第四十四話 託す希望と臨む未来
「……俺たちも行くか。」
「そうだね、行こうか」
莽薙は花蓮を一時的に地面に寝かせ、協力して梔子姫の囚われている鉄格子をこじ開けようとした。しかしなかなかびくともしない。
「……なかなか頑丈じゃねぇか」
「こりゃー骨が折れそうだね」
コツコツコツ……
後ろから人が来ている気がする。その足音もして、恰も奇襲をかけようとしている様子だった。なので足音が止まった瞬間に振り返る。
「うわぁ、いきなり振り返らないでくださいよ‼」
白い髪に白い服。それは千々波であった。驚愕して尻餅をついている。
「あれ、ナミみん、治ったの?」
「いや、治っておりませんが」
『???』
話が中々嚙み合わない。いや、もともとだが。長く寝ていたから言語能力が低下したのだろうか。
「何ですかそのバカを見るような眼は‼」
いや、実際事実である。
「何ですかその『事実じゃん』みたいな顔‼」
心を読まれている!?
千々波は起き上がり、尻の砂埃を叩き落とす。
「で、なんで治ってないのにそんなに元気なんだ?」
「そうですね、どう説明しましょう……。『憑依』かなぁ…」
「憑依…?」
「ええそうです。誰かさんが私に『溶礼道秘伝千々波特製回復薬』を飲ませてくれたので一時的に回復しました。その隙に依代を作り、再び昏睡したタイミングで依代に憑依しました‼」
「……溶礼道って凄いな」
「まぁ溶礼道の仙人って感じですからね、なんでもできますよ‼」
「……仙人がこれってのも—」
「何です?」
「……何でもない、とにかく手伝ってくれ」
そういって再び梔子姫の鉄格子を破ろうと奮戦する。いろいろと考察し、梔子姫も会話に加わりながら解放を急いだ。
ガゴン
「は、外れた!」
赤城が手を伸ばし、梔子姫がその手を取る。こうして不死鳥は狭い世界から解放された。
「ありがとう、みんな」
「……帰ろうか僕たちの場所に」
こうして長い一日が終わった。各々の部屋に戻って深い眠りについた。相当疲れていた様で、次の日に起きたのは昼頃だった。外が騒がしいので出てみると、そこには赤城、千々波、梔子姫が外に出ていた。寝起きのせいかすごく眩しい。
「……みんなどうしたの?」
赤城は無言で人差し指を上に向ける。莽薙はが上を見ると、綺麗な青空が広がっていた。
「ロメリアが成功させたそうだ」
「…そうか、やったんだ。すげぇなぁ……」
雲一つない大きく広がる群青に吸い込まれそうになりながら、ふと思い出したように莽薙は建物に戻る。
「どこ行くんだ?」
「……ちょっとね」
そう言って入ったのは花蓮の寝る部屋。不死鳥の炎で回復したとは言えど万全ではない。それに梔子姫の療養に支障をきたすので、傷は未だにある状態だった。
みんなが外に居る中で、部屋に残る気がかりだったのだ。それに昼だからあの溶礼道秘伝千々波特製回復薬を飲ませなければならない。
「……あれ、ナギ君…?」
「ああ、僕だよ。もう昼だから薬飲まないと。」
「…みんなと一緒に蒼空見なくていいの?」
「もう見たから大丈夫だよ」
そう言って回復薬の蓋を開ける。試飲して味に問題ない事を確かめる。そのままその瓶を口元に持っていこうとするが、それを花蓮の手が制止する。
「……『病人にするって言ったら口移しじゃない?』ってあなた言ってたよね」
「え、えぇ……」
御託を並べても自分がそう言った以上、反論もできないだろうし彼女は根に持つ。ここは一つ労いだと思って。
「……なにそれ、してほしいのかよ」
思ったのと別の口の使い方をしてしまった。しかし、花蓮は毅然と変わらぬ表情で首を縦に振るった。この時ほど正直者は嫌いだ。
「……分かったよぉ」
莽薙は回復薬を口にすると、花蓮に口移しをした。その時間は短くすら感じた。そのまま口を拭って立ち去ろうとすると、花蓮の両腕が莽薙を包み込む。
「……目覚めさせてくれて、ありがとう」
そのかよわい声を聴いて莽薙も腕を回す。
「おはよう、花蓮」
「ヒヒヒ、おはよぉ~」
そのまましばらくそのままの状況が続いた。思ったのは予想以上に花蓮が元気である事。それなら口移しする意味がなかったのではないかという事。全く、昔からずる賢いままだ。
「あら、貴方まだいたの」
王宮の隣、研究所の地下に大きなカプセルが設置されていた。研究所の地下はなるべく外に流出させてたくない実験成果や、開発した物の保管庫となっている。その山の奥に二番隊隊長のヴァイオレットが居座っていた。
「すみません、迷惑ですか?」
「いや、別にそうじゃないけどさ、ずっとここに居ていいのかなって」
「大丈夫ですよ、騎士団は本日団長たち以外休暇です。」
「……なら好きにしてもらっても構わないけども」
「逆に陛下の方がお疲れではないですか?」
「……そうなんでよね、ちょっと限界がきててね。でも誰にも仕事を押し付けるわけにはいかないじゃない?」
ヴァイオレットは心配そうに見つめる。疲れもそうだが、ランドの事についても精神的な負担になっているのは間違いないからだ。
「……もっと効率のいいドリンクでも作ろうかしら」
「健康は機械ではどうにもなりませんよ、ランドの為にも健康でいなくては…」
ロメリアは微笑むと顔を小刻みに縦に揺らした。ヴァイオレットが席を立つと、ロメリアも地下を後にした。
「ランドをお願いしますね」
「ええ、未来の私に託すわ。あとは神の御心に。」
研究所の地下深くで眠るランド。あまりにも大きな衝撃は現在の技術では救うすべはない。だが、それは現在の話。そう遠くない未来までにロメリアは今の二倍、三倍の努力を以てランドを復活させるというのだ。
「……陛下、助けになる言葉が今思いつけば」
「いいの、私、ランドよりも二倍悪足搔きが得意で、二倍諦めが悪いから。嘲笑いが四方八方から来ても大丈夫よ」
「陛下、ランドも喜んでます。きっと…」
「…そうだね、貴方が騎士団に入った理由を今度は私がする番ね」
「私の騎士団に入った理由……。フフフ、そうゆう事ですか」
二人は会話するうちに研究所の入り口にまでやってきていた。すると、入り口には二人の人影が見える。
「ロメリア陛下……、ヴァイオレットさんもいましたのですね」
セイビアがセイジの肩を借りてやってきた様子だった。どんな用件であれ、とにかく中に入れる事にした。二人を席に着かせて用件を聞く。
「私を騎士団から除籍させて頂きたいのですが——」
「セイビア隊長がこういうので、僕も同じように。」
「え、聞いてないのです、貴方は続けるんです‼」
「いや、隊長がセイビアさんじゃないなら辞めます」
「いやいやいや、私しか知らないだけでもっといるのです。ヴァイオレットさんとかアクセルさんとか、もっといい人ばかりなのです」
「いや、とても大きなお世話になったのがセイビアさんですし、セイビアさんの責任は副隊長の責任でもあります」
「いやいやいy——」
これがいつまで続くか分からないが、正直言って無駄な会話だ。ロメリアの中ではすでに結論が出ている。
「——で、要件はその除籍、除籍しない問題だけ?」
「…そうなのです、セイジはともかく、私は陛下の弟を傷つけて殺したのです。もっと良い方法があったはずなのにです。セイジは言ったことは期待以上にやってくれるのです。剣術も確かですし、作戦指揮や立案、緊急時の対応も引けを取らないのです。どうか、セイジは救ってやってくださいなのです。」
「セイビアさん……」
セイビアは深々と頭を下げる。セイジはそんなセイビアの横顔を見て動く事ができなかった。ロメリアはシルクハットを取り、逆に深々と頭を下げる。その異変に気づいたセイビアが驚いて顔を上げる。
「へ、陛下…何をしておられるのです?」
「お願いです。セイビアさん、騎士団を続けてもらえないでしょうか」
「……ど、どうして、私は、」
ロメリアは頭を上げてシルクハットを丁寧に被る。
「大事なのは『誰を殺したか』ではなく、『それは正当な行為か』であると思います。貴方の行為は騎士団と私に忠実で、要人救助と護衛を着実にやりのけました。この大きな任務は大成功でした。問い詰める場所は全くありません」
ヴァイオレットも微笑み、その意見同情するかのように強く頷く。
「それにあなたの明るさは騎士団のバカ真面目な緊迫した雰囲気を和ませます。貴方は騎士団の花ですから、どうか、除籍はご勘弁を。」
流石にセイビアもセイジも面食らったように只々啞然としていた。しかし、そのロメリアの意向を聞くと、流石のセイビアも退くことしかできなかった。
「………そうですか、わかりました。陛下がそう言うのであれば——」
「良かった、ヴァイオレットもセイビア達の事よろしくね」
「ええ勿論です」
ヴァイオレット、セイビア、セイジはセイビアの身を案じながら騎士団の本部へと歩みを進めていった。清々しい程の青空が暖かく、ロメリアとその三人を照らしている。ロメリアはその三人と青空を見て思わず笑みがこぼれた。




