第十二話 琉宮島の王将
天馬は遠い「琉宮島」へ降り立った。琉宮島は神琉王朝の最東端の島。最西端が向神島なので、相当な距離を移動したはずである。勿論名の通りその琉宮島にも「宮」がある。そのお社は立派とは言えずとも、簡素でよく手入れされている。その前に天馬が降り立った。
「少々強引になってしまったが、許してくれ」
天馬に命令していた者の声と一致した。出てきたのは杖を持った青年。尚志王はと同じぐらいの歳で、同じ背格好の人物。だが、「杖」と言う要素が貫禄を出している。
「申し遅れました。この神琉王朝の王、仲山王と申します。尚志王が迷惑をかけました。」
その自称・王の仲山王の脇から侍女達が赤城を運んで行った。あまりにも突然の出来事の連続に啞然として言葉が出ないでいると——。
「ここではなく、中で話しましょう。赤城さんはこちらで手当てしますので」
中に入ると、木材を基調とした質素な部屋が設けられていた。しかしながらよく見ると、一つ一つの置物は繊細で美しさが際立っている。さながら別荘のような社を奥へ進むと、大きなテーブルの上にジャスミン茶が淹れてあった。仲山王は奥へ手を伸ばして無言のまま莽薙達を誘導した。その笑顔に尚志王のような思惑は無いように思えた。
斜光が差す中で全員が席に着き、菊水が大きく手を伸ばして筋肉と緊張をほぐす。梔子姫は落ち着かない様子でジャスミン茶に映る自分を見ている。千々波は遠慮なくジャスミン茶を飲んで菓子をつまむ。一方莽薙はみんなの様子を見て、少しの配慮も辞さない構えでいた。そんな中で再び仲山王が入室して対面に背をかける。杖をテーブルに掛け、肘を手すりにつけて全員の様子を軽く確認する。
「さて、何から話せばいいものか……。」
「……尚志王とあなたの関係からお願いします」
そう口を出したのは梔子姫だった。その梔子姫の顔は不死鳥と向き合っていた時のように険しく、真剣な表情を見せていた。仲山王は少し間を開けてため息交じりに話を始める。
「そうだね。こうなる現況、尚志王との関係から遡ろうか。」
そう言って茶を啜って口を潤す。そのまま滑るように喋り始める。
「尚志王…彼がまだ私の部下だった時の話——。」
仲山王は生まれつき病弱で、王政の先行きは危ぶまれていた。病弱以外に簡素な所を好んだり、コレクター気質だったりと仲山王は王の素質に合わない要素が多かった。仲山王が王になった頃、尚志王がやってきた。彼は元の名を「晴通」と言った。彼は武術に優れ、仲山王に無い王の素質を補った。安心した父はその数か月後に亡くなり、母は後を追うように数日後に亡くなった。
事態が動いたのはその数年後。仲山王は病を患ってしまう。治すために一時的に津幡ノ《の》口へ移動した。その時に向神島で仲山王に対する謀反が起きて王宮が占拠された
「陛下、私が朝敵を討伐いたします」
そう志願したのは晴通だった。彼と共に仲の良い三人も連れていくことになり、仲山王も彼らなら任せられると信じて任せることにした。それが「晴通として」最後の姿になった。
次に来た情報は一か月後、仲山王の病は完治しており、晴通の帰りを待っていた頃。この事件の処遇と尚太郎の恩賞を考えて気持ちは昂っていた。
「晴通が尚志王として王位に就きました……。」
その情報に仲山王は杖を持っていたのにも関わらず、膝から崩れて無音で無心の極地に閉じ込められた。信じていた者の裏切り程、心に響く傷は存在しない。
「晴通が……。」
後から仕入れた情報だが、尚志王は謀反を起こした「比嘉」という女に操られていた。連れた仲間を三人暗殺し、彼の親に手をかけて脅した。尚志王は比嘉の傀儡にすぎない。その噂ばかりの一方的な情報だったが、それを信じなければこの心の保ちようが無かった。
「私が王将ならば彼は玉将……。私が病で鳩海湾を離れたばかりに…」
話を終えた仲山王は俯いて動かなかった。全員が目を合わせて、莽薙に目線を向けた。自分に決定権を委譲しているのだろう。心情はよく理解できるが、如何せん状況が吞み込めない。そもそもこの人物は信じるのに値するのだろうか。
「貴方が王である確証は?」
「離れの倉庫に王冠がある。疑うようなら持ってこよう」
「いやいや、そんな体ですのでお気になさらず」
仲山王を落ち着かせて席に座らせる。確かに赤城もお世話になっているようだし、疑うところは何処にもないようだ。ここまでしてもらっておいて、疑ってしまった自分が恥ずかしい。
「それよりも、尚志王は傀儡だから自ら執拗に行動する事はないと思うのですが、過敏に赤城君に反応するってのは少し異常だと感じます。何か気に入ったのかなぁ……」
「…あいつは、俺の幼馴染だ」
後ろから声が聞こえて急いで振り返る。胸を押さえて柱に寄りかかる赤城が居た。その後ろには侍女が不安そうに赤城を見つめ、なにかあった時の為に手を伸ばして準備している
「なるほどね、君もこの話に参加するかい?」
「…無論だ」
侍女が仲山王の目配せで席を用意して赤城に座らせる。そして他の侍女がジャスミン茶と菓子を赤城の前に置き、感謝を述べる間もなく去っていく。
「じゃあ今度は君と尚志王の関係を聞こうかな」
「……幼馴染で互いに技術を研磨し合った中だ。それ以上でも以下でもない。」
「そっか、過去は語れないか。ならこの後についてだが——。」
話を進める前に再びジャスミン茶に手をかける。赤城に対して遠慮なく飲むように勧めるが、赤城は手を少し上げて遠慮した。仲山王はそれを受けて何も言わなかった。
「君たちは東に行くのですよね、別に構いませんが…」
「……?」
「君たち、今の実力でこれより東の世界に通用するとでもお思いですか?」
「……それはどうゆう」
「君たちのなかで戦えるのが赤城だけって、何とも平和主義だなと見受けられましたので」
「溶礼道の教えでは喧嘩はよくありませんもん‼」
「その溶礼道という物はよくわからないが、その教えでは自衛も許されないのか?」
「そ、それは…天誅、です?」
仲山王は大きく笑う。ある程度収まると茶で口と喉を湿らせながら間を置く。仲山王は背もたれに身を預けながら、両腕を手すりに預ける。そして少し首を傾げて言う。
「じゃあ、その天誅をする為にも力は必要でしょう?」
「そう、ですね」
「だからここで訓練しながら、尚志王を倒し、次の旅へ行くのはどうかなと」
「まてまてまて、尚志王を倒すってどうゆうこと⁉」
「まあ鍛錬の成果として、後は場所を提供する代わりです。別に東に行ってもいいですが、さっきも言った通り、赤城君にだけに危険を背負わすわけにはいかないでしょう。莽薙君だってそう思ったはずでは…」
「え、なんで僕に…」
「あの時身を挺して赤城君を守ろうとしたのは君だけです。それに御伽家の次期当主、当主が力を持たずして何になのでしょう。……まあ私が言えた事ではないですが。」
口に出る言葉がすべて的を射ている。その為、言葉は出ずとも顔が上下に動いていた。他の仲間も質問するべきところが見当たらなかった。その様子を見た仲山王は少し頷きながら机を三回ノックし、侍女を呼び寄せて席を立つ準備をした。
「じゃあ、明日からここを好きに使って良いですからね。」
そう言い残し、杖を掴んで席を後にした。去り際に侍女に部屋の割り当てを伝え、侍女がそのまま部屋へ案内した。この出来事がこの先の旅の運命を決しているとも知らずに、莽薙達は部屋に入り休息をとった。




