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僕らの愛しきユートピア  作者: モッツァレラ
ロメリアスチーム編
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第三十六話 改めて革める

 今日の夜はお通夜状態だった。国賓を救助したとは(いえど)も、出てきた真相は全て今までの膿。やはり父にはなれなかったと虚しく潤む瞼が、未来と言う設計図をぼやかしていく。「あの人のために」と頑張ってきた努力が「有難迷惑」だった時はどうすればいいのだろうか。今までの自分は存在して良かったのだろうか。無意味だったのではないか。


「……どうすればいいかなぁ…父さん、母さん」


 嘲笑っているのか穏やかなのか分からない自分の笑顔が窓に反射する。その向こう側には非日常が日常となった町の姿。もうすぐ風が止み、霧が発生するのだろう。大きなため息をつく。その息にはいままでの鬱憤と絶望が含まれていた。

 ロメリアは反射する自分の顔を押し開け、霧がかかり始めた町へと顔を覗かせる。新鮮ではないが、夜の空気も気持ちがいい。


「きっと、私が治すから。この国の膿をすべて、取り除いて見せるから」


 小さな声で大きな決意を固めた。窓を閉める時に顔を撫でた微風が、ロメリアのその決意を後押しした。ロメリアは扉を閉めて自分に言い聞かせる

「なんたって、ロメリアの技術力は世界一なんだから……‼」


 その日、ロメリアは朝日を迎えても尚一睡もしなかった。「現状維持」や、「希望ある未来」などといった言葉にロメリアはもう靡かない。彼女が思っているのは「人々の当たり前の願いを叶える」と言う強い感情。その強い意志が彼女を突き動かしていた。



「……君たちの目的は何なんだ?」


 沈黙を続けるソーレンとオーロラ。彼らから聞き出せたことは一つもない。ジェットとしては未だに難儀だった。何も話さない幼馴染を苦しめ続ける事をしたくなかった。


「もう…今日はいいじゃない、また明日聞きましょ」


 ネクサはジェットを宥める。しかしジェットは席から離れようとはしなかった。彼らの中にはきっと分かり合える心が残っていると信じていたからだ。しかし、ネクサの三回目の宥めでようやく腰を上げた。ネクサと病室を後にして二人で来た道を変える。


「……あなたが団長なんだからしっかりしてよね?」


 再三と自分の心に訴えかけている。よくわかっているが、そう簡単に切り捨てる事ができる訳じゃない。


「科学技術は進んで難しい事が可能になっていくのに、どうして簡単な人間関係は難しくなるのだろうな……」


 ネクサも同じ思いなのは俯いた頭で容易に想像できた。人間は変わっていくもの。一点にとどまり続ける事なんてできない。彼らと一緒に昔のようにできたらと思う。だが、やはり昔には戻れない。これは時間の問題だ。誰も悪くない。彼らも悪くないのだ。彼らも——。


 改革というのは何もない状態で現れることは無い。現状を顧みてより良い物があると感じた時、素直な願望が改革となるのだ。そしてその改革は運命の歯車の動力源となりうる。


「結局、彼らは梔子姫の不死鳥の力を利用していた……」


「…彼らはロメリアの気づかなかった『もう一つの特徴』を発見したんだろうな」


 赤城がそう言いながら刀を手入れしている。聞きに行こうにもロメリアは昨日から部屋に閉じこもって出てこない。更には返事もない。食事の時に扉を開けている為、生存は確認できている。だが、彼女がこの事件でのキーマンであるのには変わりない。彼女が終わるまで何もできないのだ。


「……諦めるって、そんな考え方ないでしょ?」

「ええ、あなた達らしくもない」


部屋の扉から覗いているのはソフィアと花蓮。自信満々の花蓮と呆れるソフィアが部屋へと入室し、未だに起きない千々波の横に座る。


「別に、そう言う訳じゃないけど…」

「ロメリアの代わりではないけど、私も博識ではあるはず。頼れる内に頼っておきなさい」

「……それってどういう意味?」

「私、職務上の理由でここに来たの。数日間伸ばしてもらっているけど、明後日までには帰るから。それまでに進展させないと難しいわよ」

「……なるほど、何か作戦があるって事?」

「これからは彼女の番ね」


 そう言って紙の束を出現させて花蓮に渡す。花蓮は動揺して紙の束を落としてしまった。


「え、そこまで聞いてないんだけど——」

「逆にそこを話してないのかよ」

「……作戦あるかなぁ…って聞きに行っただけだから」


 ソフィアがその状況に微笑むと部屋に戻って行った。多く語らないその背中は見慣れた安心感があった。ソフィアが考えたならば大丈夫だろう。

 曇天の中で紙に書かれた場所に向かう。どこの空を見ても、いつの空を見ても変わらぬ薄暗い天気。ここの人々はどのくらいの期間青空を見ていないのだろうか。そんなことを思っている内に目的地に着いた。


「ここって……」


 扉をノックすると見たことがあるような人間が挨拶する。


「はい、あら、どうかされましたか?」

「…少しご相談がありまして」


 莽薙達がやって来たのはロドメリア騎士団の本部。受付をしたのはあの時車を運転していたピンク髪のヴァイオレット。話を聞くとヴァイオレット自身はオーロラの直接の部下であった過去があるらしい。

紅茶の優しい匂いが部屋を包み込む。その匂いに誘われたわけではないと思うが団長のジェットがやってくる。


「…どういうことだ?」

「あ、説明するのを忘れてました…」


 ヴァイオレットは今まであった事をすべて話した。あった事と言っても来た理由も訪ねずに世間話を繰り返していただけだった事を思い出す。


「そう言えば何のためにここに来たんですか?」

「聞いてなかったのかよ‼」


 ヴァイオレットの隣に腰を掛けるジェットは少し疲れている様子だった。そこでジェットが大好物と言う「ジャクソニックのアップルパイ」を持参した。勿論ソフィアの入れ知恵だが、それが功をそしたらしく、ジェットは目を大きくして輝かせて目配せをしている。


「こ、これいいのか…?」

「ええ、勿論です」

「ありがとう……最近公務続きで食べに行けなくて——。」


 一口食べた途端からジェットは目を潤ませ、あまりの美味しさにガッツポーズをする。大げさだと思ったが、自分達がいざ食べてみると芳醇な甘みとほのかな暖かさが鼻を駆け抜ける。そこに紅茶を流し込めばガッツポーズをするのは不思議ではない。気分はすっかり高貴な貴族そのものである。


「…で、モグモグ…何しに来たんだい? モグモグ」


 アップルパイを食べ終わってから話そうと考えていたが、どうやら難しい様子だ。そこで花蓮から話してもらうことにした。この計画は花蓮が肝だからである。


「……ジェットさんは忙しそうですから、私が騎士団の改革を施そうかと」

「え!?君が!?」


 驚きの表情を隠せずにジェットは紅茶を咽てしまう。


「彼女が——、改革を?」

「ええ、彼女は御伽家の軍政に携わっていまして、神琉王朝の軍政改革も彼女が主導で行っているんですよ」

「……なるほど、確かに実績もあるんだな」

「ええ、任せていただければより良い物に致します」

「……正直、私一人では手が足りない所だったんだよ、頼んでもいいか?」

「ええ、喜んで‼」


 返事を勢い良くすると、ジェットはアップルパイを一口で食べ治め、紅茶を流し込む。そのまま一息置いてから立ち上がると、花蓮についてくるように言った。

 彼について行き、彼の執務室へと向かった。改革をするにはまずは現状を把握しなければならない。それをジェットが教えるという話だと言う。


「まあ、まずはこの騎士団の内情について語ろうか」


 騎士団の成立は民間の有志達による自警団。ジェットを団長、ソーレンを副団長、ネクサを参謀長、オーロラを事務長として始まったらしい。その時に団員だったのがアクセルとセイビアである。


「……まあ、この時前任の団長が居たが、これはまた今度でいいな」


 当時から一人一つの軍団を率いて戦い、それぞれの隊長の役職によって騎士団を支えてきた。今の割り当てをジェットは掲示し、それを花蓮は凝視する。


団長・ジェット 副団長・ソーレン 参謀長・ネクサ 事務長・オーロラ 書記・ネオン

先鋒隊・アクセル 二番隊・スタライヴ 三番隊・セイビア 四番隊・ヴァイオレット

五番隊・セイジ 六番隊・リリー 近衛隊・ジュールズ


 これを一通り見た後に花蓮は幾つか質問をする。


「騎士団は自警団時代のように団長が命令して作戦するのかしら?」

「そうだな、騎士団となってからは国からの依頼を受け、ここにいる全員で協議して作戦や依頼を遂行する」

「その作戦遂行の是非は満場一致なの?」

「…いや、手を挙げた部隊が携わる」

「……じゃあ時間を少し頂戴、すぐに終わると思う」


 そう言うとジェットは事務用の机に戻り、事務をこなしている。花蓮はスラスラと図面に騎士団の現状の関係図を表し、その要所要所にメモを施している。暫く暇なので外に出ようと莽薙が席を立つと、花蓮が腕をつかむ。


「危険だから出ないで、そばにいて、すぐ終わるから」


 赤城と目を合わせてその通りにする事にした。席に座ると、花蓮は薙翔の腕から手を放して作業に再び集中し始めた。その直後には完成した様子で、ジェットを呼び出した。


「自警団が合議制なのは良いけど、規模が大きくなっては効率が悪すぎる。まずは国の直下部隊にしましょう」

「……直下部隊か」

「自警団の名残が惜しいのは分かるけど、今回こんなことになってしまった時点でそうするほかない」

「……だが、陸軍に同じような部隊があって、そこに合併されるのは御免だ」

「別働隊として残したいなら尚更改革をして功績を上げなきゃ、今までの自警団スタイルでは来れない規模まで来ているから」

「……それもそうだな、他には?」

「合議制を廃止、団長の命令で動く。役職のある隊長は部隊を解散し、事務に専念。今の軍団の規模を半減し、各部隊に隊長と副隊長を置く。副隊長は定期的に団長に部隊に報告をし、それを元に一定期間に各隊長と役員の会議を行う。」

「軍団の規模を半減、要職の軍団は解散か…」

「団長が部隊の隅々まで管理が行き届かないなら半減するしかない。ここまで大きくなると事務も大変だからそっち側に専念した方がいいと思う」


 ジェットは考えを巡らせて、どうにか現在の面影を残そうと奮闘したが遂に思いつかなかった。


「……分かった」

「じゃあ、次は人事ね」

「…ええ」

「副団長にアクセル、事務にネオンを。近衛隊は残すとして、その他の六つの隊を三つに減らす。そこに各々割り振って——」

「ま、待ってくれ……‼」


 いきなりの制止に全員が驚き、その場の雰囲気も一時的に制止された。その沈黙を堂々とジェットが破ることになる。


「…ソーレンとオーロラは今の位置のままにしてくれ」

「はぁ?あなた何言ってんのかわかって——」

「分かっているさ、反逆者を庇うなんてのはどう考えてもご法度だ。だが、あいつらにはあいつらなりの正義があった。至極真っ当で、自分の遠い昔の純粋な願望だった。それに彼らは剣を抜いてない。彼らが悪くないとは言わないが、どうか、どうにか、ならないだろうか」

「……一度裏切った者を厳密に処分しないのならば、同じことが起きる。信頼も落ちる。」

「ああ、分かってる。分かってるさ、それでも尚諦めきれない。団長の権限が強いって言うならば、私の権限で強く見張ればいいじゃないか。どうにかできないか…‼」

「……」


 花蓮は暫く黙ってジェットを見つめる。ジェットは何もせず、ただただ強く睨みつける。


「……ナギ君、赤城、帰るよ」

「え、帰るの!?」

「うん、改革をするのはジェットだから。私は提案したただけ。」


 そう言ってそそくさと部屋を出て行こうとした。


「…そういえば、何故君たちが騎士団の改革をしようと思った?」

「この事件、騎士団が頼りだからよ」


 そのまま花蓮達は出ていった。呆気に取られたジェットはもう何も言うことは無かった。ただ沈黙を一人で味わい、思い立って席を立った。


「頼りにしてくれているのなら、答えない訳にはいかないな」


 太陽が沈む寸前で部屋を出たジェットの背中は大きく薄暗いオレンジ色に輝いていた。


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