表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕らの愛しきユートピア  作者: モッツァレラ
第一章 玉将の王政編
17/40

第十七話 一つ目

 龍帝には愛人はいたが、妻はいなかった。彼の兄弟と称した二人も、息子と称した二人も血縁関係に無い言わば仮初の家族だった。いや、仮初とは言え、本物の家族だった。だが、血縁の繋がりを気にしてしまう事がある。別にこの仮初の家族を嫌っているわけではない。ただ純粋に、知りたかった。血縁があるという事を。


 そこで俺は龍帝の亡き後に自分の出自を調べ、神琉王朝に赴いた。大した剣技を褒められ宮廷の侍従となり、侍従長となった。そこまで来ても実の親が見つからない。だが兄弟とも呼べる仲間とも出会い、自分の余生は十分な物だと感じていた。

 やがて謀反の討伐を命令され、その仲間達と宮廷へと向かった。だが、運命は時に残酷だ。謀反を起こしたのが仲山王の指南役で従っていた「比嘉美佐子」、その人物こそ俺が探していた母親だった。

俺は憧れの存在であった「蒼樹」という男が亡くなった時に、龍帝から「蒼樹」の苗字を譲り受けていた。その為「蒼樹晴通」の名前で侍従長をしていた。だから自分の昔の名前を知る人は仲山王以外にいない。今回もいつものように仲山王の手となり足となり……


「『比嘉尚太郎』、私の息子であろう…?」


 そういわれた時は心臓が止まった。自分は全く動けなかった。自分にはこの人を殺すことはできないのだと分かってしまった。殺せば今まで、ここまでして来た意味が問われる。過去の自分を裏切る行為になりかねない。そして親殺しの兄、いや赤城と一緒になりたくない。

 仲間達が向かっていき、指南役の彼女の術中にはまっていく。自分はそれを見ているしかできなかった。そんな自分が真っ先に術中にはまっていると言うのに。


「晴通、戦え…、動いてくれ…‼」

「尚太郎、こいつらにトドメを刺しなさい」


 二つの名前と二つの家族。どちらを優先しようとか、どちらに恨みがあるわけではない。だが、もう……


「家族は失いたくない……」


 その時、涙を流して刃を振るったのは「晴通」と声がする方。過去の自分を裏切りたくなかった。過去の自分を一人にしたくなかった。向き合いたかった。仮初ではなく、本当の家族を知りたかった。龍帝を思い出したくなかった。赤城みたいに家族を切り捨てたくなかった……。

 涙も枯れ、感情も無くなり、刃を離す。ただ仲間だった彼らの血液がダラダラと、あの時のせせらぎのように、ただ自由に——。

 なぁ、赤城、親孝行ってなんだろうな——。



「赤城、大丈夫か…!?」



 なぁ、赤城——。



「ああ……、少し眩暈がしただけだ…」



 …なぁ、兄貴——。



「いや、凄い出血してるじゃないか…‼」



 兄貴は父を殺した時、どんな気持ちだったんだ……?



「バカッ、何もしなければ慣れる、それにこのくらい…」



 あの冷徹な視線は何を意味してたんだ……?



「遅いわよ、醜女しこめ

「アグッ…」

「…花蓮ッ‼」


 ……あの小娘はうちの母を殺めようとした。それで返り討ちにあって首を掴まれている。何故だろうか、母を守る気力が湧かない。立っている事が精一杯だからか…?


『獅子奮迅』……‼


 ……あの小僧は小娘を守ろうとしている。なぜ家族でもないのに守ろうと動くのか。あの小娘は赤城をおいてまで助けるに値するのか…?


「だから無駄なのよ‼」

「な、なぜ……」


 母が腕を伸ばした先にある小僧の動きが止まる。母には守護神獣は宿っていないはず…。


「ナギ、あいつの首から下げている勾玉が能力の根源だ……‼」


 ……結局歩む道は同じ、運命は選べても既視感のある結末。


「……尚志王、この小僧を殺しなさい……‼」

「……や、やめ、て…」

「……クソ、動かねぇ…」


 これまで選んだ運命はその時正しいと思った運命だ。これまで選んだ家族はその時居心地がよかった家族だ。これまで歩んできた道は……


「……晴通‼」

「やりなさい、尚志王‼」


 ……正直名残惜しいところもある。

 尚志王は非力な腕で刀を振りかぶる。


『青龍一閃』…


 だが……、経験としては正しかった。

 尚志王は、自身を尚志王と呼ぶ方を高速で切り捨てた。


「しょ、尚志王……おま、え」


 尚志王は母の身につけた勾玉を取り上げる。そして自身に身につけた。尚志王は終止母の声が聞こえないように振舞った。


「……兄弟喧嘩の邪魔をするな、ババァ…」


 莽薙も菊水も赤城もそれを見ていた梔子姫も、全員が啞然としている中で尚志王は息を整える。なんだかんだ言って、最初の義理の家族が一番楽しかった。その楽しさも、二つ目の侍従長としての家族、三つ目の血縁上の家族があってこそ分かった事だ。後悔はしていない。そして結果的に俺には家族はいなくなった。……いや、まだ残っていたな。


「さあ、兄貴、兄弟喧嘩の再開と行こうか……‼」


 赤城はその言葉を聞くと珍しく笑みを浮かべ、頭を押さえていた左手を刀に当てる。


「……フッ、お帰り、晴通。兄貴として、最後まで手加減は無しだ。斬ってやる」


 尚志王はそれに対して笑みを浮かべながら莽薙に腕を伸ばし、莽薙を軽い力で赤城の下へと飛ばす。


「お前もだ、莽薙。龍帝の借りは返させてもらうぞ‼」


 莽薙も伝染して笑みを浮かべる。


「上等だ、父の顔に泥は塗らせない…‼」


 眩暈が起きそうになりながら進む彼らは、こうしてかつての運命と因縁を呼び覚ます。数奇で偶然現れた運命と因縁、血縁の再来である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ