76話 収束の始まり(5)
「持久戦に持ち込まれたらまず勝てない。一発一発に全力を注ぎ込むぞ」
蒼矢は篶成と同じく不死者では無い。
今のライムの攻撃を一撃でも食らえば蒼矢にとっては致命傷になりかねない。
蒼矢はライムの動きに細心の注意を払いながら攻撃のタイミングを伺う。
────チッ、篶成が動けたらまだ楽なんだがな。
蒼矢は隣の基仁に目を向けると小さく舌打ちをして再びライムに視線を戻す。
────何がしたいんだコイツは……
────なんで本気を出そうとしない?
幼い頃から基仁を知っている蒼矢には今の基仁に違和感しか感じ取れなかった。
基仁の剣術は誰が見てもまさに至高と言えた。
どんな物であれ刀への力の使い方や太刀筋によって断ち切ってしまう姿はもはや現代人の域を有に越していた。
さらに基仁の凄さは太刀筋だけでなく空間認識能力にあった。
適切な攻め時を逃さず、少しでも隙を見せれば刀の餌食となる。
なのに今の基仁はそれをしようとしていない。
先程からライムの攻撃を受け流すだけで自分一人で攻める事は決して無かった。
────コイツ……やっぱり何か企んでんのか?
自身の父親ではあるが基仁が何を考えているのかは全く読めない。
蒼矢は味方である基仁の動きにも注意を払いながらライムに対して戦闘の構えを取った。
「獣相手は後にも先にもこれしかなさそうだな」
「そうだな、ここで殺してやるんだから確かに最後だ」
ライムの瞬間的な動きを蒼矢は見失う事は無かった。
篶成程とは言え蒼矢の戦闘センスも大概人離れしている。
ライムの爪を駆使した右腕の振り下げをすんでのところで躱すとそのままライムの懐に潜り込み腹部目掛けて拳を振り抜こうとしたのだが────
「篶成に比べらば遅いな」
蒼矢の拳はライムの空いている左手に掴まれてしまい蒼矢は一瞬にして身動きを封じられてしまった。
────クソ!
蒼矢はすぐさま身体を器用に捻りライムの体重すらも利用して膝蹴りを入れようとしたが獣人化によって全ての神経が発達している今のライムにはその一連の流れはあまりに遅かった。
ライムは蒼矢が身体を捻ったタイミングで蒼矢の腕を離し、蒼矢が蹴りを入れる前に横から薙ぎ払うように蒼矢を吹き飛ばした。
蒼矢は地面に着地する寸前のところでうまく受け身を取ったのでそこまで激しいダメージは食らわなかったが蒼矢の顔は険しかった。
────今ここにいるメンバーであの化け物を倒せんのか?
基仁は恐らく本気を出さない。
篶成は満身創痍。
自身のスピードと打撃ではライムを倒せない。
味方陣営がこの状態なのにライムは段々と獣人化に身体を馴染ませて言っている。
正直今の状況は────絶望的と言って良かった。
────まあ、文句垂れても仕方ねえしな。
蒼矢はライムを見て小さくため息をついた後に再びライムに近付いていく。
「今の攻防で勝てないと悟れなかったか?」
「勝てない相手だからといって帰るわけにもいかねえだろ」
余裕の笑みを浮かべるライムに対して蒼矢が再び動き出した瞬間だった────
変化は突然に訪れる。
「ようやく、来たか」
基仁がボソリと呟き、工場の入り口に目を向ける。
変化はあった。しかしそれはあまりにも小さな変化だった。
何故ならそこにはたった一人のか弱い少年が立っているだけなのだから。
しかし少年の顔はどこか覚悟が決まったような清々しい顔をしており、今の少年は何処か特別な存在感を放っているように思えた。
少年の名は────




