第五十二話 魔女狩り
イーサンド・ルイスの国土の八割は人が住めないらしい。そこに魔法を使って建国したのがイーサンド・ルイス。当初のイーサンド・ルイスはアマミ海側をローシャングが、北中海側をシュデーフが勢力圏を確保していた。その勢力圏を退けたのがマリーの母親であるナディア・マリー。彼女はメルカンから勢力圏を拡大し、砂漠の上で勢力圏を確立。その二勢力を追い出して建国したのがイーサンド・ルイスだった。
しかし、マリーが玉座を手放してから情勢は不安定。初めての民衆の政治という物に試行錯誤をして今に至るわけだが、何故か突然「魔女狩り」を断行。メルカンは最初の犠牲者になった。軍隊を使って行動したことから国が関与しているのは確定していると言う。
「まぁ、こんな所かな、今の状況は……」
「……なるほどね、それで、それを指揮してるのは誰なの?」
「政府を牛耳っていると言うなら、統領『マクシミリアン・ミューラー』。彼は凄腕の政治家で、民衆からの絶大な支持がある。特に「イーサンド砂漠回廊」と言う道を整備したことで大都市間の物量が盛んになって、中間都市も恩恵を受けて大成功を収めたのは大きいわ」
「……それで、僕たちに手伝ってほしい事って…」
「まぁ、やる事はそのままで情報収集よ。魔女狩りに魔法使いじゃない人間を使うのは常套手段でしょ?」
マリーは椅子からエリゼを呼んでハーブティーを淹れるように伝える。マリーはこちらに目線を映した後に、洋菓子を作っておくようにとも言った。エリゼはそのまま扉を閉めると、別の人物が扉を開けて中に入ってくる。
「マリー様ぁ、見つけましたで、彼らの魔力対策を!」
「シャンゼ、やっぱり早いわね。で、どんな結果なの?」
シャンゼと呼ばれる女性は自堕落な白衣を着ながら歩んでくる。莽薙達を尻目にマリーに報告書を提出する。
「……客人の前なんだから、服装を少しは整えなさい」
「……へへへ、こりゃあ失敬、失敬」
そう言ってシャンゼは白衣、ネクタイ、眼鏡をしっかりと整え、頭を既にパンパンな白衣のポケットから取り出した櫛で撫で始める。
「マリー様、メルカンにおける調査、終了しました」
「ゼンゼ、ちょっと待って頂戴」
「承知しました」
今度はスーツでビシッと決め、オールバックの男性が入ってくる。その男が入るなり、シャンゼの後ろから髪の毛を整え始める。自分で整えようとする手を払って、強引にゼンゼが髪の毛を整えるので、シャンゼは諦めて腕を組みながら怒っていた。
「……つまり、『魔力を吸い取る効果がある』と」
シャンゼはゼンゼの整える動きのせいで、頭が左右に揺れながら返答する。
「そうなんです、どーやら相手は手慣れの魔法使いでっせ?」
「ミューラーは魔法使いじゃないが……」
「そうなんっすよ、一体だれがやったのかは流石に僕も分からんもんでぇ……」
「銃弾一発一発に魔法を込めるって……、そう簡単にできないわよね」
「案外、そう難しくないかもしれません」
後ろのゼンゼが髪を梳かしながら口をはさむ。
「こちら、使われたものと思われる銃弾です。銃弾の底、雷管を見てほしいんですが」
「……何か刻印されている?」
「はい、恐らく古代魔術の類でしょう。魔力が大きければ威力も効果も持続する。正に対魔法使い専用の銃弾です。」
「……なるほど、魔法使いには致命傷な銃弾——。それなら最悪よりも——。」
ゼンゼはシャンゼの髪を梳くことを急にやめてしまう。シャンゼのもマリーもそれに驚いてしまう。
「……ゼンゼ?」
「あの……マリー様…、落ち着いて…聞いていただけますか……?」
マリーは首を横に振りながら席を立つ。ゼンゼはシャンゼの髪から手を下ろし、俯いてしまった。シャンゼも察して俯き始める。
「……銃弾である以上、発射する威力はほかの銃弾と変わりません。そして相手は一般人と魔法使いの区別もつかない訳です。」
「……いやっ、いや、そんな」
「魔法使いはまだ生きながらえる可能性はありますが、一般市民は……弾が当たれば…直ぐに——。私が見て来たのは、そのような光景です。」
「……そんな」
マリーは両手で口を抑えて動かなくなってしまった。その間に優しくエリゼがハーブティーをマリーの前に置いた。
「マリー様、事実である以上仕方ございません。これ以上被害を出さないように、我々にご指示を」
ゼンゼがそう述べると一歩下がる。その言葉でマリーは口を塞ぐ手の拘束を解き、再び椅子に座り込んだ。マリーは少し震えた手でハーブティーを啜ると一息ついた。
「……ゼンゼ」
「はッ」
「ヴィルテ騎士団にヴィルテシュタットの自警をお願いして、これを渡せば大丈夫。」
そう言ってマリーは引き出しから青い封筒を渡す。ゼンゼは丁寧な所作で受け取る。
「御意。テレポート」
ゼンゼはそのままテレポートして消えて行った。
「シャンゼ」
「はい‼」
「貴方はすぐに古代魔術の読解と対抗魔法を研究して頂戴」
「かしこまりぃ~ッ‼」
シャンゼはそのまま自分の研究室へと走って戻って行く。
「エリゼ」
「はい」
「これからもっと被害者が増えるかもしれない。病床の確保と患者をお願い」
「仰せのままに」
エリゼはゆっくりと廊下に戻って行った。マリーは残りのハーブティーを一気に飲み干し、眼鏡を整える。
「あなた達はルインで調査をお願い。しばらくしたら迎えに行くから。それまで絶対に魔法使いと怪しまれないで」
「わかった」
「あ、それと、この子に会って来て。これを渡せば彼女も分かるはず」
マリーは思い出してゼンゼと同じような青い封筒を受け渡す。
「えっと…、これをどうすれば……?」
「『アルバの民酒場』で待ち合わせと伝えておいた。『探偵アンジュ』と言う女性で小さい頃からのお付き合いだから、きっと協力してくれるはず。」
マリーはそのまま二人に手のひらを向ける。
「じゃ、二人とも立って。準備はできた?」
「いつでもいいよ」
「じゃあ健闘を祈る。ルインをよろしくね」
「オッケー」
『テレポート』
マリーの手の中に吸い込まれるような勢いだったが、次の瞬間には薄暗い路地裏にいた。そこから街を覗くと、中央に大きな城が見える。あれが所謂マリーの昔住んでいたルイン城。ルインの町は相変わらず賑やかな様子だった。
「そんじゃ、『アルバの民酒場』とやらに行ってみよっか」
「おう」
莽薙達は現在地の把握に乗り出した。町の建物と掲示板から着実に居場所を特定する。流石魔法の都と言うべきか、掲示板のありとあらゆる写真や文字が動き、知りたい情報を的確に出してくれる。その為、「アルバの民酒場」がルイン城東部アルバ地区にある事が分かった。そこまでの道のりも表示してくれたため、迷わずに到着することができた。
「『アルバの民酒場』ってここか……」
「この国の酒場は昼からやってんだな」
「赤城はなんか飲むの?」
「いや、それが目当てじゃないだろ」
そのまま扉を開けて入ると、全く酒の匂いはしなかった。どうやら昼間はカフェとして開いている様子で、店内は酒場とは程遠い物静かな雰囲気だった。
「あれかなぁ……」
いかにも探偵のような帽子とコートのブラウンで身を包んでカップに口をつけている。新聞を読んでいる様子で、こちらには気づいてない様子。
「あの……」
「…私、に何か?」
彼女と目が合うが、全く理解していない様子だった。そこで貰った青い封筒をその女性に渡す事にした。
「……これ…何ですか?」
そう言って彼女は青い封筒を開けて中身を確認する。しかし、結局無表情のまま首をかしげる。莽薙達は人違いかと感じ初めて言葉が出なかった。
「……これは人違い…かもしれないな。莽薙。」
「……ッ」
彼女は青い封筒に資料を入れ直し、コップ一杯を飲み干してお代わりを注文する。
「……あなた達は何か飲みます?」
「…え?」
そう返事すると彼女は笑いながら同じ物を持ってくるように店員に伝えた。
「ごめんなさい、ちょっとからかっちゃった」
「……じゃあ、アンジュさんですか…?」
彼女は帽子を外して笑いかける。
「改めまして、ヴィラヴァンシー」
「……ヴィラヴァンシーって?」
「えっ、イーサンド・ルイスの挨拶なんだけど」
彼女はとても驚いた様子で体を引いている。丁度、お代わりと人数分の飲み物が到着した。
「あっ、そうなの?」
「そうそう、東部の人は『ヴィラヴァンシー』。南部の人は『ヴィラヴァンセ』。ここルインはどっちも居るけど、南部の人が多いかな~」
「へぇ…、じゃあ、ヴィラヴァンシー…」
「うんうん、ヴィラヴァンシー莽薙、兼通。ようこそルインへ‼」
「こちらこそ、歓迎ありがとう」
「いえいえ、話は大体マリーさんに聞いていると思うけど、私の名前は『アンジュ』。役職は『ディテクティブ【探偵】』さ‼」




