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僕らの愛しきユートピア  作者: モッツァレラ
叡智の審判編
24/40

第二十四話 求めた答え

 翌日、作戦を考えた何食わぬ顔で起床して一階へやってきた。この日も朝起きたのは梔子姫と莽薙の二人。三人でレモンティーを飲みながら少し雑談。


「……ソフィア、君ちゃんと寝たのか?」

「…正直言って……二時間ちょっとかしらね。まあ、こんなこと日常茶飯事だし……」

「二時間で疲れは取れないでしょ、寝てきなさいよ!」


 梔子姫と口をそろえてソフィアを休むように言う。しかし、ソフィアはだんまりとしながら首を横に振る。


「……今日は考えうる中で最高の作戦の準備をして、アルテミス一世の痕跡を探しに行く。今日は少し忙しくなるわね……」


 ソフィアは額を抑える。かなり疲れている。


「明日は作戦の決行日ね、私は戦わないけど、あなた達は役目があるから、コンディションはしっかり頼むわよ…」


 その前に自分のコンディションをどうにかしてほしいものだ。さっきから話している相手のソフィアと目線が合わない。地面を見つめたり、遠い空を眺めたり、天井を仰いだり、レモンティーの中を覗き込んだりと首が騒がしい。


「って事で、私は着替えたらクロヴィルに計画に伝えて明日までに準備させるから。戻ってきたら仮眠してアルテミス一世の痕跡を探す。あなた達は今日一日ぐらい休んで頂戴」


 さっきから逆に言いたい言葉だけが返って来る。だが、彼女を止められる人なんぞこの町に居るのだろうか。いざとなったら力ずくでも休ませるしか……


「それじゃあ、行ってくるわね……」



 ガゴンッ‼



 ソフィアは玄関のドアノブを掴み損ねてそのまま地面に全身を打ち付ける。


「だ、大丈夫…?」

「だ、大丈夫よ……このぐらい…」


バンッ‼


 ソフィアは玄関の扉に全身をぶつけって尻もちをつく。


「もう休んでくれえええええ‼」


 莽薙がソフィアの両脇に腕を通して持ち上げて立たせる。その後は梔子姫が肩を貸して足元が安定した。


「……こんなこと初めてじゃない、慣れているから、大丈夫、行かせて……」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ、ソフィアちゃんしか今は頼れないの!」

「だから……私が…やらなきゃ…」

「……違う、違うよ、私達は仲間、少しは仲間を頼ってよ!」

「……」

「ナギ君もそう思うよね!?」


 ソフィアと今日初めて目が合う。彼女の目は覚悟の形はしていた。しかし瞳の奥では悲鳴を上げている。


「期待以上なんて求めてない。僕たちが望むのは仲間の救出。なのに仲間が途中で倒れたら全く意味がないじゃないか……‼」


 ソフィアは残念そうに俯く。そして脱力していく。梔子姫が必死に抑えて立て直す。


「……私は…、私はずっと一人だったから……、仲間ってものが……わからない…。どの本にも…どの資料にも書いてないよ……そんなこと…」

「人によって価値観が違う物を書いても仕方ない。僕たちの価値観では君は仲間だよ」


 ソフィアは少し気が楽になったのか、足がソファーへと歩んでいく。


「……じゃあ、その仲間とやらを……使ってみましょう…」


 ソフィアがソファーに座り込むと、懐からメモ用紙とペンを用意して作戦の概要と準備に必要な物、クロヴィルの居場所を説明。説明すると隣に座っている梔子姫の膝へと倒れこむ。かなり限界だったのだろう。梔子姫の膝枕で安心して目を閉じている。


「……それじゃあ、僕が行ってくるよ」


 家われた場所に行き、クロヴィルに会う。クロヴィルとは殆ど初対面なので軽く自己紹介をし、ソフィアの事を伝える。するとクロヴィルは「いつものこと」と言って笑う。え、これって笑い事なの……?クロヴィルは「あとは任せるように」と言って自身は来た道を帰っていく。

 家に帰ると珍しく花蓮が寝間着姿で出迎えてくれた。そのことに驚く前に花蓮は人差し指を口元に当てる。よく見るとソフィアが爆睡している膝枕、梔子姫もウトウトと寝ている。花蓮と顔を見合わせてお互い微笑むと二階の客室のベッドルームへと引き返した。

 昼を過ぎた頃、ソフィアも梔子姫も起床して二階へとやってきた。ソフィアは随分と顔色は良くなった。


「……久々の休息をありがとう。早速だけど、アルテミス一世の痕跡を追跡しましょう」


 言われるがままにソフィアについていくと馬車を手配して走り始めた。テミスリンブルクから遠く離れた丘陵に馬車を止めた。緑深い山と広がる草原に小川と風が優しく流れている。


「ここはアルテミス一世が幼少期を過ごした草原。言うならば『始まりの草原』ね」

「……で、ここで何すんの?」

「痕跡を探す」

「……ちなみにアルテミス一世っていつ頃の人?」

「…ざっと二〇〇年前ぐらい?」

「そんなの見つかるわけないだろ!」

「そう焦らないで頂戴、目星はついているわ」


 ソフィアは草原の中へ消えていく。その背中を見失う前に追いかけていく。高い草木をかき分けて、その間に見える黒いコートを追う。


「…どこにその目星はついてるの?」

「『アルテミス一世の回顧録』にはこの草原の先にある一本の木の下の描写が多い。だけど聖冠の記載はない。一方で別の本、『アルテミスの功罪』ではこの草原は明記されてないけど、一本木の話は書いてある。他にもアルテミスの秘書の『イリアス日記』、『アヤメーニュ伝記』、『聖堂聖書』にも記載があった。エピソードは違うけど、何らかの手掛かりはある。」


 そしてソフィアの足が止まる。目の前に現れたのは噂の一本木。アルテミスの聖地の一つらしい。そこで勿論手掛かりを探そうと奮起するが、全く手掛かりは見つからない。そんな中、ソフィアの額を抑えて俯きながら考え事をしている。


「……ソフィア、見つからないよ……」

「ふっ、それは見つからないわよね……」


 少し笑みを浮かべているように見える。ソフィアは莽薙達を置いて一人であらぬ方向へ向かう。莽薙達はその様子を見てソフィアを咎めずについていく。やがて草木は森林に変わって直ぐに岩肌にぶつかる。そこでソフィアは振り向いて莽薙達を見る。


「ここに向かって攻撃して。私は真実を知ってしまったけど、あなた達が理解するためにはこの先に行くことが必要」

「いや……僕たちは武器だから……」

「え、私ぃ?」


 梔子姫が前に出る。ソフィアも後ろに下がって様子を伺う。


『夢幻不死煉獄』

 業火の火炎放射によって岩肌が音をたてて崩れていく。

「……え、こんなに強い火力出したつもりないけど…」

「そりゃ、土壁ならすぐ壊れる物よ」


 ソフィアは開いた空洞の前に立つ。


『事実と真実の天眼ファクターヴェリタス


 ソフィアが目を瞑り、周囲に顔を向ける。そしてソフィアは確信する。


「ここがアルテミス一世の墓よ」


 一同が驚愕する中、ソフィアは勇敢に内部へと入っていく。莽薙達も梔子姫の指先に小さな灯を出してもらいながら進む。やがて大きな石棺が現れる。しかし、ソフィアは石棺に興味を示さない。


「……いいのか?」

「それには触れない方がいいわ、皮膚がかぶれる」


 一同はその話を聞いて急いで距離を置く。


「それはトラップ、こっちが本物」


ソフィアは石棺の壁に描かれたティアラの絵に手を触れる。すると、反対側の壁が開く。


「さあ、行くわよ」


 ……かなりスムーズに進む物事。ソフィアはやっぱり人間ではないのでは。


「ついた、ここが真実の間」


 そこには豪華な彫刻が施された壁に囲まれる石棺。ソフィアは奥にある本をめくる。保存状態も良好な様子だった。何をしていいのか、何をしてはいけないのか分からないので美術館のように壁面の彫刻を眺めていた。本が閉ざされる音が鳴る。


「さて、彼女の最後についての真相、ルネのティアラの行方を語りましょうか。」


 ソフィアが本を膝において、石で作られた椅子に腰を掛ける。


「アルテミスは毒殺されたのは半分誤っている」


 アルテミスは反感によって毒を盛られたが、致死量ではなかった。だが、アルテミスはこれ以上続けても意味がないと察した。しかし、レアンダムには実権を渡したくない。そこで考えたのは相手の象徴の『ロマの剣』のみを奪う事。

 アルテミスは幼少期過ごした一本木の近くで秘書のイリアスと共に生活していた。アヤメーニュとレアンダムの間でアルテミスの画策した陰謀である「象徴の交換による和解」を履行。一部の旧臣のみがアルテミスの生存を知っていたので彼らを利用した事で成功。アヤメーニュは『ロマの剣』を手に入れた。

 アルテミスが偽物として送った『ルネのティアラ』は木製で素朴な物。昔の物であるからと言う言い訳で乗り切り、アルテミスの計画は成功。そのうちレアンダム派はルネのアヤメーニュの刺客によってティアラを壊され、今まで強がりで存在をちらつかせた。つまり事実上後継者はアヤメーニュが決めることができた。

 だが、レアンダムがアヤメーニュとの和解の甲斐もなく対立を深める。アルテミスは自身と聖冠が再び狙われることを危惧し、毒による自害を選ぶ。その時には秘書も夫も旧臣も寿命が尽き、誰も真相を知らなかった。自身の存在意義がなくなった事で自殺を選んだ。


「じゃ、じゃあ『ルネのティアラ』は…」

「もう少し聞いて」


 アルテミスは『ルネのティアラ』を幼少期に過ごした一本木に埋め込んだ。これが無ければレアンダムは絶対に勝利はできない。『ロマの剣』と二つで一つだから。だがそれは同時にアヤメーニュの勝利もできない。彼女はこの状況を聖人が現れる未来まで持っていき、自身と共にこの事実を隠蔽した。


「……それじゃあ」

「『ルネのティアラ』は存在しないのは『事実』ね。だけど、民衆は存在すると言う『真実』を認識している……」

「じゃ、じゃあ、この争いを終わらす事はできない……」

「これでは『事実』と『真実』、どっちが『現実』か分からないわね…」


 ソフィアは額を抑えながらため息を吐く。それが返答ならば、諦めるしかない。


「……争いを終わらせる方法はあるにはあるけど」

「あるんかい!」


 ソフィアは外に出ようと合図する。ソフィアは本を脇に抱えたまま莽薙達を先頭に来た道を引き返す。


「……それで、どうするんだ?」

「彼らの見る『真実』を利用すればいいのよ」


 ソフィアは梔子姫の肩を叩き、本を差し出す。


「そう言えば貴方、不死鳥の件で悩んでいたわね。栞が挟んでいるところから参考になると思うわよ」

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