53話 大暴れの幕開け(5)
「お前、いい身体してるけど所詮日本人だな。骨格が弱く見える。雰囲気とは裏腹に一発で沈むんじゃないか?」
トーチカは篶成と見つめ合うと、すぐさま煽り文句を口したが篶成は全く反応を示さず、ただつまらなさそうにトーチカを見つめているだけであった。
そんな篶成にトーチカは舌打ちをし、あからさまに怒気を強めていく。
「見たところ魔術師でも無いみたいだしな」
「うるせえな」
トーチカの言葉にやっとこさ篶成が反応を示したと思ったらそれは実にザックリとしていて、それでいて相手のイラつきを最大限に引き出す言葉だった。
「ハハッ。お前、原型を保てないレベルで壊────」
「あのよぉ?」
今度はトーチカの言葉を遮る形で気怠げに篶成が言葉をあげた。
「お前は俺とお喋りがしてえのか?違うだろ?殴り合いだろ?ほら、早く来いよ」
篶成は首を斜めに少しクイクイ、とさせて相手を誘う。
「弱い奴は総じて口数がまあ多いんだ。何でだ?決まり事でもあんのか?こっちも暇じゃねえんだよ。勘弁してほしいねったく」
刹那。
トーチカの身体が大きく動いた。
音速に等しいスピードで篶成に迫り、その生命活動を止める為に拳を大きく振りかぶるが────
それを見切っていたかのように篶成が軽く顔を横にずらしてトーチカの拳を躱し、すぐさまトーチカの顔が通るであろう場所に篶成は拳をセットしておいた。
トーチカは拳が現れた事に気づいていたものの自身の音速に等しいスピードを制御できる事がなく────そのまま拳に自身の顔をめり込ませた。
篶成は拳に相手の感触が伝わった瞬間少しだけ拳に力を入れて相手の頭に軽い衝撃を加えた。
その結果トーチカはその一発のみでダウンしてしまい、篶成の横に白目を剥いて倒れてしまった。
「何が起きたんだ?」
近くで見ていた『リバース』のメンバーの一人が思わず呟いた。
常人には何が起きたのか理解すらできないスピードで行われたほんの一瞬の攻防。
しかし篶成は汗を掻くどころか、表情一つ変えずにその異常な戦闘を終わらせた。
「さあ、次はお前だな」
篶成は倒れたトーチカには興味を微塵も示さずに目線を横のライムに向けた。
「少しは楽しませろよ?」
「やっぱり使えない駒だな」
ライムは篶成の言葉を聞くなりただでさえ曇っていた表情をさらに曇らせてトーチカへ鬱憤の言葉を吐いた。
「おいおい、使えない味方には容赦ないタチか」
少し同情すらしてしまう物言いに思わず修哉が言葉を投げた。
しかしライムは特にどうとも思っていないのか表情を変えぬまま言葉を返した。
「別に、コイツらは変え駒だからな。俺が信用しているのなんて昔のツレだけだ」
「人間恐怖症って奴か?もっと悪化させてやろうか?」
淡々と言葉を紡ぐライムに対してようやく篶成が楽しげな表情を露わにしながら煽り言葉を吐いた。
「やれるもんならやってみろ。俺は殺せないぞ」
その言葉を合図に篶成が勢いよく飛び出した。
篶成はやはり常人とはギアがかけ離れた瞬発力を有しており、あっという間にライムの目の前まで接近した。
すぐさま拳を放つが、篶成にとっては呆気ない形となった。
勢いよく放たれた拳は見事にライムの顔面に直撃し、そのままライムは身体を大きく蹌踉させたのだった。
しかし同時に篶成は違和感も感じ取っていた。
────手応えがねえな。
違和感を感じた直後、篶成は攻撃の手を止めて一旦相手の出方を見る事にした。
するとその違和感は篶成の視界を通して正体を表す。
────傷が付いてねえのか?
確かに篶成は渾身の一撃をライムの顔面に喰らわせた筈だ。
しかし目の前のライムにはそんな傷は見当たらなかった。
「不死者ってのは聞いてたが俺の知ってる不死者とは少し違えな。魔術絡みか?」
篶成は相手がみすみす弱点を答える事に期待などは微塵もしていないが一応疑問を投げかけた。
するとライムは篶成の予想通り質問に答えることはなく、そのまま一歩ずつ篶成に近付いていき質問の回答とは全く関係ない話を紡ぎ始める。
「所謂試練って奴かな。どうにも大きな目標の前には壁が立ち塞がる。全く嫌な物だ」
着々と近づくライムに篶成と修哉は警戒を強めていく。
「早く終わらせて────あの時の約束を果たそう」
次の瞬間、今度は逆にライムから篶成の懐に飛び込んだ。
篶成は即座に後ろに飛ぶ事でライムから一旦距離を取ろうとするが、ライムはすぐに右手を相手に翳して言葉を吐く。
「光れ、紅玉石」
その言葉の直後、ライムの右腕から赤い光が現れ、その光は熱を帯びて目の前にいる篶成の腹部に放たれた。
篶成は後ろに飛んでいるため、空中姿勢を変えることが出来ずにその攻撃をモロにくらってしまい、思わず痛みを押し殺すような声を上げた。
「魔術か!」
一連の流れを見た修哉はすぐに横から駆け出しライムに対して拳を放つが────
────何だこの手応えの無さは!?
篶成同様、修哉もライムの違和感を感じ取った。
攻撃は確かにクリーンヒットした筈だ。
しかしそのクリーンヒットした箇所が即座に戻される感覚を味わったのだ。
ライムは呆気に取られている修哉を蹴り飛ばし、体勢を崩している修哉に篶成と同じく右手を翳した。
「光れ、蒼玉石」
今度はライムの手が青い光で覆われ、先程同様熱を帯びている。
その光を修哉に向けて放とうとした瞬間だった。
ライムの横から戦車に突撃されたような衝撃が響きいた。
戦車なんてものよりは範囲も狭く、感触的にそれは人の足だとわかる。
しかしその衝撃はまさしく戦車と言っても差し支えなかった。
ライムは勢いのまま飛ばされ、地面に倒れ伏した。
すぐに立ち上がり自分が元いた場所を見るとそこには先程魔術での攻撃を食らわせた篶成の姿があった。
「ありゃ、手間かかりそうだな」
「全くだ」
篶成と修哉は再び横に並び目の前にいる厄介者を見定めた。
「行けるよな?」
「当たり前だろ」
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