56話 大暴れの幕開け(8)
ライムの言葉通り、修哉がライムに隙を作るなどと言うのは至難の技であった。
体格差はそこまでないとは言え身体に似合わない握力や瞬発力、そして判断力。
何よりそれに付け加えられる不死者と魔術という要因。
並大抵の人間では彼には勝てないだろう。
しかし修哉は何も無策でライムとサシをしようと言うわけでは無かった。
修哉は2012年に起きたとある事件で不死者と一度だけ会っているのだから。
その時に掴んでいた微かな記憶を修哉は呼び覚ます。
不死者にはただの攻撃は無意味である。
しかし弱点はある。
不死者と言えど怪我が大きければ大きいほど治癒に掛かる時間は増えていく。
『だから狙うなら一発で仕留めたいよね。例えば首を落とすとか、四肢をへし折るとか?後内臓系もキツいね!肋骨ごと内臓を壊されたらまあ痛いし構造が複雑だから治癒に時間がかかる!まあ、人じゃそんな破壊の仕方は無理だろうけどね!』
数年前、自身に熱く不死者に対する有効打を解いていた何処と無く頭のネジが外れていた一人の男を修哉は思い浮かべる。
あの頃はそんな奴らと殴り合いになる事なんて無いと思い適当に聞き流していたがまさかあの独り言が役に立つ時が来るとは。
修哉はそんな何処と無くイカれた不死者の事を思い出し、苦笑いを溢しながらライムにゆっくりと近付いていく。
ライムはそんな修哉を無謀な突っ込みをするつもりと判断したのか溜息を吐き、向かい来る修哉と向き合った。
修哉はそれでも止まらず、徐々に歩くスピードを早めながら身体を走るという行為に転換させていく。
修哉はそのスピードのままライムの真正面から拳を叩きつけようとしたが
ライムは勿論その攻撃を完全に見切っており目の前から再び受け止めて魔術をぶつけようとするが次の瞬間、修哉が視線から消えた。
修哉は殴る瞬間、身体を瞬時に横に移動させて、死角からの殴りを入れようとしたのだった。
しかしライムの瞬発力と判断力は凄まじく、すぐに修哉を視界に捉え直し攻撃に対する反動に備えた。
ライムは拳が通る進路に自身の腕二本を盾のように置く事で修哉の拳の衝撃を軽減したが修哉にはそれが狙いだった。
続けざま修哉は両手を防御に回してしまい、さらにはそのせいで視界が極端に遮れているライムの横腹に大きく蹴りを入れた。
ライムは若干蹌踉たような挙動を見せたがすぐに立て直し第二撃に備えた。
その時ライムは取り敢えず視界をクリアにする事と修哉に反撃の一手を加える事を目的に両手をフリーにした。
しかしそれすらも修哉の計算内だった。
修哉は蹴りを入れた瞬間に間合いを即座に詰めており、ライムが視界をクリアにした瞬間にはもう既に修哉は目の前にいた。
そして修哉は囮として左腕の拳を横から殴る様に大きく弧を描きながらライムに叩きつけた。
しかしライムは流石に見切っていたのかその拳を修哉とは逆の右手で受け止めた。
そして修哉の計算が完成する。
修哉はあえて横から殴りを入れる事でライムの視界を塞ぐ様にその腕を伸ばしていたのだった。
よってライムの視界の八割は今修哉の腕によって塞がっている。
ほんの一瞬の駆け引き、あと一秒もすればその腕はライムの視界から消えてしまうだろう。
しかし修哉はその一秒の間に勝負に出た。
修哉はライムの死角となってい腕の下から空いている右手を突き立てた。
ライムは瞬発力が高いとは言え、あまりにも早い攻撃に対してはついて行けない。
この時点でライムは詰んでいると言っても過言ではなかった。
『簡単にダメージを負わせられるなら、そうだなぁ……目潰しとか?』
修哉は人差し指と小指以外を折り曲げ、その二本を相手の眼球の形に合わせて勢いよく突き立てた。
────コイツ!
ライムは修哉の行動を理解したのか生体反射的に瞼を閉じるが修哉はその瞼ごと指を押し込み、その眼球を潰してみせた。
「お前……!」
ライムは不死者と言えど痛覚はある為、悶絶しそうな声色になりながら修哉に対して怨嗟に近しい言葉をかけた。
しかし修哉は決して手を抜く事はせずに無理矢理押し込みながらグリグリとその眼球をかき混ぜていた。
「今だ!篶成!」
修哉が声をあげたと同時に篶成は不敵な薄笑みを浮かべて勢いよくその地面を蹴った。
まさに音速。
そう言っても差し支えないスピードで篶成はライムに迫るとそのスピードのままライムの首をへし折る為に全力の蹴りを入れてみせた。
あまりのスピードにライムは反応する暇もなく鈍い音と共に宙をほんの少し舞い、蹴られた方向にある壁に激突した。
「あれじゃ回復する!篶成、肋骨を狙え!」
「肋骨?胸の辺りか?」
「あぁ、全力でな」
「ハハッ、了解」
篶成は何故肋骨なのかは聞かずに再び勢いよく飛び出した。
篶成の拳は地面に倒れそうになっているライムの胸に迫りそして────再び廃工場内に鈍い音が響いた。
────コイツら……不死者の弱点を……!
篶成の一撃によりライムの肋骨は砕け細胞内にその破片が侵入を果たす。
ある骨は肺に刺さり、ある骨は心臓に強い衝撃を与えている。
ライムはあまりの痛みに思わず意識を失い、地面に倒れ伏した。
「ナイス篶成」
「ナイス修哉」
修哉と篶成はそんなライムの前で喜びのハイタッチを交わした。
× ×




