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僕らの愛しきユートピア  作者: モッツァレラ
叡智の審判編
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第二十二話 叡智の夜明け

「すみません、逃がしました……‼」


 強く机を叩きつける音、石畳の壁を蹴る音、そして平手打ちの音。それが響き渡るレアンの聖堂は夜も更けてきて、ロウソクの灯も必要がない状況になり始めたはず。だがこの部屋だけはロウソクの火が必要だ。


「逃がしたで済まされるか…‼」


 それは明かりと言うよりも、体罰としてと言う話だ。


「……もういいじゃないか、ボロス騎士団長。ロウソクも最近高いんですよ?」


 やはりロウソクは明かりとして人を支えるべき道具だと感じた。だからここは止めに入る事にした。


「アメデオ大司教……彼らは逃がしたのですよ、あのソフィアを」

「確かに逃がしたのは良くないね、だけどみんな死者が復活するとは思わないから」


 アメデオはボロスの手元からロウソクを取り上げて定位置に戻す。そのままポケットから懐中時計を取り出して針を眺める。


「もう少しで日の出だからいつものようにロウソクを消してくれ、こんなことはやめてな」


 騎士団長のボロスは吹っ切れたように命令を下し、その場から立ち去ろうとする。


「ああそうだ、ボロス」


 ボロスが振り返るとアメデオが懐中時計を閉ざし、目線をこちらに向ける。


「『聖冠』は見つかったか…?」

「見つかってねえ、手掛かりも一切なしだよ…、ッたく、面倒ごとに巻き込みやがって…」

「…そうか、ならいい、『彼女』にさえ渡らなければ」


 懐中時計をポケットにしまい、手でボロスを追い払う。ボロスが不機嫌そうに部屋を後にし、アメデオはそれを見てゆっくり椅子に腰を掛ける。


「……死からの復活なんて……。」


 足元に日差しが差し込んでくる。日が上がり始めたようだ。


「まさに神のような奇跡じゃないか…ソフィア……」



 日差しが差し込んだのはアヤメーニュも同様。莽薙達は朝日に起こされ、いつものように活動を始める。花蓮を残して。二階で寝たのは良いが、ベッドが三つしか置いてないという何とも不親切設計だった。莽薙と赤城の譲り合いで、結局赤城が一階のソファーで寝ることになったのだが…


「……おう、おはよう、もうそんな時間か」

「……寝れた?」

「……眠い」


 案の定の結果だ。目の下のクマが凄い事になっている。


「俺の使ってたベッドでよければ使って……」

「すまない、そうさせてもらう」


 赤城が二階へと上がっていく。正直素直になってくれただけ彼の成長でもある。ここは素直に讃えるべきところでもある。


「あらナギ君、おはよう、起こしちゃった?」


 トイレから寝間着姿の梔子姫が出てくる。昨日寝間着をソフィアに借りたらしい。


「いや、ナッシーのせいじゃないよ、気にしないで」


 神琉王朝を出た後に船内でつけたあだ名。ナギ君とずっと呼ばれるのも癪なので、全員でお互いのあだ名をつけあった。まさかここまで定着するとは思わなかったけども。無論「ナッシー」は梔子姫のことである。


「そういえばカネチー見なかった?さっきまでいたけど…」


 「カネチー」と言うあだ名は赤城兼通。しかし本人の前で言うと鬼の形相で反応を返してくるので梔子姫しか使っていない。他はみんな「赤城」と呼んでいる。


「ああ、今自分のベッドを譲ったところだからさ……」

「ハナミは?」


「ハナミ」は菊水花蓮。名前に「菊」「花」「蓮」と花を冠する言葉が三つも使われている事から「ハナミ」。……それは別に花蓮でもよくね?


「まだ寝てるよ、いつもの事でしょ」

「そうね、ハナミはよく寝る子だから……」


 梔子姫はいつの間にかレモンティーを注いでいた。自分も一つ頼むことにしてソファーに座り込む。外は既に人が歩き始めていた。あんな夜が昨日の事だとは思えないほどに平和で牧歌的だ。


「……そういえばソフィアに色々聞くんじゃなかったの?」

「あ、そうだった。ソフィア起きてるかな……」


 そこしまってみる事にして梔子姫と軽く雑談した。軽いつもりだったが、朝食を取って食器を洗って、レモンティーを入れ直すと既に予定よりもかなりの時間が経っていた。梔子姫が着替える為に席を開けた時、やっと一人になった事でようやく気づいた。


「……ソフィア大丈夫かな」


 ソフィアは「明日の朝に質問に答える」と言っていた。だがもうすぐ朝とは呼べなくなってくる。ソフィアのあの口ぶり的に約束は破らないような人間のはず。一体何をしているのだろうか。忘れているだけならまだしも、もしもの事があっては…。

 気づいたときには三階への階段を上がっていた。三階には扉が一つしかなかった。



コンコンコン……



 返事がない…


「ソフィア…起きてるか……?」


 使い古された丸いドアノブに手をかけてゆっくり押し開ける。膨大な資料の中でソフィアは腕を枕に肩をゆっくり上下させている。どうやら死んでいる様子ではないようだ。


「……それにしてもすごい量だ」


 左の本棚三つは全て法律系の本と資料。中には他地域の事について書かれたものもある。右側の本棚の一つにも法律系が半分ほど進出している。そこから隣の本棚までがごっそりなくなっていて、一番右奥の本棚はそれらに当てはまらない本や資料で埋もれていた。

 そのまま目の前のソフィアの右側へと歩みを進める。ソフィアの机には膨大な資料と本の数々。恐らくあの本棚の無い部分だろうか、それが群れを成してタワーを形成している。これはもう小さな町の本屋ぐらいにはあるんじゃないだろうか。


「……『ルネのティアラ』『聖冠』『アルテミス一世』」


 ソフィアの手元のメモに箇条書きで書いてある。


「『ロマの剣』『バルタニアと法皇』『ルネとロマ』『宗教史』『プロレテリック』……」


 本の題名も良くわからない内容だ。ソフィアの寝顔の横にあるロウソクは完全に溶け切っている。こうゆう時って何かしらかけてあげた方がいいと思うけど、生憎この部屋にはかけれそうなものはない。

 ソフィアの胸元から落ちた剣のネックレスに目線が集中する。これがさっき本の題名にあった『ロマの剣』なのだろうか。剣のネックレスなんてそう見かける物ではない。彼女みたいな生真面目な人物も宗教を信じるのか……。


「……どこ見てんのよ変態…」


 ソフィアの赤い片目が半目でこちらを睨みつけている。莽薙は焦って弁明をする間もなくソフィアが言葉を続ける。


「棺桶開けた上に睡眠中の女性の胸を観察とは……、中々いい趣味を持っているのね…」


 ソフィアは照れ隠しを強がって頬から先の顔を腕から出そうとはしない。


「そもそもなんでここに居るのかしら、私、『三階には来ないで』って言ったよわよね…?」

「いや、その……」


 ソフィアは睨みを利かせて体勢を崩さない。しかし、喋るのは止まった。相手に弁明の機会を与えると言う彼女の計らいだろう。


「いや…別に君が悪いとは言いたくは無いんだけど、『明日の朝に質問に答える』と言ってもう昼間だから、その、昨日の事もあって、毒殺とかされていたら困るし……」


 ソフィアは自身のポケットから白銀の懐中時計を出し時間を確かめる。ソフィアはそのまま体を起こして顎を左の手のひらに乗せて立膝を立てる。半目のまま次の弁明を待っている様子だった。


「ノックはしたけど返事がないから、もしかしてと思って部屋に入った……」


 ソフィアは大きなあくびをする。だが話はちゃんと聞いている様子だった。


「部屋のいろいろな物に興味が引かれて、『ロマの剣』という本が目に入ったから、そういえばと思って、君の胸元のネックレスを観察していた……」


 ソフィアは胸元のネックレスを右手で持ち上げて自身の顔の前でゆっくりと観察する。


「でも、結果的に『三階には入った』し、『君の胸も見てしまった』。それに『棺桶も開けた』。君に危害を加えるつもりは微塵もなかったけど、こうなったのは申し訳ない…」


 莽薙は深々と頭を下げる。ソフィアは顎を乗せていた左手を額に置く。


「本当にあなたといると飽きないわ、悪い意味で」


 ソフィアは莽薙の前で席を立つ。莽薙は依然と頭を上げる気配はなかった。


「朝起きずに心配をかけたのは私の落ち度だから、今回は不問にするわ」


 莽薙は顔を上げると、ソフィアは背中を向けていた。そこからネックレスを持ち上げて肩越しに後ろの莽薙に見せる。


「貴方の思考力も評価する。このネックレスは確かに『ロマの剣』よ、それも考慮した結果ね。でも、今回で最後だから。次は許さないから。」

「…ありがとう、ソフィア」

「……分かったなら一階に居て、私は後で行くから」

「…分かった、待ってるよ」


 莽薙は扉へと歩みを進めて戸を閉める。ソフィアは莽薙が出たのを目視して胸元を見て自分の手で掴んでみる。


「……そんなに大きい方じゃないけど…、多少掴めるぐらいだし…、女の胸だったら男ってなんでもいいのかしら……」


 ソフィアは寝る前の記憶を取り戻すために机の前に立つ。


「……『ルネのティアラ』『聖冠』『アルテミス一世』、なるほど、ここまで調べたのね、及第点と言ったところかしら」


 ひとまず見終えた本を片付け始めた。溶け切ったロウソクも新しいものに交換した。その最中で鏡を見て気付く。


「…私、髪結んだまま寝ていたのね、これは失態。風呂に入らなきゃダメね」

 ソフィアはそのまま二階に降りて寝間着を取り、風呂に入浴。服を着て髪をバスタオルで巻いてカタツムリになった所で一階へ向かう。

「いや、遅すぎない!?」


 ソフィアは懐中時計を取り出して時刻を確認。起きた時間から既に軽く一時間は経っていた。


「あら、ごめんなさい、こんなつもりじゃなかったんだけど……」

「まあまあ、ナギ君そう怒る事じゃないでしょ、ハナミなんてこういう事よくあるし」

「いや、別に怒ってないけど…」


 梔子姫はレモンティーをまた啜っている。


「まあ、貴方が『寝ている私の胸を見ていた事』、なかった事にしてるから許して」

 梔子姫は含んでいたレモンティーを吹き出す。そのまま胸を押さえて莽薙を睨みつける。

「な、ナギ君、そんな淫らな目線を……女性に…⁉、私にもしてたの⁉

「いや、あの、これは誤解で……」


 ソフィアの方へ助けを求めて見るといやらしい目つきをしている。報復でもして嘲笑っているのが雰囲気で分かる。


「無かったことになってないじゃん、なんなら広まってるんですが!」

「その発言って、ナギ君がやっていたことを認めてるよね、いやああああ‼」

「ま、待って、違うって!」


 この誤解を解くのに再び三十分ぐらいかかった。結果的に昼間になり、当初の朝の約束がいとも簡単に崩壊した。いや、これはソフィアが崩壊させたようなものだろう。

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