第三十七話 嚙み合う歯車
定刻を刻む一つ一つの歯車がもし、各々を干渉していなかったら、それは動かない。これは運命も同様。運命も各々を干渉して回りだす。今は何も起きなくても、それがギアを通じて大きな事になる。それがたとえ秒針を一つ進めるだけでも、それを見た人々は感化されるだろう。
「あれ、ソフィアいないんだけど……」
花蓮が戻ってから探しているがどこにもいないらしい。しかし、大体検討はついている。
「多分ソフィアなら大丈夫でしょ、ロメリアの作業効率が二倍になるだけでね」
「……なるほど、じゃあ大丈夫ね」
夜の幕が降りて、濃霧発生まで残り数時間、最後の自由時間が訪れる。その最後の時間にジェットは病室に居た。オーロラもソーレンも呆れた様子でジェットを睨みつけている。
「……まあ、事情聴取じゃない。騎士団の今後についてだ」
「……」
ジェットは花蓮の提示した騎士団の改革案を提示し、ソーレンとオーロラの前で熱弁をした。これからの騎士団や、どういった立ち回りをするのか、どうやって信頼を回復するするかなどを話した。ソーレンとオーロラからの怒号を覚悟していたが、意外な返答が帰ってきた。
「……それだけか?」
「…ああ、」
「………別に変えること自体が問題じゃない。変えない事が悪いんじゃない。騎士団の志が変わっていることが問題だ」
ソーレンは資料を消してジェットの目を覗き込む。しかし、それが憎たらしい目つきではない事は、長く横に居た人間としてよく分かる。
「騎士団の設立当初の目的、覚えているか?」
「……『民衆を一人残らず救う』だったか?」
ソーレンは少し表情を崩し、自身の発言を訂正する。
「確かにそれが当初ではある。お前が団長として設立した時の目的だよ」
「……『日常を自警する』か」
「そうだ、俺らはそのスローガンの為に仕えてきた。騎士団がどんな改革をしても構わない。構造が面影をなくしてもいい。だが、その理念だけは忘れてくれるな。少なくともランド団長の方がマシと言わせてくれるな——。」
「ああ、わかった。そのようにはならない。だから、戻ってきてくれ……。」
「だが、今のままでは騎士団に戻るつもりはない。日常を犯しているのは国家だからな、その直属にはならない。」
「……なるほどな、じゃあ少し付き合ってくれ」
傷がまだ癒えない中でジェットはソーレンとオーロラを外へ連れ出した。ジェットがソーレンを背負って向かったのはロメリアの研究室。明かりと煙が出続けている。
「……失礼します」
その中ではソフィアとロメリアが縦横無尽に走り回りながら作業を進めていた。
「融合臨界点は十パーセント減少…」
「もっと、冷却処置‼」
「してるけど…反応なし‼」
「……じゃあ混合液噴射して‼」
「よいしょっ‼」
暫く噴射の音は続いたが、二人の反応を見ると失敗に終わった様子だ。用紙にソフィアがメモを施し、ロメリアがため息をつきながら黒板に「×」を羅列させていく。
「……お二人は何をされて」
「国民の日常を戻すために奮起していられる。工場の煙に特殊液を介して害のない空気に変換する実験を繰り返しておられる」
「そんな……国民のために…」
「……尻拭いだと言って、昨日からずっとこの調子なのだ」
ソフィアとロメリアは気にする素振りも見せず、再び実験を開始した。ソーレンとオーロラはそれを見て只々啞然とする他無かった。
「私たちが…悪かったわ……」
オーロラはそう言って片膝をつけて王女に敬意を示した。ソーレンもそれを見てジェットから飛び降り、同じ態勢を取って敬意を示す。
「私の間違いでした。どうかお許しを——。」
「今そんな事言ってる場合じゃないでしょ‼しっかりしなさいよ‼」
「し、しかし、陛下をここまでさせてしまうとは——」
「…っ、もういいから、私たちみたいに『行動』で見せればいいから‼」
「……」
オーロラとソーレンは静かに起き上がり、ソーレンは酒を呷ったかのように団長に寄り掛かる。そして耳打ちで団長に話しかける。
「……団長、ご命令を」
「オッケー、まかせて」
そう言いながら歩いてやってきたのは参謀長のネクサ。流石にソーレンもオーロラも驚いた表情をしてネクサの方を見ていた。
「……なんでここに」
「団長に呼ばれたんだよ、四人で集まろって、粋だよねぇ~」
「勿論作戦準備も兼ねてだがな」
「…団長は用意周到ですね」
「あの時から変わらないな、いい意味で頑固だ」
「それって本当にいい意味か…?」
その日、霧がかかっても止まずに照り続ける二つの部屋。霧がかかっても尚眩しく見えるこの明かりが、全国に飛び火する事を願いながら彼らは黙々と作業を続けていた。
「ナミみん…起きないな」
「脈はあるけど、流石におかしいよね……。病気の仕業と言うには無理があるような気がする。どうにかならないかしら……。」
千々波の寝顔は全く変わらない。そこで赤城が一つ思い出す。
「何だっけな、ソフィアを復活させたときに飲ませてたやつ」
「『溶礼道秘伝千々波特製回復薬』のこと?」
「ああ、たぶんそれだ。あれならナミみんも何とかなるんじゃなかろうか…?」
「確かに!」
納得したというよりかは、目を開かせる為にはそれしか方法がないと思った。千々波の荷物には小瓶が五本入っている。そのうちの二本は空瓶だった。三本は中身が入っているが、これを果たして吞んでもいいのだろうか。腐敗してなければいいのだが——。
「じゃあ……」
莽薙が意を決し試飲する。味も風味も引っかかる点は無かった。問題はなさそうなので花蓮にパスする。
「え、何?」
「風邪人にするって言ったら口移しじゃない?」
「え、えぇ……」
そう言いながらも花蓮は千々波を思ってやってみる事に。長い髪の毛が邪魔で、結んでから口に流し込んだ。
「……これでよかったのかしら」
「信じるしかないよ、今はこれでどうにかするしかない」




