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僕らの愛しきユートピア  作者: 光鵄
砂漠の楼閣編
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第五十一話 イーサンド・ルイス

「……それで、マリーさんはこれからの予定は決まってるんですか?」

「全く。とにかく情報収集が先決ね。情報がないと何もできないでしょ?」


 マリーはこちらを見る素振りも見せずに鶏肉のソテーにありつく。それにしても上品に黙々と食べる。幼少期はテーブルマナーで時間を費やしたのだろうか。そういえばうちの花蓮も中々のテーブルマナーだ。何だか自分が恥ずかしい。そう言う時は千々波を見る。彼女には品性というよりも欲望を体現したような食べ方だ。


「……何見てんですか、鶏肉はあげませんよ!」

「別にそう言う訳じゃないよ」


 全員が食事を済ませると、デザートが運ばれてくる。『トッコン・ジェロパン』という代物らしく、硬い皮のパンに餡子と生クリーム、少量のバターを加えた物。とても甘く、嚙み応えがあるデザートであった。


「…うん、わかった」


 マリーは神妙な面持ちでトッコン・ジェロパンに向かって喋り始めた。魔法でパンの気持でも聞いたのだろうか。そんな事はない。


「どうかしたんですか?」

「……いや、イーサンド・ルイスの状況が良くないらしいから、明日一旦帰国するわ」

「状況が良くない……、一体何が…?」

「……一つ言えるのは『自由の危機』。莽薙君も手伝ってくれる?」

「はい、僕に出来る事なら」

「まて、俺も連れてってくれ。莽薙の護衛は俺の仕事だ」

「ええ、わかった。残りの女性陣は情報収集をお願い。」

「わかりました。お気を付けて」


 翌朝、マリーの目の前に莽薙と兼道が集まる。年中寒い大地であるから防寒をし、急な温度変化に対応できるようにマリーに少し魔法をかけてもらった。


「さぁ、手を」


 二人は意を決し、黒い手袋に手を重ねる。次に目を開けた瞬間には、既に大きな部屋についていた。壁は石畳で、家具が置いてある。窓の外は吹雪で前が見られない。それを予期していたようにドアが開き、一人のメイドが入ってくる。


「マリー様、お帰りなさいませ」

「ええ、ご苦労様。それで、市内の状況は。ほかの都市は——。」

「芳しくないですね。メルカンではいち早く完遂されたとか。」

「……『メルカンは魔法使いの町』だから——か」

「被害を受けた魔女は一部匿っております。その人たちから話をお聞きください」


 そう言ってそのメイドはマリーと二人を先導する。廊下の赤いカーペットの上をゆっくりと歩いて行く。


「ここはどこ?」

「私の家みたいなところ。一般市民には見えないようになっているから、現状ではこの国で一番安全かもしれない」

「一体何があったの?」

「……『魔女狩り』よ。国が衰退しているのは魔女が苦しめているからって、政府が魔法使いを弾圧して回っているらしい。魔法との共存をしていたのにこんな目になるとは…」


 魔女が石畳の壁を三回ノックすると、壁を形成する一つ一つの石がフェードアウトしていく。やがて表れた空間には老若男女問わず、数人の魔法使いがベッドで傷を癒していた。彼らがマリーに気づくと、雰囲気が一気に安堵の雰囲気になった。


「……これは…、一体……」


 マリー曰く、魔法使いはそこそこの怪我なら自身の魔法で瞬時に回復できるらしい。にもかかわらず、ここまでの深手を負う事は滅多にないらしい。


「エリゼ、彼女らに施した治療は」

「魔法、妖術、古代魔術は全く使えません。その為民間療法で着実にすることしか——。」

「シャンゼは何をしてるの?」

「血液採取をし、原因を究明してます」

「ゼンゼは?」

「メルカンにて実地調査中です。完遂された後なので魔女狩りに会う心配はないかと。」


 マリーは一番手前のベッドに横たわる一人目の女性に歩み寄って話しかける。マリーと同じぐらいの年齢だろうか。


「……大変でしたね、話せる範囲でいいので聞かせてくれませんか」

「…あの時は本当に一瞬でした。町の入口に軍隊が入ったと思えば、魔法を使う人物に銃口を構えました。彼らの攻撃はただの攻撃ではありませんでした。起き上がれなかった私のを主人が拾い上げてここまでテレポートを——。そこからは記憶が……」

「そう、ありがとう。旦那さんは今どこに?」

「……わかりません、マリー様、どうか主人を…!!」

「ええ、わかっています。今は安静にしてください。」


 そう言ってマリーは次の男性の下へ歩み寄る。彼は左目に包帯がまかれていた。


「貴方はどんな事を経験したのですか?」

「逃げる時間を作るべく奮戦しました。しかしながら、彼らに直接の魔法攻撃は殆ど効きませんでした。そして私の友が——目の前で…」

「…勇敢ですね、自分を犠牲にしてよく頑張りましたね」


 その声をかけられた彼はベッドの上で涙を流した。次に足を運んだのは少女である。彼女は泣くのも疲れて放心しきっていた。


「…お嬢ちゃん、お姉さんに何があったのか教えてくれる?」


 少女はゆっくり縦に頷く。その姿は正にアンティークドールのようだった。


「……あのね、へいたいさんたちがへやにはいってきて……、おかあさんとおとうさんをうったの。そのあと、つれてかれて、あのひとにたすけてもらったの」


 その少女が指をさしたのは目の前にいる無精髭の男性だった。彼も放心状態であった。


「ありがとうね、お嬢ちゃん。これ上げるから、もう少し頑張ってね」


 マリーは洋菓子を取り出して、その少女に与えた。その少女は喜びもせず、感謝だけ言って口へと運んだ。今度はその指をさした男性へと向かった。


「……お話、よろしいでしょうか」

「………ああ、手短に」


 男性の目線は全く変わらない。


「…あの少女を助けられたんですよね、その時、どんな様子でしたか?」


 男性は勢い良くシーツをめくる。そこに男性の左足はなかった。


「奴らにやられた。彼女に助けるのに必死で気付かなかったよ……」

「……。」


 流石にマリーも言葉を失う。男性はシーツを被せて無かったかのように再び視線を固定させる。


「……まさか魔法を使って不便になる日が来るとはなぁ…」

「原因が分かりましたらいち早く対処します……」

「ああ……俺は良いから、他を頼むよ」


 マリーは彼に対して帽子を取り、深くお辞儀をすることしかできなかった。次にマリーが向かったのは老婆の元であった。見た感じは元気そうである。


「マリー、またお世話になったね」

「いえいえ、私が居なくて申し訳ないです」

「それにしても、本当に若いわねぇ…」

「そんなことないですよ、おばさんも相変わらずお綺麗ですね」

「あら、ありがとうねぇ。それで、話だっけ…?」

「ええ、そうです。何かありましたかね、気づいた事なら何でも…」

「私は特に何もないさ、でも、確かに魔力の消耗はいつもより速かった気がするなぁ」

「そうですか、ありがとうございます」

「いいのよぁ、こんな老い耄れを匿ってくれるだけで……」


 マリーが一通り聞いて回るが、状況は「兵士に襲われた」と言うだけで、根本的な魔女狩りの開始理由と、相手の魔法対策の方法が全く理解できなかった。そのままマリーは来た道を戻り、一礼して部屋を出る。マリーはそのまま最初の部屋に戻って莽薙達にソファーに座るように促すと、自分の椅子に一人腰を掛けた。


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