第七話 カマイタチ
「よろしくお願いします」
「手短に済ませてくれるとありがたい。私はこの後マクシミリアンに呼ばれていてね」
「正に話したいのはマクシミリアンの事で、『魔女狩り』は御存じですか?」
「……」
「その返事的に知っていそうですね、教えていただけませんか。名前は決して口外しません。こちらには秘匿義務があるので」
しばらくの沈黙の後で、ルベールはいきなり席を立つ。
「……申し訳ないが、時間だ。アンヌ君、頼む」
ルベールは呆気なく階段を駆け上がって消えてしまった。タブーな話なのかは知らないが、大分焦っている。対してアンヌは動じず、徐々に不機嫌になっていく。
「……アンジュ、またマリーの依頼?」
「うん、ごめんねアンヌ。でも、無実の人間が殺されるのは嫌でしょ?」
「……」
「『マリーの代わりに殺された』事のある貴方なら分かるわよね?」
「あぁ、アンジュ……私、探偵が嫌いになりそう」
そう言ってソファーに深く腰を掛けて体勢を崩す。言っていることも宛ら、到底三人にとっては理解できないような内容だった。そのままアンヌは鋭い目線を三人に向けた。
「……今のは聞かなかった事にして」
アンジュも両手を合わせて願い出た。理解できていないので勿論顔を縦に振った。
「…で、何を聞くの?」
「『魔女狩り』がどんな経緯で行われたかを取り敢えず聞かせてほしいな」
アンヌは足を組みながら腕を組む。いかにも態度が悪い上から目線で話始める。
「——正直、意図は理解できない。反対派の粛清かしら。」
「でも、マクシミリアンは民衆思いの政治家でしょ?」
「どうでしょうね。今度の討論の議題になると思うから、それまでは何とも。」
政治家であり議員である彼女ですら知りえないマクシミリアンの懐。闇が深くて見えそうもない。
「じゃあ、今政治で問題になってる事とかありませんかね。それと連動して動いてたりって……」
「確かに。貴方名前は?」
「花蓮です」
「花蓮、残念だけど、今思いつく限りで金融改革ぐらいしかないわ。それと繋がってるとは思えないかも。」
「……ちなみにどんな金融改革なのか分かります?」
「もうすぐ金本位制から管理通貨制度に変えるのよ。国内産業が育ってきたし、国内の黄金が減って来ているからね。輸出国家になって財政難を打開しようという魂胆でしょう。」
「……そんなにイーサンドは財政が?」
「外国のあなた達からしたら裕福に見えるかもしれないけど、これでもちょっと財政の方は厳しくてね。イーサンド・ルイスはこの不毛の大地という点で、輸入をしないと生きていけないの。民衆が自由を得てから、財政破綻目前を生きているって感じ。その点ではマリーを評価はしているけど——。」
かなり気難しい話になってきた。この国は魔女から自由を自らの手で得たのに、結局は別の物に縛られている。深い自由のジレンマの沼に落ちていくような感覚だった。
「じゃあ、政治でもう手に負えないのね?」
「まぁ、『打倒マクシミリアン政権』って旗が上がればできるかもしれない。でも最大の非主流派である私達の立憲派の指導者があれじゃ——。」
「……なるほどね、ありがとう」
そう言ってアンジュが立ち上がって帰る準備をする。莽薙達も後を追って起立する。アンヌも見送りに行く。
「この後はどうすんの?」
「せっかくだし、ここマシアックでも色々調査してから行くよ」
「そう、もうこの件で来ないでね」
「……へへへ」
アンジュはそう苦笑いをして階段を上がる。そしてアンヌにを手を振って別れを告げた。アンヌは見送るとすぐに建物の中へと帰ってしまった。
さて、ここから「マシアック」という町に行くのかと思っていた。どうやらマシアックには既に着いているらしい。先ほどまでいたあの建物がマシアックに存在し、ルベールさんとしたテレポートでここまで来たのだ。
「お前、スパイだろ!」
「ちゃうわボケェ!」
騒がしい横行に一斉目線が集中する。アンジュ達もその騒ぎの方へと向かってみた。群衆を分けて進むと、見慣れた人たちが経っていた。
「その妙な刀から変な物出しやがって…、おい、この異邦人を囲め!」
「世話焼かせおーて…、げにづきとばすで…!?」
花蓮がそこに割って入ろうとするが、アンジュに腕を掴まれて制止させられる。
「あなたの知り合いかどうかは置いて、ここは飛び火しないように私の後ろに隠れて」
言われるがままに花蓮は後ろに隠れる。そして彼の様子を大人しく見守った。その男は左手に鎖をグルグルと巻いていた。治安組織に包囲されながら、男は鎖に繋がった刀を振って相手に向かって刀を投げつける。
「うて、撃てぇ!」
周りの包囲する警官たちが銃撃を開始する。しかし、男が怯むことはなかった。
『鎖・神威太刀』‼
男は鎖を持ったまま刀を回転させる。遠心力のこもった刀が警官に傷を与えていく。銃弾は見切ったように一つ一つを避け、無傷のまま鎖を引っ張る。そのまま柄を掴んで納刀した。終始ジャラジャラの音は止まず、市民の悲鳴も混じって聞こえるようになると、その男は不気味な笑みを浮かべる。
「ジャーッ、シャッシャァ!、人をやわにするきちやぁ(馬鹿にするからや)」
そのまま男はどこかへ走って逃げて行った。そんな物騒な状況を見て、市民が混乱しないはずなかった。市民が発狂しながら逃げ惑う。
「まずい、私達も逃げるよ」
「ナギ君が居ない!」
周りを見ても赤城らしい人間は居なかった。しかし、そんな事お構いなしにアンジュは腕を引っ張り路地裏に身を潜めた。
「ナギ君との合流は後で、取り敢えず警官隊からの目を……。貴方も異邦人だから疑われちゃうし…」
「でもナギ君が警官隊に見つかったら……!」
「何かお困り?」
後ろから差し伸べられた黒い手袋、そしてこの花の香。振り返ると、啞然としているマリーが居た。
「マリーさん、今ちょっと警官隊が——!マリーさんが見つかってはいけないので…」
「アンジュ、落ち着いて。ひとまず撤収するから手を」
「え、あ、はいっ!」
そのままアンジュ達は最初に着た場所、マリーの屋敷であるアンジェルへと帰還した。アンジュはひとまず一息ついて、残された莽薙についてお願いした。
「……ここまで来くればもうなんちゃーがやないにかぁーらん(どうってことないでしょ!)!」
「ありがとうございます、武田さん」
「いいってことよ……、まだそこにおるにかぁーらんけど」
武田が見つめる奥の暗闇から一人の男が顔を覗かせる。
「全く、お前は何処でもこうなのかよ……半蔵」
「おんしは……!」
莽薙が首の裏を触りながら呆れた様子で歩いてくる。武田も流石に警戒を解いて納刀し、鎖をポケットの中に入れる。
「なんじゃおんし、こなーとこに……!」
「君は……確か…」
「はい、あの時はお世話になりました。糀谷三郎です。」
「なるほど、護衛が半蔵かぁ……、これは人選ミスだな」
「ほがな事おし!(そんな事ねぇよ!)」
「たしかに、赤城さんみたいな人を期待していたんですけどね……」
「おんしぃ!」
糀谷は武田を宥めるように説得し、莽薙は相変わらず呆れている。そんな莽薙の後ろからかたを叩かれる。振り返るとマリーが居た。
「帰るよ、莽薙君」
「一緒に連れてってもいい?」
「一人はいいけど、片方は騒動の当事者よね……?」
「武器だけ預かればいいかな?」
マリーは渋々頷き、莽薙は武田に対して手を伸ばす。それは武装解除の事を意味していた。武田は反抗したが、糀谷がそれを促したので渋々武器を預けた。マリーは全員に手に触れるように伝えると、そのままアンジュたちの下へとテレポートした。




