58話 一方その頃(2)
数分前。
地上で行われている『リバース』との抗争を抜け出してきた三春は地下室を歩いていた。
地下室は換気がされていないのか明らかに湿気が高く、地下まで走ってきた三春の汗をさらに促進させた。
しかしそんな事で足を止めている暇はないので、三春はライムの言葉を思い出しながら歩みを進める。
『地下倉庫の階段から三つ目の部屋』
地下室は真っ直ぐな道が続いており、奥には裏口に繋がっていると思わしき上り階段が見えた。
もし地下室に『リバース』のメンバーが居たら三春はどうしようもできない為、足音を殺しながら地下室を歩いていく。
そして────三つ目の部屋に辿り着く。
部屋に鍵のようなものはかかっておらず、何なら少し隙間が空いている始末だった。
三春は覚悟を決めたように息を呑み込み、ゆっくりとその扉を開いていく。
地下室に存在する僅かな光が扉を開けるごとに部屋に差し込んで行き、そして三春は目的の人物を視界に捉える。
「良かった!」
三春はその人物────堺 凛を見ると思わず安堵の息を漏らした。
勿論、念の為小声である。
「んんん!!!ん!!!」
「えっ!あ!?ごめん!すぐ外すよ!」
凛は四肢と口をガムテープで粗雑に止められており、言葉を発せない為、言葉にならない言葉を三春に対して投げていた。
三春はすぐに気付くと凛の近くに寄り添い、まずは口のガムテープを外そうとする。
「ごめん、少し痛いよ」
言葉を言い終えると同時に三春はガムテープを外した。
するとすぐさま凛が小声で三春を怒鳴りつけた。
「アンタ!何で来たの!危ないでしょ!」
「あっはは……まぁ、放っておくわけにもいかなくて」
「放っておかなくてとか……」
凛は続けざまに罵詈雑言を投げ付けようとしたが、三春の屈託のない笑顔を見ると自然とその言葉が喉元で留まってしまった。
「ほんと……馬鹿ね」
「あはは……他に良い方法も無かったから」
三春は会話を続けながら凛の手足に留めてあるガムテープを解いていく。
ガムテープは割と単純にぐるぐる巻きにされているだけだったので、切り場所さえわかれば簡単にガムテープは解けた。
凛は足のガムテープを解いてもらうとその場から立ち上がり軽く制服についた埃を払いながら扉の向こうに目を向けた。
「とりあえず逃げないとね。その最中に色々聞くわ。今上で起きてるゴタゴタとなんでアンタの傷が治ってるのかとか」
凛はこの部屋に放置されていた時から壁を伝わる振動から上で何かが起きている事を察していた。
他にも三春がテープを解いてくれている際に傷が治っている点や、右手に『リバース』の象徴である青い鳥の刺青が入っている事など違和感に多々気付いていた。
しかし今はそんな事を聞いている程悠長にもしていられない為、凛はその質問を後回しに、とりあえずはここから出る事を第一優先に動く事にした。
「そうだね。僕が入ってきた階段と真逆の方向に行けば多分裏口があると思うんだ。そこから出よう」
三春はなんとなく凛の考えに察しが付いたのか、すぐに凛の提案に頷き、その場から立ち上がると凛と共に扉の近くに立った。
「来る時は特に誰もいなかったけど……大丈夫かな」
「迷ってる間に誰か来ても困るから早く行きましょ。ていうか隣の部屋に私の家を襲った奴ら居なかった?」
凛の疑問に三春は嫌な汗を掻きながら疑問で言葉を返した。
「それ本当なの……?」
「確かよ。私がここに入れられた時から隣の部屋でずっと何か話してたの。上の争いで見かけてないならまだいるかも」
「上……そういえば僕を殴った人は居なかったような……」
その答えを聞くと凛はため息を吐いた後に表情を固くさせ、緊張感を強めた。
「気を付けて行きましょう」
そういうと凛は扉をゆっくりと開けて地下通路に足を出す。
慎重に、助けに来た時の三春のように足音を極力殺しながら地下通路を進んでいく。
その後ろを三春もどうか『リバース』のメンバーに出会わないようにと祈りながら付いて行く。
一応三春は『リバース』の象徴である青い鳥の刺青を右手に入れている為、『リバース』のチンピラなら凛を連れている事を念の為という事で誤魔化せるだろう。
しかし堺家を襲った相手には三春の顔がバレているためそのハッタリは通用せず問答無用で殴られるだろう。
しかし運命の歯車とは実に悪戯に噛み合う。
凛と三春の気持ちをケラケラと嘲笑うように────
歯車は噛み合う。
「あ」
「え」
「お前ら……!」
三春達が地下通路を歩き始めた直後だった。
隣の部屋から堺家を襲撃した男が三春、凛と邂逅を果たした。
× ×




