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僕らの愛しきユートピア  作者: モッツァレラ
第一章 玉将の王政編
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第十六話 渦巻くの双竜

 せせらぎが月光を反射して輝く中で、儚い夢を抱いて消えた無惨な父親。滴る血液を拭う信用していた者の手拭い。「他言無用」と言わんばかりのその者が見せる冷徹な視線。何もかもが最悪で、何もかもが殺風景。今からでも逃げ出したい気分だった。

 そして冷徹な視線は二度と向けられず、彼はゆっくりと闇夜に消えていった。追いかけることも無理だった。父の墓を作り、彼とは逆の来た道を歩み始める。あのせせらぎが運命の境目だった。だが、問題ない。その時消化不良だった兄弟喧嘩はこうして再び訪れた。父をその手で葬り去った兄、赤城兼通が。


「よく来たな赤城、それとその取り巻き達。そそくさと帰ったのかと思ったよ」

「消化不良のまま帰れるかよ」

「フッ、それもそうだな、血は繋がってなくても考え方は似ているんだな。」

「俺はお前の兄として、お前を止めてやらなくてはならない」


 その発言に尚志王は激昂する。手を強く握って、体を震わせながら勢いのまま立ち上がる。


「…いつまでも、俺の兄貴面をするな‼」


 赤城はあの時とは違って優しさも伺える目線を向けている。哀れだとでも思っているのだろうか。これではまるで自分が……。


「…!?」


 赤城の腰に黒く輝く鞘が見える。これは見間違えることはない。父の刀…。


「お前、な、なぜ父の刀を持ってる…!?」


 先ほどまでの怒りによる震えが、興奮と恐怖、それだけではない何かの震えに変わっていく。咄嗟に指した震える指先がそれを暗示している。


「……これは龍帝の意思を未来に進ませる為に手に入れた」

「そ、そんな、ばかな、話が……」


 その隣の青年に目が奪われる。僅かな面影、あの莽鐘の息子だ。それに気づいたとき、どれほどの恐ろしさが来たかは伝える術はない。だが、これなら悪夢にも終止符を打てるやもしれない。そう考えると震えの分だけ笑みがこぼれてくる。


「そうか、そうかそうか、龍帝の倅は御伽と組んでいたか‼」


 この爆笑は誰も抑えられまい。そして俺の策略も知らずに終わるのだろうな。ここまで赤城が龍帝に似ていると、血縁関係でもあるのかと疑わしくなる。とりあえず自身の武者震いと言う設定のこの震えと共に笑いを抑え込む。


「最早お前は兄の器でもなければ、龍帝の後継者でもあるまい!」


 侍女に合図して青龍刀を用意させる。その青龍刀はいつもより重い気がした。だが問題ない、一瞬でケリをつけてやる。


「その刀を返してもらうぞ、裏切り者‼」

青龍閃光せいりゅうせんこう』‼


 刀を抜いた瞬間から青い雷が地面を這って赤城達へと加速して向かう。


『赤龍蹄』


 赤城は鞘ごと腰から取り出し、鞘の先端であるこじりを地面に一突。赤い衝撃波は地面を伝って青い雷を相殺する。


(だが赤城は未だに抜刀していない。今のうちに間合いを詰めてしまえばしまいだ…‼)


 赤城は動揺することなく鞘から薄く黄色に光る刀身を見せ始める。だが、尚志王の打突には間に合わない。しかし、赤城は表情を一つも変えない。砂埃すらも気にしていないように尚志王を見つめ続ける。尚志王が不気味に思っていると——


『古石落し』


 菊水の薙刀の穂先が優しく尚志王の青龍刀の軌道を変える。


『獅子奮迅』


 莽薙が赤城左上からの攻撃を仕掛け、炎を纏って下がってくる。古石落しにて軌道が変わった為に尚志王の青龍刀は莽薙の斬撃を相殺できる軌道ではない。尚志王は赤城を諦めて前身をやめ、後退することで斬撃を回避する。


『抜刀・飛龍』


 莽薙の刀剣から出る炎を分けて赤城が飛び出してくる。尚志王は咄嗟に刀の軌道を修正し、打突——。後ろに下がりながら衝撃を和らげていく。そして赤城の抜刀術を初動で阻止する事に成功した。


『明鏡止水』


 振りかぶった余韻で背中を反っている莽薙の背中を使い千々波が跳躍。赤城の上から更に刺突。尚志王は勢い良く後ろへと進むことを余儀なくされた。赤城の刀から離れてしまったのは痛手だが、まだ反撃の余地はある。


『夢幻不死煉獄』


 天に上昇した梔子姫が斬撃を放つ。千々波は刺突をやめて引き返す。しかし逆に赤城が斬りかかり、鍔を競り合い、お互いの刀身を擦り合わせてきた。


(こいつ、正気か…?このままだと背後のお前の方がダメージが大きく……)


 赤城は斬撃が当たる直前になると横にステップを利かせながら刀剣を引き抜く。鍔での競り合いの反動で尚志王の刀身は自然に左へと傾いていき、業火の斬撃が鮮明に見える。


「……素晴らしい戦いだ、面白い」


 大きな火柱と共に轟音が響き渡り、静寂が訪れる。全員が定位置を崩さず、次へと備える。正に鉄壁の布陣と言っても過言ではない。

 やがて煙から傷を負った尚志王が現れる。足を大きく開き、下を向いて青龍刀を肩に掛けている。多少息が荒れているのがわかる。尚志王の顔を拝めないが、血が滴っているのも分かる。


『反響清水』


 尚志王は体勢を崩さない。しかしその瞬間に大きな波動が体に伝わり、一瞬にして全員が吹き飛ぶ。赤城や莽薙は壁に打ち付けられ、菊水は入ってきた門を貫通し外へと出される。梔子姫は飛行中の為天井へと打ち付けられ、千々波は身体が軽い為壁をも貫通して外へと弾き出された。

 瓦礫が散乱する中で、再び静寂が訪れる。しかし、その中で先に動いたのは——。


『龍王無尽』‼


 瓦礫の中から再び業火が現れる。赤城の斬撃が多数の群れを成して尚志王へ向かって飛来する。やっと瓦礫から抜け出した莽薙は痛い全身を支えながら状況を把握する。たまたまその場で落ちてきた梔子姫を受け止めた。


「ナギ君、ちょっとだけ休ませて」

「あんまり無理しないで」


 床に寝かせると梔子姫は自身の炎で回復を始めた。赤城と尚志王は「龍王無尽」によって縮まった間合いのままお互いの刀を打ち合っている。


『游雲驚龍』‼

『游雲驚龍』…‼


 莽薙はその攻撃を知っていた。その為この技が広範囲に影響を及ぼす事を危惧して刀を振る。


『獅子舞ノ渦』


 赤城と尚志王の斬撃の余波を渦にてかき消して梔子姫を保護する。余波が引いた時に菊水が門から千々波を抱いて現れた。


「……だ、大丈夫か…?」


 千々波は気絶し、菊水は頭から出血している。


「…このくらいなら私は……、千々波が不安だけど…」


 すると梔子姫が起き上がり、千々波を菊水から無言のまま預かって炎で包み込む。梔子姫の優しくも決意に満ちた眼差しは二人の戦闘意志の背中を押す。


「尚志王、この程度で負けるなんてないわよね……?」


 全員が動きを止める。奥の部屋から老けた女性が腕を組んで入って来る。豪華で派手な服を着ているが、誰もこの人が誰か分からない。


「……母様」


 尚志王の母親だとしたら赤城の母でもあるのだろうか。しかし、赤城の反応は素っ気ない。


「……尚志王、あいつはお前の実の母か…?」


 尚志王はコクッと頷く。しかし、「尚志王の親は囚われている」と仲山王から聞いた。囚われているにしては随分と豪華で自由な身分だ。何かがおかしい…。


「……なるほど、状況が読めたぞ」


 赤城は勝手に理解している。未だこちらは分からないのに。


「あの老婆が尚志王を手玉に取って、国を好き勝手にしているんだな」

「ろ、老婆ですって……⁉、尚志王、早く彼を処分しなさい」


 尚志王を見ると、先ほどと同じ人間か疑うほどに目の輝きを失っている。いや、最早人間ではない。命令を聞く忠実に聞く機械そのものだった。


「はい、母様」


 そう言うと尚志王は自身の左脇腹を青龍刀で貫く。衝撃かつ意味不明の行動に、尚志王の血液が垂れる音だけが鳴り響く。そして…


『反響清水』

「クソ…‼」


 赤城は所の衝撃波を防ぐ暇もなく先ほどのように壁へと吸い込まれる。莽薙は再び守らなければならなくなった。この攻撃は波動であるが故に実態を持たない。ならば……。


「花蓮、地面に伏せろ‼」


 言われるがままに地面に伏せる。地面に伏せれば波動は地面に逃げるはずだ。だが、少しでも波動を緩和しなければ、それでも飛ばされる可能性はある。あれをやるしか…


集炎高雅しゅうえんこうが


 仲山王に教わった技で、空気中の熱となりうる物を刀剣に吸収して瞬時に発火させる物らしい。不意打ち用で習得していたが、成功例はない。だが、これしかない。

 剣先から徐々に振動が伝わり、波動が伝わるたびにその振動は大きくなる。


「…こいッ」


 刀から火の粉が舞い始め発火。その発火の反動で刀が上へと持ってかれる。この反動で刀身を加速させるのだろうか。だが、波動は体を貫く。


「…いって、」


 その波動によって壁に叩きつけられたが、人に押された程度だったので大事には至らならなかった。赤城は頭を押さえて瓦礫から這い上がる。足取りは不安定。だが、着実に尚志王へと進めている。尚志王も脇腹から刀を抜いて構える。息はより荒くなっている。やがて赤城が先に立膝をつく。尚志王には止まる気配はない。


「…こうなったら、やむを得ない…」


 莽薙は痛みに耐えながら、菊水に耳打ちで命令を出す。話し終えるとそのまま各々の目標へと向かった。


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