81話 抗争後(2)
「……」
ライムはハルネの言葉を聞くなり少し沈黙した。
ハルネについて気になる点はいくつかある。
まず第一に何故この男は自分の過去に起きた事を知っているのか。
不死者の事を研究しているといえばそれで終わりなのだが……ならば何故自身の計画を止めるような真似をしたのかという点に疑問は移る。
『リバース』で計画した獣人化の不死者など研究者にとってはこの上なく楽しい研究材料に違いない。
しかしこの男はその獣人化を止める側に手を貸した。
最後の額への銃撃も三春の事しか見えていなかったが、恐らく後ろで手引きしていたのはこのハルネという男なのだろう。
「何、そう怪しまないでよ」
ハルネは仰々しく手を開きながらライムに近付き、言葉を続けていく。
ライムだけでなく背後の裕斗も警戒心を強めたが、ハルネは裕斗には特段興味が無いのかライムの目だけを見て言葉を紡ぐ。
しかし背後の裕斗は些か話には邪魔な材料であり────
「君、悪いけど少しだけ二人で話したいんだ」
ハルネは何の悪気も無いような、おおらかな口調で裕斗をライムから引き離そうとしたが、裕斗は尽かさず口答えをする。
「それは出来ません。この男を連行するのが私の業務であります。貴方のような見ず知らずの人にこの男を渡すことは断じて出来ません」
真面目で誠実。
そんな言葉が何もよりも似合うようなハキハキとした物言いと態度。
いかにも警官といった調子でハルネに言葉を返したのだが────ハルネはそんな裕斗を笑った。
「はっは!いいよいいよそんなに堅苦しくしないで。僕は明日からこの街の市長だからさ。ね、頼むよ」
肩をポンポンと叩きながらハルネは裕斗を遠ざけようとするが、裕斗はその場から頑なに動く事はなかった。
ハルネはそんな裕斗に小さなため息を吐いた後に、後ろを向いてとある人物にこちらに来いと言わんばかりに手を振った。
その人物は────
「裕斗、ここからは俺が見る。お前は他の『リバース』の輩を捕らえてろ」
「……?何でですか?」
「先輩命令だよ」
警察官。しかし裕斗にとってその警官は周りの人達と少し違う。
自分に警官としてのノウハウを教えてくれた偉大な先輩の一人。
たまに裕斗に酒を奢ってくれたりなど後輩思いであり、仕事場では誰よりも勤勉に取り組んでいる先輩が何故────
その先輩は裕斗にここを退けるように促す。
裕斗は納得が出来ていないのか、困惑を隠しきれない表情で先輩に訴える。
「コイツは俺の兄を────」
「もう一度言う」
裕斗の言葉を先輩は冷酷な口調で遮り言葉を続ける。
「先輩命令だ」
冷たい視線が裕斗に向けられる。
何故、何故、何故────尽きない疑問が裕斗の頭を巡るが、普段お世話になっている先輩に歯向かうわけにも行かず、裕斗は苦虫を噛み殺したような表情をしながらその場を歩き出した。
「信じて……良いんですよね?」
「あぁ、早く行け」
「ありがとう。これで何の躊躇いもなく話し合いが出来る」
ハルネが陽気な声で男に感謝を告げる。がしかし男はそんなハルネの口調とは真逆の冷たい空気を纏わせた表情で返事を返す。
「こうでもしないと────」
「この街で生きていけないので」




