送ったら戻ってて。」
「リコラッタを止めなきゃ、私達の故郷も危ないから!」
千々波は二人に回復薬を多く持たせた。
「私は依代なので戦闘はできません。頑張ってくださいね。」
「あの猛獣倒せたからいけるでしょ!」
「……私の意見は無しですか。」
エリゼはため息をついて手を差し出した。花蓮と莽薙は手を握ってノワールの会社へと向かった。エリゼは結局戻るわけにもいかず、一緒に本社へと入って行った。
「面会でご予約の莽薙様ですね、こちらにお越しください。」
「え、よ、予約…?」
「はい、今朝予約されております。社長室はこちらです。」
不可思議に予約されていた面会を受諾して案内係に社長室へ案内してもらう。三階建てのレンガ作りの本社。古いのか、床の木が軋んで聞こえる。
「こちらになります。」
花蓮と目を合わせ、雰囲気の違う木の扉を開ける。そこには小太りで口髭を深く生やした中年の男が座っていた。その男は徐に立ち上がって挨拶をした。
「どうも、ノワール・ルテイオスです。ささ、おかけください。」
「……どういうつもりだ?」
「どうも何も、客人ですから。」
三人は目の前のソファーに座る。莽薙を中央に座らせると、ノワールは葉巻を口にくわえ、火をつけ始めた。
「……それで、リコラッタが何を企んでる。」
「企みも何も、もう終わりました。」
「なに?」
「数週間後、この国は金本位制から管理通貨制度に鞍替えをしたのだ。時間経過で我々の勝利だ。尤も、君達がもう少し遅ければ、利益は最大化できたのだがな。」
「……どういう事だ!?」
ノワールは葉巻を吸い、外の海を眺めながらワインを嗜み始めた。
「金本位制の間、戦時下のパラミダスから金を格安で買い、それをイーサンドに密輸する。イーサンドは金本位制で得た通貨を私達にも少し分けてくれ、その通貨で工場を買収し、イーサンドはそこに投資する。こうすれば国家は産業基盤が潤い、私たちは懐が潤う。」
「それはイーサンドの金融改革じゃないのか?」
「ああ、それに便乗できたことが最大の利益だ。」
「……まさかあなた、リコラッタがその利益を!」
「ああ、お嬢ちゃんは勘が鋭いね。とっくにイーサンドの産業基盤を支える工場は他社と示し合わせた上で買収できた。そうだな、後は……鉱山かな。」
つまり、リコラッタは黄金を密輸するだけで莫大な資金が手に入った事になる。そしてそれはもう殆ど終了している。莽薙達の敗北は確定した。
「クソ野郎……!」
「私を殺すなら好きにしてくれ。だが、殺さないなら和解として、パラミダスの黄金を分け与える。君達にも損はない話だ。」
「誰が貴方の話なんかに!」
「お嬢ちゃん、あのね、あなた達は計画を止めれなかった敗者。その敗者に手を伸ばしている。ありがたく受け取ってほしい物だね。」
花蓮は歯を食いしばり、怒りを堪えて座る。莽薙も終始相手のノワールを睨みつけていた。エリゼはの二人が何もできない間に鋭い目で質問する。
「魔女狩りは促しましたか?」
「……ああ、魔女狩りか。あれはな、電導技術を受け入れてもらうために賛成した。」
「パラミダスの黄金は、内戦中に手に入れたのですか?」
「ああ、パラミダス内戦で徴兵した一般人を金鉱山で強制労働させてるよ。」
「……それじゃ、内戦が終わらないのって」
「奴らも利益が欲しいんだろうな。戦争って商売なんだぜ?」
エリゼが珍しく体を震わせて怒りを露にしていた。
「……そのせいで、どれだけの人が路頭に迷ったか。そのせいで、どれだけ孤児が生まれた。貴方は知ってるのですか?」
「知らん。」
「……私は、その痛みを知ってる。貴方なんかよりも!!」
エリゼは立ち上がり、速攻でノワールに腕を上げた。しかし、呪文を唱えるタイミングで、背後から白い手袋が腕を掴んだ——。
「メイドさんは人を殺しちゃダメだよ。」
「寒川!?!?」
そこに立っていたのは寒川仙鏡。莽薙のフィクサーとして動いている人間。——だが、なぜここにいるのか。
「ノワール。計画は成功したようだな。」
「その通りだ。」
「まぁ、防げそうになかったから、こっちも乗っかる事にしたよ。」
「……なに?」
寒川はタバコを取り出して火をつけた。勢いよく煙を吐いた所で、壁に背中をつけて話始める。
「ローシャングがイーサンドの一抜けを嫌ってね。どうにかイーサンドの黄金を奪えないか画策していたよ。」
「ああ、でもイーサンドとは戦争状態で貿易ができないだろ。」
「だから、うちら吾妻と御伽家が金銀の交換率を使って大量にイーサンドの黄金を買い、それを多額でそれを後々ローシャングにも少し売りつけることになった。いやー、偶然うちの故郷が銀の産地だったから、イーサンドから黄金が大量に買えてね。今うちの吾妻と御伽家はがっぽり稼げてます。」
「なんと!?!」
「ごめんねオジサン。」
三人は寒川の手腕に惚れ惚れした。寒川はその視線を感じながら煙草の味と香りを堪能していた。
「……なるほど、あれは君たちの仕業だったのか。まぁ、金の流出は考えていた。だからうちの企業にも予備は残してある。それに、全く知らないだろうが、ミゼルボートではもう行った。黒字は確定している。その程度、別に恐るるに足りない。動くのが遅かったな。」
「ローシャング王国も最近まで経済に競争する余力が無かったもんで、イーサンドのこの動きに対応できなかったんでしょう。」
「それを見越しての計画だ。こっちは座っているだけで金が入ってくる。」
「……大敗ではなくとも、惜敗か。」
「こちらからすれば大勝だがな。」
葉巻とタバコの煙が延びていく。結局リコラッタの計画を未然に防げなかったが、故郷の資金は幸運にも得る事が出来た。莽薙の心をその言い訳で落ち着かせる。
「……最後にはっきりさせておきたい。」
「なんだ?」
「マクシミリアンは、悪か?」
ノワールは笑った。それも口の中を見せながら大胆に。
「……あいつほど正義が似合う奴は居ない。俺の提案を認めつつも『イーサンドは自分で稼がなきゃ意味がない。』『故郷を世界にするつもりはない。』って一蹴した野郎だ。久々に見たぜ、あんな政治家を見たのは。」
「……じゃあリュシアンが」
「ああ、あいつは直ぐに乗ってきた。『マクシミリアンから政権を奪取する為の手土産になる』ってよ。正反対なのによく関係が長続きしたものだ。」




