第一話 新たな旅路
——天羅大陸。別名、エソルカ。それは、世界一大きな大陸。この大陸で文明が起き、世界政府が起き、ローシャング王国によって破壊された。その大陸に於いて、殆ど無害であったのが、南東の僻地——吾妻だった。
世界政府が最後の拠点に選んだのも吾妻。それ程までに頑強な土地は、世界から嫌らしい目つきで狙われる。
「我々は、それに対抗できる『強靭な国』を作らなければならない。」
そのように言うのは、先程まで敵であった雨宮。世界政府の再興を目指す「秘密結社 リコラッタ」を見限り、吾妻の行く末を莽薙に任せた人物だった。
「……国家建設。吾妻の民を守るには手っ取り早いですが、莽薙様の器量が問われますな。」
ローシャング王国への留学中の関原はそのように呟き、眼鏡を整える。
「というか、この時代で建国する時点で時代遅れ。世界政府を破壊する事よりも難しい事ですよ。ですが、貴方様が『建国したい』と仰ったのですから、その覚悟は十分にあるのでしょう。」
同じく留学している寒川はタバコを吸いながらそのように言った。
「でも、ただの建国にはしない。今迄の旅で思った事は一つ。簡単に言えば——」
『理想郷建国』。
理想郷。それは、天国やエデン、楽園ではない。全てが完成された完璧な場所のことを指す。莽薙は自身が思う建国したい国家を、そのように表現した。
「——莽薙様の仰せのままに。」
関原は深く頭を下げ、寒川も頭を下げた。雨宮は莽薙の目をじっと見つめる。雨宮自身、莽薙に屈服したわけではないと感じていた。莽薙は雨宮を見て、その気持ちを汲み取り、雨宮に軽く会釈することにした。顔を上げた関原は、莽薙に呟く。
「——莽薙様、不躾ながら提案致します。」
「私、関原を莽薙様のブレーンとして活動させていただきたいのです。」
「……ブレーンか。」
ブレーンとは、指導者などに知恵を貸し、意思決定、戦略立案を支える参謀、相談役。人によっては、「右腕」とも呼ばれるような役職。ローシャングの一件からしても、確かに関原をブレーンにする事は最良のかもしれない。が——
「留学はいいのか?」
「はい、海軍留学にて得た知見は全て紙に留めており、後任の青城謙一郎には既に渡してあります。」
「え、まさか、ずっと室内に籠って書いてたのって——」
「ああ、引継ぎの為だ。」
「え、じゃあ、こうなる事を見越して——」
「ああ、そうだ。」
寒川は関原い驚愕して口を大きく開けた。思わず口に挟んでいたタバコを床に落としてしまう程。
「いいよ、関原。私のブレーンとなってくれ。」
「仰せのままに。」
「まぁ、右腕は変わらず赤城だけど」
「……。」
「莽薙様、一言余計……。」
関原は要求を吞んでもらった事が嬉しく、笑みを浮かべていた。しかし、最後の一言で厳しく鋭い目線に戻った。莽薙は気にせずに寒川と雨宮にも目線を向けた。
「同時に、寒川にはフィクサー。雨宮にはスパイをお願いしたい。」
「——フィクサーですか。」
「事態収拾、そして幅広い人脈が活かせるじゃないか。」
「……私なんかに勤まりましょうか。」
「勤まると思ったからお願いしてる。」
フィクサー。トラブルや状況を裏で揉み消し、コントロールする人物。強力な人脈と資金、地位が必要。それらを駆使して示談から脅迫、買収まで行う。
寒川がこの地で初めて顔を出した時は、ヴァンダルシアの非正規軍と最初に戦闘になった時だった。あの事件が表沙汰になってないのは、彼の揉み消し能力による物。既にローシャングの警察とは関係があるらしい。それを莽薙は見込んでいた。寒川はタバコを広い、灰皿に押し付けた。
「ならば、ご期待通りに。」
「雨宮は良いか?」
「適任です。陰に潜むのは好きなのでね。」
「じゃあその立ち回りで協力してくれ。」
この後の動きについては把握できた。そして将来の計画も。後はこの後の方向だが——。
「やっ!呼ばれたから来たよ!」
「丁度話し終わった所なんだ、座って」
ロメリアが個室の扉を開けた。ロメリアはいつも通り、莽薙の誘いに乗って莽薙の横にルンルンで座った。
「——それで、何?」
「次に行くところを決めたくてね。」
「えーもう行っちゃうの?」
「しょうがないよね、旅だから。」
「そっかー……」
ロメリアは寂しそうに俯く。しかし、すぐに笑顔を取り戻した。
「それで、どこに行くの?」
「雨宮が言うには、『秘密結社 リコラッタ』は天羅大陸の西側の国家を取り纏めて世界政府を作ろうとしていて、それが計画の核らしい。だからそれを破壊したくてね。」
「天羅大陸……?」
「エソルカのことです。」
雨宮がそのように補強した。その「エソルカ」という単語を聞いた瞬間、ロメリアは膠着した。そして莽薙にゆっくり目線を向ける。
「——エソルカに行くの?」
「まぁ、帰国するには通らなきゃいけないし。」
「今まで来た道を帰るってのは……」
「ない。行かなきゃいけないんだ。」
ロメリアは厳しい表情を浮かべ、唇を噛み締めながら俯いた。そして目を瞑り、考えを巡らせる。
「……エソルカ。大陸西部は、紛争が絶えない危険な場所。あまり無理には——」
「エソルカには、イーサンド・ルイスがあるではありませんか。」
寒川がそのように発言した。魔法大国 イーサンド・ルイス。その国はエソルカの地域の由来ともなる国家。ローシャング王国に並ぶ大国ということもあり、治安は安定しているが——
「ローシャング王国と、イーサンド・ルイスは、まだ戦争状態。」
「……え、でも、軍隊は何も——」
「外交上の戦争状態。数百年前の戦争の講和条約をまだ締結してないから、ローシャング王国からイーサンド・ルイスに向かう事は出来ない。」
ロメリアはそのように寒川へ諭した。雨宮も頭を抱え、関原も腕を組んで目を瞑った。その中で莽薙が口を開いた。
「旅の目的の一つに、『ナッシーの不死鳥について調べたい』ってのと、『ナミみんを回復させたい』という目的も孕んでいるのだけど——。」
「……うん、じゃあ、一つしかないかな。」
関原はそれを聞くと、すぐに右手に鉄扇を出し、机を叩く。机の上には世界地図が広がった。ロメリアは驚きながら、人差し指をとある場所に向けた。
「——ここは」
「パラミダス。今はパラコ共和国とミダル王国で内戦をしているんだけど、このミダル王国の首都:ゼリテーヌには大きな図書館もあるし、古代魔術発祥の地だから色々と助かるかもしれない。」
「……じゃあ、そこにしよう。花蓮と赤城、ナッシーの容態を見て出発時期は決めることにするよ。」
『承知しました。』
「承知しましたー」
「いや、貴方は国王でしょ……?」
向かう先は決まった。しかし、莽薙にはまだやる事があった。莽薙は宮殿内に移設された騎士団本部を訪れた。
「莽薙さんがいらしました」
セイジが中に案内する。騎士団の政務については一時的にキルメール候にお預けになり、この本部にはセイジとセイビア、ミネルヴァ、ジュールズが手を取り合ってその他の職務を行っている。
「やあ、よく来たね。」
「はい、いよいよお別れに時期になりましたので。」
「え、もう行くのです?」
「うん、ゼリテーヌに。」
「そりゃあ、また大層な場所に……」
ミネルヴァは莽薙を中へ招き、中央のソファーに招く。セイビアとミネルヴァが対面に座り、セイジがお茶を淹れる。
「——君達には本当に世話になったな。」
「お互い様です。」
「世界の反対なのです、次に会うのはいつかわからないのです……。」
「本当は会うはずない人達が、こうして会えた。会おうと思えばまた会えるよ。」
「そうですね、次は師匠と行くのです、じゃあ、バイバイ!」
「え、はや、潔い!」




