第三十話 ロドメリア
ロメリア・スチーム編
第三十話 ロドメリア
人間は誕生して「神」という存在の元、集団を維持して来た。現在においては「神」という存在は「法」に変わった。人間は「技術」を新たな武器として「神の領域に挑む時代」へと向かう。その実、人間は神という競争相手に目がくらみ、目下の問題は水面下で進んでいく。自身を神と自惚れた者の末路は悲惨である。
「——ようこそ、ローシャング王国のロドメリアへ‼」
様々な熱気を大気へと放出し、露出した歯車を止めることなく動かしている。まさに時計の中に迷い込んだような街並みが広がっていた。飛行船が着陸したのはそれらに囲まれた広場のような場所。それ以外は煙を吹きだす煙突と歯車、うっすら見える屋根と囲んでいる石畳の建物だけ。その奥からは霧が立て込んで見えない。
「ロメリア様、お迎えに上がりました」
ピンク髪の女騎士がアンティークな車を運転してやって来た。ロメリア、ソフィア、莽薙は広い後部座席にいざなわれ、他の人物は後から来た車に乗せられた。
「……凄いですね、車や煙突、歯車までこんなに揃っているとは…」
「ここは研究や探求に一途な人間のみが集まる未来都市。素晴らしい技術には国が保護して開発の援助をする。研究基質の人間は誰でもウェルカム。生活水準はどんな国よりも高く、飢餓、貧困のリスクは技術力によって低い。まさに完全無欠のユートピアよね‼」
「秩序も安定している。技術力が高いのにここまで安定しているのも興味深いわ」
「ほぇ……なんか、すげぇ国なんだな…」
車はやがて薄暗い霧を分けて進み、広場に停車した。
「…あと何分後?分かった、そのぐらいなら……」
ロメリアは何かを無線で話している。それにしても霧のせいで全く辺りが見えない。辺りを見渡すと霧の中から光が見える。それは花蓮達が乗っている車であることは分かった。
「はい、じゃあみんな、こっちむいて‼」
ロメリアの声がする方向を見ると次第に霧が風に乗って晴れていく。宮殿が徐々に姿を現し、ロメリアの姿がはっきり見えた時にはアンティークな洋館の建物群が姿を現す。
「ここがロドメリア宮殿、ローシャング王国の中心部。ここで政治、研究、経済を一括で行ってまーす‼」
『す、すっげぇ……』
全員が同じ反応をしている。中でも驚いたのはあの赤城も目を見開いている事だった。ロメリアの先に十二人の騎士が起立してこちらを見ている。そこに先程のピンク髪も居た。
「紹介しよう、こちら『ロドメリア騎士団』の皆さんです‼」
大小の十二人の騎士が霧を分けて出てくる。
「ロドメリア騎士団団長 ジェットだ」
「副騎士団長 ソーレンです。左からアクセル、ネクサ、ストライヴ、ネオン、ジュールズ、セイビア、セイジ、ヴァイオレット、リリー、オーロラです」
「……お、おお…」
そんなに名前を紹介されても名前と顔を覚えられるわけがない。取りあえず個性豊かな面々であることは間違いない。何かあったら色々お世話になるだろう。
騎士団がお辞儀して建物の中に消えて行った。その中でジュールズという青年がロメリアと共に中に入っていく。
「おーい、みんなこっちだよ‼」
ロメリアは元気よく手を振っているが、自分達は今にも蕩けてしまいそうなぐらいにクタクタ。そう言えば良く疲れると言えば——。
「な、ナミみん…」
「くぁwせdrftgyふじこlp…」
これはダメだ、人間としての器がない。
『スライムモンスターが現れた!!』
原型のない千々波を持ち上げ、ロメリアの下へと駆け寄った。流石にロメリアもびっくり
したようで、分かりやすく二度見をして先に客室へ案内した。ふかふかのベッドに寝かせる
と、スライムモンスターが今度はナメクジになり、ヌルヌルとベッドへ潜り込む。そして冬
眠を開始していよいよ出ることはなくなった。
「……今日はお休みか案内か、どっちがいい?」
「じゃあ軽く案内してもらおうかな」
「OK、ついてきて‼」
客室を出て赤いカーペットの長い廊下の果ての扉を開ける。
「ここが私の書斎でーす!」
膨大な資料は勿論、ガラス張りの壁がロドメリアの街を映している。大きな机が三つ存在し、正面は事務用で筆と印鑑、卓上照明が、右端には設計図を描くための製図台、左の窓際には三段のケーキスタンドとティーカップが外を覗くように置かれている。天井には今までに使ったのか、創案した設計図と付箋、資料やメモが空中に漂っている。どんな技術を使っているのだろうか。
「へへへ…びっくりしたでしょ、ソフィアは見たことあるよね?」
「ええ、初めて見た時はびっくりする物よ。まっ、これに限った事じゃないけど」
「そーだね、だけどここら辺の奴はまた明日説明するよ、話すと長くなるしね~」
ロメリアはそのままドアへと向かい、梔子姫の横に付くと耳元に喋りかける。
「…勿論不死鳥の事もね!」
そのままドアに出て次の部屋に向けて歩みを進める。今度は反対側の廊下の果てに移動し、ロビーの階段を下って一階へと戻る。
「向かいの建物が研究所、一階の右側が食堂だから朝ご飯はあそこね。あとは何かいう事はあったっけ……」
「朝の霧について言っといた方がいいんじゃない?」
「おお、そっだったそうだった」
ロメリアはシルクハットを被り直し、咳払いをする。
「…今から言う事は、全て本当にあった怖ぁい話でして……」
「……ええ、怖い話…私苦手なんですけどぉ…」
菊水が身震いして全員の背後に隠れる。
「ええ、そうです、あれは濃い霧がこのロドメリアを襲った時のことです。それはそれは濃い霧でして、朝日も入らずに一寸先すらも見えない……」
「私から話すけど、朝は霧が濃くなって前が見えなくなる。今日移動時にかかった霧の数倍の濃度でね。危険で方向も分からないから、朝は外には出ない方が良いってこと」
「も~‼」
ロメリアは頬を膨らませてソフィアを睨みつける。対してソフィアは嘲笑うような半目笑いをロメリアに見せつける。それを見てロメリアはさらに激昂する。
「人の楽しんでいる話に首突っ込まないでよぉ‼」
「軽く説明するだけなのに時間取る話をするのは良くないでしょ」
「でも楽しませなきゃダメでしょ‼」
「怖いもの嫌いな人もいるし、みんな長時間移動で疲れているのにこの話。本当にあなたっていい趣味しているわね」
「むぅう‼」
結局ロメリアが折れてみんなを客室へと送り返した。ソフィアは向かいの部屋、菊水と梔子姫は千々波のいる隣の部屋、ロメリアは事務室へ、莽薙は赤城と共に部屋に入る。
「疲れたね」
「そうだな」
「ずいぶん遠くまで来たね、世界一周の半分ぐらいまでは来たのかな?」
仲山王から貰った世界の地図を広げると、赤城もやって来た。新たな場所に来たときはこの地図に辿った経路に線を引いている。
「今回はテミスリンブルクからロドメリア……。ロドメリアってここかな?」
「ああ、大体そこだな」
御伽の家から始まった旅は幾多の波と雲、困難を潜り抜け来た。丁度テミスリンブルクで折り返し地点。ここからは旅の後半戦。こんな時代に世界を旅する者は多くない。何故なら自分たちが歩んできた通り、世界の各地で問題が頻発しているからだ。その中で旅に出たのだから相当な経験になっているはずだ。
「……これは」
バッグの底に紙が一切れある。そっと手を伸ばし、書いてある文字を確認する。
「…旅の意味を忘れるな」
これは自分を戒めるための言葉。どんな困難や楽しみがあっても、この旅の目的だけは忘れてはならない。父の手つかずの遺物、「世界」を知り、自身の当主としての目的と夢を探す。そして不死鳥の謎を解明する。何よりも大事なのは「僕らのユートピアを目指す」こと。そう言えば、梔子姫や千々波はともかく、みんなはどんな気持ちで旅をしているのだろうか。




