第十九話 東進
尚志王と赤城が目を覚ましたのはあれから更に半月が経った頃だった。莽薙達は仲山王の采配を忠実にこなして、鳩海湾の秩序を取り戻しつつあった。仲山王が願った訳ではなく、莽薙達が「赤城の弟の為」という事で協力を志願した。消えそうだった火は、再び炎のように燃え上がり始めた。
「……赤城、尚志王、目を覚ましたか…!?」
莽薙が病室へと駆け込んだ。対面するベッドで会話をしている仲睦まじい家族が莽薙の視界に広がる。
「おう莽薙、久しいらしいな、俺からしたらついさっきのことなんだが……」
「さっきは…、いや、あの時は迷惑かけた」
病室から見える鳩海湾の姿は賑やかだった。それを見て尚志王が微笑む。
「国家が家族か——」
「君も紛れもなく家族の一人だよ」
莽薙の後ろから仲山王がお土産を持ってきていた。千々波の独自料理である「白珠餅」と呼ばれる和風スイーツを赤城と尚志王に振舞い、尚志王の前の椅子に腰を掛けた。それを見て莽薙も赤城の前の椅子へ腰を掛ける。
「——目覚めない事は考慮してなかったが、目覚めてよかったよ」
仲山王は瓢箪から水を盃に移して飲む。え、まさか…
「目覚めた景気づけにね、たまにはいいだろう?」
「いや、病室で飲むのは……」
「おつまみがないからさ」
「病室でもないでしょ…‼」
「いいや、尚志王の顔を見ると嬉しくてねぇ……、思い出がおつまみよ」
「……陛下、なんかキモイです」
「せ、殺生な…」
体弱い事を気にせずに酒の盃の上下運動は多くなる。途中、尚志王にも酒を誘ったが、尚志王は流石に拒否した。妥当な判断である。仲山王は瓢箪が空になるとそのまま部屋を後にした。全員の目が明瞭としない冷めた目で仲山王を見送った。
「……本当に…酒飲みに来ただけ…?」
千々波は溶礼道の布教に努め、食事の無料提供もし、その功績からお社を立てることとなった。千々波によれば「んーお社はぁー、何個目か分からないけどぉー、そんなに無かったかも」とのこと。つまり、少ないうちの一つが鳩海湾に立ったのである。
菊水は軍政に精通している家だった為、侍従を含む治安維持をする組織の再編を行った。仲山王の意見も組み入れながら、二度と同じ事を起こさないように入念に改革した。彼女は作った軍政を改革するための組織、「軍政改良局」に籠っていた為に日常生活を他の者と異にしていた。なので莽薙が度々来訪して手伝う事も多かった。
梔子姫はいつまでも白装束なのは気が引けるので、黒い和服を発注し、繊細な動きを駆使して人々に芸能を届けた。どこか瑠璃に似ている気がするが、気にしない方向でいよう。彼女は人々を支えていた文化を灰から復活させたのだ。
莽薙は仲山王の補佐としてほとんどを過ごした。その中で莽薙は「統治学」「君主論」を学ぶに至った。実例や実際にやって見せる学びは、他では得られない濃度の高い物だった。
尚志王は赤城と共にリハビリをし、莽薙の後釜として仲山王を補佐していくらしい。彼が四つ目の家族と呼ぶこの国家を、どのようにして発展させるのか見物である。
「……不死鳥について…か…?」
仲山王ならば守護神獣についても詳しい上にその他についても博識。何か知っているのではないだろうか。
「いや~…、詳しいかもしれないが、不死鳥だけっていうのは……」
「知りませんか……」
「守護神獣が主の命令に背いて行動するのは……聞いたことない。だが少し興味深いな、こちらでも引き続き調べておこうか……」
莽薙と梔子姫は頭を深々と下げて感謝を伝えると、仲山王は「ただの趣味だから」と一蹴。それ以上は分からないと感じていたが…。
「君たち、東に進むんだよね」
「ええ、そうですが…」
「世界の図書館と呼ばれる図書館がある都市がずっと東にあってね……」
「……世界の図書館、そこなら不死鳥の情報も…」
「その通り、確かそこは…」
『司法都市 テミスリンブルク』
仲山王は世界地図を出して指を当てる。相当な距離があることが伺われる。何故東に行く為だけに神琉王朝を通らなければならないのか一目瞭然だった。ここからの旅もまた長く、濃いものになりそうだ。
「別に見下す訳ではないが、糀谷家の船では小さくてここまで行けまい。私たちが大きな船船頭を用意させよう。」
「…何から何まで、至れり尽くせりで申し訳ないです」
「君たちは国家と尚志王を救ったんだ、このくらいさせてくれ」
それ以上に戦闘知識など多くを貰った。もうお礼としては十分な報酬をもらっているが、ここで謙遜しても謙遜し合う結果になる。そこで再び頭を深々と下げた。
「それじゃあ、僕たちは行きます」
大層な歓迎をされた。千々波の揃えた信者、菊水に従えた武官、梔子姫の熱烈なファン、そして長く時を過ごした仲山王、尚志王と侍女達。
「そうだ晴通」
「どうした兄貴?」
「こいつ、お前に託すよ」
赤城が託したのは龍帝の刀だった。その輝きに尚志王は見とれるが、すぐに正気を取り戻して赤城に向き直る。
「え、なんで俺なんかに……」
「俺に父の進路はこの先に受け継げない。お前が守ろうとした物、父が残そうとした物をお前が受け継いでやってくれ。」
「じゃあ、預かる事にしよう。いつか必ず返すから。」
「ああ、その刀が似合う男になれよ、尚志王さん」
あの時のせせらぎのように、これから行く道は双方違う。だけど彼は父の思いを受け継いで前途多難な道を進んでいる。今度は俺があの時できなかった親孝行をする番だ。
「出港せよ」
新たな船長は、前回よりもしっかりしていそう。逆に言うとユーモアが足りないと思うが、次期に親しくなれるだろう。
海に聳える山々と、人々の姿は徐々に小さくなる。人影が見えなくなるまでお互いが見送りを続ける。ここからが長旅になるだろう。だが、並大抵の困難では、この四人の心の炎は消え失せるようなことは無いだろう。
「赤城、ここに居たのか」
「……ああ」
赤城は冷えた緑茶を啜りながら、窓の外を眺めている。
「ナギ君、でっっっかーーーい、クジラです‼」
千々波がドアを勢いよく押し開けて入って来る。
「……赤城も来るか?」
赤城は緑茶を飲み干す。今回の答えはとても短く、清々しい回答だった。
「……そうしよう」
揺れる甲板がさらに騒がしくなる。どれだけ島から離れたのかを実感するにはちょうどいい情報だった。鯨が大きな鰭を使って器用に前に進んでいる。僕らも器用に進んでいくのが理想的だろう。だが、それだけでは旅も単調になってしまう。器用じゃなくても、直進じゃなくても、ゴールに近づけたらいい。
「…そういえば、戦ってるときさ、僕のことを『ナギ』って呼ばなかった?」
「え、言ってねぇよ」
「いやいや、言ってたわよ」
「『ナギ( -`д-´)キリッ』ってw」
「やめろ、なんかそれは違うだろ」
「えー私も見たかったですぅ……」
「千々波には見られなかったことが不幸中の幸いだな」
「ちょっと、それってどうゆう事ですか‼」
「赤城、『不幸中の幸い』って事は、お前認めたな」
「いや、言ってねえよ」
知らぬ人間が「鬼神」と呼んでいた赤城の角は自分の視界では折れ、彼を話すたびに人間らしさが垣間見られる。彼は全くもって鬼ではなかった。
雲一つない青空の彼方。朝の差し込む東の方角へ向かって前進を続ける。この旅も、この仲間たちも、いつ終わりを迎えるかは知らない。だが、少なくとも今は一つの家族のようにあり続けている事が誇らしい。家族は誰にでも、どこにでも必要だと感じた。
玉将の王政編 終
※玉将の王政編 尚志王イラスト (昔に書いた色付きの尚志王です。画力が無いのは悪しからず。)
読んでくれてありがとうございます!
実は正直言って、このお話が一番出来栄えが良くなかったです……。
どうでしょう、楽しめましたか?何か分かりにくい点があれば是非感想を書いてください‼
いや、良かった点でも書いてくれるとメンタルが保てる……(´;ω;`)
ですが、次からは名作が続くと思います‼(保証なし)
※尚志王さんからのコメント
「……今もまだ家族ってのはよくわかんない。だけど、意外と分からないぐらいがいいかもしれないな。何事も考えすぎるのは良くないって事だ。気楽にいこうぜ!」
では、次のテミスリンブルクで待ってます‼




